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恐怖症の研究

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 教授はその人の縄張りのようなものはわきまえているつもりだった。自分が室長とう立場にあるということもあるのだが、特に研究室のようなまわりから見るとブラックボックスのような場所であれば、余計に自分がその中の長であるという認識が強くなる。
 だから、専門的なものであったり、職人肌のように、自分の努力でつかみ取った、しかも他の人には分からない領域、つまりは聖域と言える場所での長というのは、
「冒してはならない存在」
 ということで、最高の尊敬の念をもって接するということを自覚するようになっていたのだ。
 だから、この店では誰が何と言おうとも一番偉いのはマスターである。
 いつもはそんなことを頭の中に置いている川村だったが、今日は一人でゆっくりと飲んでいた。
 すると、何やら後ろで人の気配がしたのでびっくりして振り返ると、そこには見覚えのある女性が立っていた。
「あ、あなたは」
 と、川村教授はそう言って振り返ったが、彼女は。
「先ほどはどうも」
 と言って、すぐ隣に腰かけた。
 今のびっくりは、知った顔がそこにあったからで、しかも、さっき初めてあったばかりの人で、
「まさかこんなところにいるわけはないだろう」
 と思える人だった。

           発明の目的

 彼女が隣に図々しくも腰かけるのを見ると、
「なるほど、他の男性記者に負けじと、質問をしてくるだけの度胸がありそうだわい」
 と、教授は感じた。
 明らかに目力が強そうな雰囲気であるが、ショートの髪型に目力の強さ。軽くソバージュが掛かっているようで、そのあたりが気が強そうに見えるのであろう。
 雰囲気とすれば、女優と言ってもいいくらいに美しい。美しさに気の強さはセットのようなもので、そのセットは一足す一を三にも四にもしそうな雰囲気があった。
「確か、初村さんとおっしゃいましたか?」
 と聞くと、
「嬉しいです、覚えていただけていたんですね?」
 と、さっきの会場で質問をしてきた時の凛々しさは少しなかった。
 そのかわり、かわいらしさがあり、どこかあざとさも感じられたが、気の強く見える美しさと、かわいらしさはセットではないと思われるので、どこが矛盾しているのか考えてみたが、思い当たらない。目力とあざとさは間違いなくあるのだが、彼女の性格を表す根本であり、美しさとは結び付かない。そう考えると、彼女の気の強い性格と、美しさは結び付いていると思ったが、矛盾しているところがあるのであろうか。
「ええ、覚えていますよ。美しい方は忘れませんからね」
 と言った、
 もし、彼女のあざとさが本物だったら、さらにあざとさを続けるだろう。もし、彼女の性格をあざとさが補えないのだとすれば、皮肉だということに対して皮肉で返すかのように怒りをあらわにするのではないだろうか。
 だが、彼女は、
「あら、そう言っていただけると嬉しいわ。教授から忘れられないほど美しいなんて言われると、本気になっちゃいますよ」
 という言葉を帰してきた。
 まるでホステスと客の粋な会話のようではないか。これではあざとさなのか、皮肉たっぷりなのかが分からない。
「初村さんは、お名前の方は何と言われるんですか?」
 と、知っていてわざと訊ねた。
 記者会見が終わってから、気心の知れた記者の人に教えてもらったのだが、彼なら教授の探りを入れるような言葉を他人に言ったりはしない。そういう意味では安心だった。
「つかさって言います。名前の方も覚えてくださいね」
 というので、
「じゃあ、つかささんって呼んでいいですか?」
 というと、
「ええ、ですが、プライベートの時だけですよ」
 と言った。
 ということは、
「二人の関係はインタビューする方と、される方の関係で、それ以上でも、それ以下でもない」
 という意味と、
「彼女の一緒のあざとさのようではないか」
 ということであった。
 これもホステスと客の会話を彷彿させるものではないだろうか。
 川村教授は、彼女にどちらを感じたのだろう。
「こんなことなら、さっきの記者会見の場で、もう少し彼女のことを聞いておけばよかった」
 と感じた。
 だが、気心が知れているということは、気は遣ってくれるが、こちらの感情が完全にバレバレなので、余計なことは訊くわけにはいかない。
 それでもしつこく聞くと、
「あいつな、あの記者のことが好きなんじゃないか?」
 ということで、変に勘繰られてしまうことだろう。
 もう少し若く、三十代くらいまでであれば、
「浮いた話」
 ということで、いい意味での評判になるのだろうが、さすがにこの年では、ゴシップにしかなりようがないだろう。
 今まで好きになった女性は数人いたが、一体一番誰が好きだったというのだろう? 皆それぞれに好きになる理由はあった。逆に言えば好きになる理由があったから好きになったのだ。
「じゃあ、好きになる理由がなければ、人を好きになってはいけないのか?」
 と自分に問うてみると、
「そう、好きになる人には、ちゃんとした理由がないといけないんだ」
 と答えたことだろう。
 そのあたりが、
「堅物だ」
 と言われたり、
「やっぱり、学者肌なんだな」
 と言われたりしていた。
 それが高校の頃であり、学校の成績もよかったことから、まわりからはさぞ優等生として疎まれていたことだろう。川村教授が成績がよく優等生だという自覚を持つようになったのは、高校二年生の頃からだった。
 それまでは、恋愛に興味もなく、ゲームやマンガなどを低速だと思っていた。
「皆浮かれているが、何が面白いというんだ?」
 と思っていた。
 特にゲームやマンガは今でもまったく分からない。恋愛感情もやっと高校二年生になって自覚できるようになったのだから、
「思春期が遅かったのだろうか?」
 と感じたほどだった。
 遅くとも中学時代くらいには思春期を自覚するものだと思っていたので、ゲームやマンガと同じように、恋愛感情を抱くことなく生きていくのかと思い始めていただけに、高校生になって恋愛感情が芽生えてきた時には嬉しかったものだ。
 だが、超晩生な高校二年生での目覚めは、嬉しいという思いだけで済まされるものではなかった。
「きっと人を好きになるという感情が、他の人と違っているのではないか?」
 と感じるようになったのは、まわりの連中が皆揃って、好きになるような、いわゆる可愛い人であったり、綺麗な人に対しては、別に自分が好きになるということはなかった。
 それよりも、
「どこにでもいそうなタイプ」
 と言われるような平凡な女性の中で、自分の感性で綺麗だと思う人を好きになっていたのだ。
 だから、好きになった人が誰かと被ることはない、民からは、
「川村と一緒だと、好きになる女の子が被らないから、ライバルが一人減っていいかも知れない」
 と言われていた。
 別に悪口でもないし、まさにその通りであることから、相手がもしかすると皮肉を言っているのかも知れないが、怒る気にはならなかった。
 だが、恋愛にも、
「類は友を呼ぶ」
 というのは実際にあるものなのか、川村が好きになる女性は、考え方や感性が川村に似ていた。
作品名:恐怖症の研究 作家名:森本晃次