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恐怖症の研究

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 と周りの目はそう見ていた。
 沢口研究員に近づいてきたその女性は、自分よりは年下だとは思ったが、彼女を見る自分の目が小学生の頃の目線なので、下から見上げるという感覚に。違和感はあった。どうしても、戦隊ヒロインのイメージが消えることはなく、むしろ最初にそう感じてしまったことを、違う目線で見る方が無理だと言えるのではないだろうか。
「月の引力というのはすごいんですよね。潮の満ち引きだって、月が影響しているというではないですか。もっとも、月の引力以外に、時給の公転や自転が影響しているとも言われていますが、月ガ地球に及ぼす力というのはすごいですよね」
 と、彼女は言った。
「そうですね。こうやって川面を見ているだけで、そこに映っている月をすくうことができるような気がしてくるくらいですからね」
 と、相手に合わせたつもりで答えた、
「昔は月の満ち欠けで一か月を決めていたんですよね? 太陰暦というんですか? でも、私はそっちの方がロマンチックな気がして好きですけどね。月にはスケールが違うだけで、太陽に勝るとも劣らない力を秘めているような気がするんです。一歩間違えれば、地球を滅ぼすものがあるとすれば、それは月ではないかと思うほどなんです。でも、月が地球を滅ぼすというような話は実際には聞かないですけどね」
 と彼女は言った。
「じゃあ、あなたは具体的に月がどのような影響を持って地球を滅ぼすと思っていますか?」
 と聞かれた彼女は。
「そうですね。地球に近づきすぎて、衝突するとか、あるいは、月が太陽と同じ軌道になる形で、月によって太陽光が遮られ、最終的に地球に日差しが当たらずに、土星のように、凍り付いた星になってしまうとかですね」
 という突拍子もないことを言った。
「それは、また発想が飛びぬけている」
 と沢口がいうと、
「そうですね。後者の場合は、どこかにつきを操作する力が働いているんでしょうが、それが宇宙人による地球壊滅計画の一環だとすれば、SFの話になりそうですね。今までにそんな話がなかっただけでもおかしい気がします」
「でも、月を自在に操れるだけの力を持った宇宙人なら、他に一気に地球を滅ぼす道を選ぶんじゃないですか? 凍り付くまで月を太陽の軌道に乗せていれば、それがどれほどかかるのか分からないですよね。一年なのか、何十年かかるのか、何百年の単位なのか、ピンとこないですよ」
 というと、
「それでいい宇宙人だっているかも知れない。逆にあくまでも自然現象として地球を滅ぼしたいと思っていたとすれば、この間接的なやり方は、考えられないことではない」
「そんな回りくどいことをわざわざする理由は? 理由なしであれば、ただの妄想でしかないですからね」
 と沢口がいうと、
「やっぱり、研究者の方だったんですね。何となく分かっていたんですが確証がなかったので、このような回りくどい質問をさせてもらいました」
 と彼女はいう。
 まるでペテンにかけられたかのような気がしたが、そこまで怒る気はしなかった。ただ、何が目的で自分に近づいてきたのか分からないのが不気味だった。少なくとも、今研究中のチームリーダーであるという自覚があるだけに、不気味な気がした。
 本当なら、関わってはいけないと思うべきなのだろうが、なぜゆえに近づいてきたのかが気にはなるので、このまま関わらないというのも違う気がした。
 幸い、まだ頭の中で何もできていない状態なので、却って彼女の話の中からヒントも出てくるのかも知れないと思うと、このまま放っておく気にもなれなかった。
「いかにも私は研究者の一人だけど、どうして私が研究員だと思ったんですか?」
 と聞くと、
 先日、F大学で、川村研究室の記者会見があったんですが、その時、あなたに似た人を見た気がしたんです。それで気になって声を掛けてみたんですよ」
 というではないか。
「あなたはその場所にいらしたんですか?」
 と言われて、思い出そうとしたが、研究員は会場の後ろの方から前を見ていたので、後ろ姿しか見えなかった。
 しかし、もし記者の中にいたとしても、向こうも後ろを振り向いたりしない限り、こちらを確認することなどできないはずだ。あの時に後ろを振り向いた女性記者がいなかったことは分かっていた。
「それなのに、どういうことなのだろう?」
 と、不可思議な感覚しか残っていない。
「私、初村という雑誌記者なんですが、あの時、最後に私が質問したんですよ」
 と言われて、確かに最後に質問していた記者がいたが、どんな質問だったのかなど覚えていない。
 そもそも沢口は、記者会見など興味も何もなかった。あの場所には、
「研究室の一員だから」
 ということで、形式的な出席になったのだと思っているだけだった。
 だから、女性が最後に質問者だったというのを知っていただけで、どんな人だったのか、どんな質問だったのかなど、一切記憶になかった。
 言われれば思い出すかも知れないという程度だったが、彼女の態度や雰囲気を見て、
「別に思い出したくもない」
 と思うのだった。
 何か上から目線で見られているような気がして、どうも気に入らなかった。若い人の中にはマウントを取りたいという意識が強く、恫喝的に見える態度をする人がいるが、その人が本当に恫喝しようとしているかどうか、ハッキリとは分からない。
 つかさは、この間の教授の前といい、今回の沢口研究員の前といい、何しに現れたのか分からなかったが、この時のことを翌日になって思い出そうとする沢口研究員であったが、思い出していくうちに、最初は、
「夢だったのではないか?」
 という思いが大勢を占めていたが、思い出していくうちに、リアルな感じがしてきた。
 しかも、いつも上の空で聴いているので、その内容はすぐに忘れてしまっていたが、今回は忘れていないようだった。そのおかげなのか、頭の中で、何かが開け、何をどのように研究していけばいいのかという青写真は浮かんできた気がしていた。少し掟破りなのかも知れないが、
「奇抜なアイデアは奇抜であるだけのことはある」
 と思っているだけに、やってみる価値があるような気がした。
「やっぱり昨日のあの女、女神だったのかも知れないな」
 と思うのだった。

            善玉と悪玉

 気が付けば翌朝、自分の部屋の布団で寝ていた沢口研究員、途中から記憶が飛んでいて、家に帰ってきたことすら記憶に定かではない。着替えはしているし、ちゃんと布団を自分で敷いて寝ているということは、意識は朦朧としていても、本能で行動できたということであろうか。
「それにしても、あの女、何者だったんだろう?」
 と、そう思った時、忘れていた記憶が少しずつ戻ってきたような気がしていた。
 あの女との話の途中のどこかで意識が朦朧としていたのだが、あの時、意識が朦朧としてきた理由に、どういう内容だったか思い出せないが、何かの質問を受けて、それに答えられないという意識があったことで、
「都合よく気絶でもできればいいのに」
 と感じた瞬間、急に呼吸困難になってしまった。
 ただでさえ、酔った状態なのに、気絶状態になってしまうほどの呼吸困難も致し方のないことだろう。
作品名:恐怖症の研究 作家名:森本晃次