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恐怖症の研究

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「なるほど、そういうことか。だけど、俺はそんなに知っているわけではないんだぞ。確かにあの時、一緒に研究していたけど、本来なら悪玉を一緒に殺せる研究もしたかったんだけど、里村研究室との間の競争もあったし、何よりも早く開発しないと、社会の崩壊を招いてしまうのを放っておくわけにはいかないと思ったのでね。さすがに人の命よりも、自分たちのプライドを優先させるというのは、無理があるからね」
 と、小林は言った。
「それはそうだと思います。それで、あの時にできなかったという事情も分かったうえで、小林さんなら、何かヒントのようなものを見つけられたのではないかと思ってですね」
 と沢口がいうと、その言葉に指先がぴくっと動いて、身体に一瞬、悪寒が走ったのを感じた。
 眉がぴくっと動いたのを、沢口は、分かった気がした。
「沢口君は、何か勘違いをしているようだね」
 と言われて、今度は沢口がハッとした。
「どういうことですか?」
 声が若干震えている、
「君は俺が里村研究員の一員だということを分かってきているのかい?」
 と訊かれて、
「はい、だから先ほども申しましたように、無茶を承知で来ていると申し上げたんです」
 という沢口に対し。
「そこまで分かっていながら来たということは、暗礁に乗り上げていて、身動きが取れなくなった。とりあえず、身動きが取れるようにするには、どこかを崩さなければいけない。そのどこかを潰すのに、そのほとんどに俺が絡んでいると思ったんじゃないかい? そうじゃなければ、こんな特攻攻撃ができるわけもない。俺はそう感じているんだが、違うかい?」
 と、小林研究員は言った。
 二人は、実際に面識があるわけでもないが、記者会見などが行われた時、お互いに数名を招待することになっているのだが、その関係で、挨拶をする程度だが、顔は合わせたことはあった。
 もちろん、話をするのは初めてなので、初対面の相手にいきなりこのような微妙な話をするというのは、本当はルール違反なのかも知れないが、敢えてそれをするのも、沢口研究員の性格と言ってもいいだろう。
 小林研究員も、そんな彼の態度が嫌いではない。むしろ好きなタイプだった。それだけに、お互いに意識しあう相手であることに違いはなかった。
「小林さんのいう通りなんですが、自分には、何か今ちょっとしたビジョンが見えているんです。それが形になるまでに、あと一押しだと思っているんですが、その部分を補ってくれるのが、小林さんから聞けるお話ではないかと思っています」
 と沢口がいうと、
「もし、俺が断ったら、どうするつもりなんだい?」
 と言われて、
「それならそれでしょうがないから、また振り出しに戻って考えます」
 と即答だった。
 確かに、切羽詰まっているのだろうが、だからと言って、焦っているというわけでもなさそうだ。もし、焦っているようなら、このまま門前払いでもいいだろうと思っていたが、そうでもないのを見ると、少なくとも、こちらにも何か有利になる情報をくれそうな気がしたので、話を訊いてみることにした。
 それを告げると、
「ありがとうございます。やはり、小林さんは僕の思っていたような人だ」
 というので、
「どういう人だと思われているんだろうね?」
 と聞きなおすと、
「小林さんは、久保議員のような人ではないかと思うんです。もちろん、いい方の意味でですけどね」
 と、沢口は言った。
「議員の久保氏というと、数年前のパンデミックの時のスポーツの世界大会で実行委員長をしていた久保さんのことかな?」
 と小林が聞くと、
「ええ、そうです。あの大会は結局、日本の態度が曖昧で、しかも、世界の実行委員会の力が増大だったので。彼らの私利私欲のために日本が犠牲になったあの時の初代日本の実行委員会の会長です。あの人は失言問題で辞任することになりましたが、あれは、結局国民が発言に過剰に反応したことで、辞任に追い込まれた形になりましたが、考えてみれば、あの人だから、世界の実行委員会に顔が利いたんですよ。その証拠にその後に委員長に担ぎ出された人や、国家の首相、さらに、主催都市の知事が腰抜けだったので、押し切られてしまった。国民のほとんどが反対だったのに、民主主義を根底から覆すことですよね。誰が得をしたのかというと、一部の利権が絡んだ連中だけで、あとは、終わってしまえば、案の定、会場は廃墟状態だったじゃないですか。結果論でしかなく、もしあのまま久保性会長をしていても、結局押し切られたかも知れませんが、ここまで日本が、世界の私利私欲に塗れた連中の犠牲になることはなかったんですよ。それを思うと、言い方は悪いですが、結果的に久保さんを追い込んだ国民の自業自得とも言えるかも知れませんね」
 と、トーンは柔らかかったが、言っている内容は結構辛辣だった。
 ただ、これは国民のほぼ全員が思っていることを言っただけで、これでも、まだマシなくらいではないだろうか。
「いや、沢口君の怒りはもっともだと思う。俺も同じ気持ちだし、俺ならもっとひどい言い方になっているはずだ。でも、沢口君にしては、結構な表現だよね。それを思うと、あの時の怒りがよみがえってきそうなんだが、君はよく冷静に分析しているね。言われてみれば確かにその通りなんだ。何も久保氏をあそこまで追い込む必要はなかったと思う。それに関しては、マスゴミの連中に一番の罪があるんだろうね。何しろ、国民を煽って、どこまでも必要以上に攻撃をしたんだ。いわゆる『自粛警察』と言われた言葉がそのままの気がするね」
「そうなんですよ。皆が我慢を強いられていたので、何か仮想敵でもなければ、やってられないという感じなんでしょうね。軍隊でいえば、士気が下がるとでもいえばいいのか。集団で何かに立ち向かっている時に一番大切なのは、士気なのではないかと思うしね。そのためには、何か目の敵にするものが必要なんだ。だから、自粛期間中に開いている店がターゲットになったり、最初の頃は、パチンコ店が集中攻撃を受けた。だけど、冷静に考えると、彼らから集団感染は起こっていないし、ほとんどのところは店を閉めてるんですよ。しかも、その状態で開いているところがあると、ギャンブル依存症の人を中心に、開いている店に、人が殺到する。これも余計なことなんですよね」
 と沢口がいうと、
「俺がその久保氏に似ているというのはどういうところでなんだい?」
 と小林が聞くと、
「小林さんは、こういうと失礼に当たりますが、よくも悪くも目立つんですよ。だから、防波堤にもなるし、下手をすると、最初に攻撃目標にされてしまう。でも、それを自覚しているのか、ちゃんと、自分が機能できない時の代役になれる人を育てているんですよね」
 と、小林は言った。
「買いかぶりすぎだよ」
 と小林が照れながらいうと、
「だから、どちらに転んでも、キーマンは結局久保さんだったように、小林さんは、いつでもキーマンなんですよ。それは一番小林さんが分かっているはず。だから、わざと目立つようなこともできるし、どのあたりで収束させればいいかということも、心得ている。そんな小林さんを見ていると、影のフィクサーのように見えるんですけど、違わないですよね?」
作品名:恐怖症の研究 作家名:森本晃次