悠々日和キャンピングカーの旅:⑦能登半島(福井県)
敦賀を後にすると、脳裏にふと、敦賀と日本の将来の姿がタブって見えた。
全盛期が過ぎた感のある日本、これからは、焦らず、しっかりとした根を持って、真似されない高い技術を活かした産業、高いレベルの文化・芸能、観光立国、きちっとした意見を世界に向けて発信できる国、他国に尊敬される生き方を持つ国への変貌が大切ではないかと、つくづくそう思う夫だ。
視点を国から一個人に向けると、セカンドライフを送っている夫は今、何か達観し始めた気もするが、以前のがむしゃらに前に突き進むステージは終わり、今を味わうステージに入った気がしている。それには「キャンピングカーの旅」がちょうど良い。
日本海に面したR8から越前海岸沿いに北上するR305に入ると、手を伸ばせば届きそうな日本海の真横を走った。反対側は急峻な海岸段丘や海食崖が続く。この陸路は永年、交通の難所だったとのことをこの状況が納得させてくれる。今でも、波が高い時は通行止めになる道とのことだが、この日は波がなく、加えて視界良好だった。
若狭湾の海は深い青緑色。水深や日差し等が影響しているものと思うが、その海の色から、どことなく寂しさなのか孤高なのか、きりっとした雰囲気を感じながら、道の駅「越前」に向かった。
この海と崖に挟まれた道はコーナーが多く、小さな岬を超すと、次の小さな岬とその手前の海、そういう景色を何回も繰り返し、且つ幾つかの漁村を通過して進んだ。R305バイパスには入らず旧道を進むとやがて、道の駅「越前」が見えてきた。海岸に近い防波堤の手前の駐車場にキャンピングカーを停めた。
ちょうどその時、日本海に夕陽が沈むタイミングで、その美しい光景を暫く見ながら、何枚も写真を撮った。数人の旅人や犬を散歩させる人たちも立ち止まって夕陽を見ていた。妻は疲れていた様で、キャンピングカーの中で休憩していた。
この道の駅の山側には「越前がにミュージアム」があり、道の駅に到着した頃はもう閉館時間を過ぎていた。明日の開館時間を待って入館してもいいのだが、その後のスケジュールに遅れが生じるため、また来ることにした。
ちなみに夫は、カニが大好物だが、妻は甲殻類アレルギーで、触れず、食べられず。このミュージアムに入るとアレルギーが出る? そういう理由で、我が家の食卓には残念ながら、カニは並ばない。夫にも食物アレルギーがあり、信州を旅しても、本場の蕎麦(そば)を食べることができない。うどんは好きなのだが・・・。
道の駅のショップやレストランの営業時間は終わっていたが、館内の「越前温泉露天風呂漁火(いさりび)」は営業中。その湯に浸かることにした。
海側の露天風呂に入ると、暗い海には幾つもの漁火が見え、この温泉の「一番の効能は“絶景”です」とのネット情報どおりの眺望に満足。思いの外、長風呂になってしまったが、妻はビールで喉を潤し、夫は野菜ジュースを飲んだ。
後日、月刊誌「オートキャンパー」が主催する「キャンピングカーの旅と温泉」というテーマの「リモート座談会」に出席することができ、夫が薦める温泉として、那須の「鹿の湯」と越前のこの「露天風呂漁火」の情報を準備していたところ、他の参加メンバーがこの温泉を紹介した。ダブってしまったが、それほど、日没後の風景が良くて、記憶に残る温泉だ。
夕食は、道の駅の駐車場に隣接したコンビニで、レンチンで食べられるパスタを買って、キャンピングカー内のレンジで温め、簡単な夕食を終えた。
その後はビデオを見ようと、インバーター(サブバッテリーの12Vを100Vに昇圧する装置)のスイッチを入れると「キュー」と甲高い音がする。サブバッテリーの電圧が低下して100Vが取れないのだろうか? 自宅からここまで360kmほど走ってきたのでサブバッテリーの充電は十分だと思うのだが・・・、そうなると、インバーターが壊れたのか? この現象を理解できないまま、どうしたものかと思いながら、ビデオを見ることを一旦中止した。
今夜の車中泊の最適なポイントにキャンピングカーを移動させようと、トイレの近くまで移動させたものの、そのあたりに停まっている数台の普通車がエアコン作動のためエンジンを掛けており、その音が少々うるさく感じたため、結局、元の場所に戻った。
キャンピングカーのエンジンを回したことで、サブバッテリーには多少の電流が流れ込んだはず、それが軽いショックになって、ひょっとしたら、インバーターの状況が変わったのではと、期待込めてスイッチを入れると、先ほどの甲高い音は出ず、普通の状況に戻った感じがした。その後、ビデオを見ることができた。
この“結果オーライ”を理論的に整理ができなかったが、キャンピングカーのエンジンを掛ければ、メインバッテリーの充電容量が十分ならば、サブバッテリーが充電されるため、それまでは、サブバッテリーの充電には発電機が必要だと思っていたが、どうも、そうではなさそうな気がしてきた。いずれにせよ、ダイネットに必要な電力とサブバッテリーの関係をしっかりと把握する手段が必要だ。
そろそろ寝ようかと、網戸の窓からは心地よい風が吹き込んでいる。台風が日本海を北上しているためなのか、少し強めの風で、エアコン無しでも、何とか夜は過ごせそう。
波の音が聞こえてくる。夫はバンクベッドで、妻はダイネットのソファーを入れ替えたベッドで、夫の鼾(いびき)から距離を置いて、夫婦は眠りに就いた。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑦能登半島(福井県) 作家名:静岡のとみちゃん