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恐怖症の研究

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 にすぎなくなってしまうのだった。
 そのため、余計にこの研究の優先順位はかなり低いところになってしまい、国民が忘れ去ったことを掘り返すことは誰も考えなくなっていたのだ。
 それが、今回の研究で日の目を見るというのは、皮肉なことなのかも知れない。実際に研究してみると、かつてお蔵入りになってしまった研究が、今回の研究のためには必要であるということが分かったのだ。
「恐怖症の特効薬には、恐怖症を和らげるだけではなく、恐怖症になる原因が、自分の中にあるウイルスや細菌のようなものが影響していて、その部分の善玉を作りながら、悪玉を殺していかなければ成立しないという検証結果が出た」
 ということだったのだ。
「まさか、かつての研究で途中でやめなければいけなくなったことが、今になって生きてくるなど、誰が想像したことだろう?」
 と、沢口研究員は考えた。
 そもそも、最初に悪玉から善玉を作って、それをその時の細菌蔓延防止につなげようとしたのは、川村研究室の成果だった。
 ただこの時、同じ研究をT大学の里村研究室でも行われていたことを知っている人は、ごくわずかだっただろう。
 川村研究室のメンバー、そして里村研究室のメンバー、大学関係者、さらには政府高官の一部くらいであろうか。
 それ以外は緘口令が敷かれ、成功して初めて発表されるということになっていたので、川村研究室、里村研究室と、早く開発できた方がその手柄を独り占めでき、もう片方には、
「必要経費だけが与えられる」
 という過酷なものだった。
 それでも、研究室のプライドとして断ることはできなかった。研究はタッチの差と言ってもいいくらいの僅差で、川村研究室の開発が早かったのだ。
 実はこの時、里村研究室で遅れた理由が、今回行おうとしている、
「悪玉も一緒に処分する」
 というやり方を試みようと思っていたからであって、その分スピードが鈍ってしまい、それでも、悪玉を殺すというノウハウは、里村研究室が握っていた。
 実は、悪玉を殺すというノウハウは、結構難しいところがあった。それさえ見つけてしまえば、善玉を作る工程くらいは、さほど難しいものではなかったのだ。それだけに、もし里村研究室が、悪玉を殺すという工程を組み込んでいなければ、きっと最初に開発できたのは、里村研究室の方だったに違いない。
 沢口研究員は、そこまで詳しいことは知らなかったが、分かったこととしては、
「こんなに、悪玉を一緒に殺すという工程が難しいものだったなんて」
 という思いだった。
 実際に、善玉を作るというところが完成した後なので、そんなに難しくないと他の研究員は思っているかも知れないが、以前の研究にも携わっていただけに、沢口研究員は余計にそのことを感じたのだ。
 以前の研究の時に、川村教授は、ほとんど携わっていなかった。したがって、善玉を作る工程を発明したのは、川村教授ではない。実は、小林研究員だったのだ。
 そのことは大桷関係者の誰も知らないことで、川村研究室でも、本当に一部の関係者、いわゆる当事者でないと知らないことであった。
 だから、小林研究員が里村教授のところに移籍するという危機に対して、川村教授は強硬に引き留めることはできなかったのだ。
 彼が向こうにいくことで、こちらの脅威になってしまうことは一目瞭然で、研究員のほとんどが、
「本当にこれでいいんですか?」
 と教授に詰め寄っていたが、教授もどうすることもできない。
 歯を食いしばって耐えるしかなかったが、あの時、精神がよくまともだったなと思う川村教授であった。
 ただ、小林研究員は、骨の髄から研究員であった。
 余計なことはいわずに、黙々と研究を続けていた。そもそも彼にはそんな駆け引きはあまり関係ない。研究ができればそれでよかったのだ。
 ただ、時々、川村研究室で受けた自分の研究を横取りされたという悔しい思いが頭をよぎり、気を失ってしまうのではないかと思うほどに、精神状態が狂ってしまうのだった。
 そんな小林研究員に、沢口研究員から連絡が入った。
「どこかで話ができないか?」
 ということだったので、少し躊躇した小林研究員だったが、馴染みのある沢口研究員が会いたいというのだから、断る理由もないような気がした。
 打算的なことはほとんどない沢口研究員なので、話があるとしても、研究のことに違いないということで、会うことにした。

              真相の一端

 場所は、二つの大学の近くだとまずいと思ってか、敢えて、このあたりの中心都市で人に紛れるように会えばいいだろうということで、二人は駅前の喫茶店で待ち合わせをすることにした。
 それぞれ、一般企業のように、ノー残業デーというのが、週に一度あり、水曜日がその日に当たるのは、両研究所とも同じだったので、水曜日にすることにした。
 小林研究員の馴染みの喫茶店ということで、小林研究員が先に来ていたのを、
「待たせてすみません」
 と言って、沢口研究員が訪れるということであった。
「どうしたんだい? 君の方から呼び出してくるなんて」
 と小林研究員は切り出した。
「すみません、お忙しいところを。実は今うちで研究していることがあるんですが、その研究に、以前小林研究員が携わった、細菌の悪玉から善玉を作り出す工程ですね。あれについて少々お伺いをしたいと思ってですね」
 と沢口研究員は言った。
「しまった。そういうことなら、来なければよかった」
 と焦ってしまった小林研究員だったが、すぐに考え直して、
「でも、過去のことを少しでも知っていれば、この俺に聞きにくることなどないよな。それだったら、いくらでもごまかしは利くというものだ」
 と、考えたのだ。
「確かにあの時に、自分も研究者の一員としていたけど、でも、俺に聞かなくても、研究資料があるから、それを読めばいいじゃないか」
 と小林は言った。
「はい、確かにそうなんです。そして以前発表された資料を読んでみたんですが、その内容が、入り口と出口には詳しく書かれているんですが、そのプロセスが中途半端な気がしたんですよ。それで、シェルターを使って、同じように悪玉から善玉を作ってみたんですが、何かしっくりこないんですよ」
 と沢口がいうと、
「それは、想像していたものと違うものができたということなのかい?」
「いえ、そういうことではなく、想像していたものがちゃんとできて、その過程も想定外なところは一切なく、キチンとできあがっていたんですよ。でも、何かが違っているような、あるいは何かが足りないんじゃないかって思ったんです。だから、資料には過程が詳しく書かれていないのではないかとね。でも、それは書かれていないのではなく、書けない何かがあったのではないかと思ったので、無茶は承知で、小林さんに連絡を取ってみたんです」
 という沢口に、
作品名:恐怖症の研究 作家名:森本晃次