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着地点での記憶の行方

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「そうは言ってない。君が何かの理由があってこっちに来たのであれば、逆に向こうに戻る必然性があるなら戻るというだけのことだよね、ただ、その世界が本当に君のいた世界がどうかは分からないと言っているだけだ」
 相手の冷静さがこれほどゾッとするものだとは、高橋も思っていなかった。
「それは、確かにそうですが」
「それに君がこっちの時代にやってきた理由の中に、向こうの世界で嫌なことがあり、逃げ出したいと思ったりしていないかい?」
 と言われて、
「確かにそれはあったかも知れませんが、そんなのは僕に限らず、皆にもあるんじゃないですか? それに僕にだって何回もあることだし……」
 というと、
「そうなんだよね。だから、どこまでが偶然で、どこまでが必然なのか分からない。だけど、私は運命には逆らえないと思うんだ。これから先、何が起こっても、偶然かも知れないし必然かも知れないけど、偶然も含めたところで運命なんじゃないかって思うんだ」
 という国立に対して、ここまで冷静になれる彼が羨ましいし、自分もあれくらいの年齢になると、ある程度悟りが見えて、冷静になれるのだろうかと思った。
「不惑の四十代」
 というが、本当に迷わないようになるのだろうかと思うと、ここからの二十年が、相当長く感じられる。
 しかし、実際には三十年を一気に飛び越したのだ。今は二〇二一年、昭和ではなく、次の年号は平成というらしいが、それも飛び越して、令和という時代になったというではないか。三十年という月日を考えると、それほど世の中が変わったような気はしない。
 考えてみれば、昭和でも自分がいた時代から三十年前というと、まだ戦後のバラックが残った街並みで、やっと区画整理ができ始めたくらいの頃だろうか? その頃とは明らかに時代は違うが、昭和から令和ともなると、何が違うのか、人の考え方など疑問に感じてしまう。
 ただ、今やろうとしている風俗禁止令は何を意味するのか分からなかった。
「この禁止令に何の意味があるんですか?」
 と聞くと、
「これは世の中を変える起爆剤になってくれればいいと思っているんだ。徐々に厳しくしていく中で、最後に蓋を開けると、このような結末が待っていたということを世間に考えさせて、そこで政府に対しての反感を起こさせるためなんだ。風俗を禁止するとなると、女性や、真面目だと自負している人には関係のないことであるが、実際には、真面目だと自負している人の中には、人知れず風俗に通っている人もいるだろう? そういう人たちが人たちがあぶり出されてくるのさ。そうなると、それまで不満を自分で隠そうとしていた人たちが世の中の矛盾に気が付いて、政府に対して問題提起をするようになる。一種のクーデターのようなものだけど、心理的に追い詰めることになる。それが目的さ。そして、政府の方が、焦れてしまって、相手に発砲する口実を与えるようなことをするだろうね。何しろ政府の連中は特権階級だと思っていて。少々のことは許されると思っている連中が多いから、そういう連中が焦れ始めると、そもそも政府なんて烏合の衆のようなものなので、自分の保身ばかりを考えるようになる。国民を見ずに自分たちの利権を最優先に政治をするような連中だから、心理的に揺さぶるのは、そんなに難しいことではない。だから、最初、そんなに騒ぎが大きくならない程度の事件を起こす必要がある。それが、風俗を利用する人だけが困るので、たいして問題にはならないと思っていると、禁止することで、性犯罪が増えてくる。実際には、警備を強化すれば、防げるのだが、事件が増えるということは社会問題になって、政府にその矛先がいくよな? 今の政府にそれを何とかできる力もないし、根拠のある言葉も言えない。言えば言うほど、世間は騒ぎ出すからな。特にこういう性的犯罪などは男女平等の問題にも絡むから、発言するのも難しい。今の政治家はバカな連中が多いので、そのあたりを考えずに発言すると、マスコミから攻撃されて、窮地に陥るというわけさ。それが俺たちの狙いとでもいうところかな?」
 と、国立議員は言った。
「なるほど、そこまで考えていたんですね?」
「ああ、そこまでしないと、政府をぶっ潰すことはできないからな。本当にぶっ潰さなければいけない政府というのは、自分たちが危機に直面していても、言葉で乗り切れると思っているお花畑思想の連中ばかりだということだ」
 と、国立議員はいうのだった。
 そこまで聞くと、もう高橋には反対する意識はなかった。
 高橋は、今回の計画とは別に、いや、今回の計画を分かっているから余計に、あすな嬢に会ってみたくなった。さっそく予約を入れて、会ってみることにした。

              大団円

「こんにちは」
 と、部屋に入って声を掛けると、彼女は急に真顔になった。
「高橋さんですね?」
 と言われて、
「ええ」
 と答えると、
「国立さんからお話は聞いています。あたなが来たということは、いよいよ計画の実行ですね?」
「ええ、そういうことになります。あなたはどうされるんですか?」
 と聞くと、
「私の運命は、決まっていると思っています。そして、その運命には抗えない、というよりも、この運命は私も望んでいることで、この運命が変わってしまうと、世の中が変わってしまう。そのことは、高橋さんには分かっていると思います」
 というではないか。
 どうやら、国立議員に聞いたのか、高橋が過去からやってきた人間であるということを分かっているようだ。何もかも分かっていて、さらに、自分の気持ちに正直に話しているのだとすれば、ここは、彼女のいうことに間違いはないと思うしかないだろう。
「私は、あなたとは一心同体のような気がしているんですよ」
 といきなり言われて。
「えっ? 今日が初対面ですよね?」
 とさすがに高橋もビックリした様子だった。
「そうですよ。でもね、本当に自分の運命の人と出会うと、その瞬間、電流が走ったような気持ちになるらしいんですよ。そして、私にはその気持ちが強い。だから、あなたとは運命共同大という思いもするくらいなんです。私には、自分の未来が見えるんですよ。あなたとの未来が、そして、あなたは、私に出会うために、未来に来てくれたんだって私は思っています」
 とあすなは言った。
 その言葉は、まるで宗教団体の教祖から直接洗脳でもされているかのような感覚だった。
――洗脳されるのって、こんな感じなんだろうか?
 と感じたほどだが、洗脳という言葉は、高橋の一番嫌いな言葉だった。
 高橋は、過去の世界で、宗教団体が嫌いなわけではなかった。洗脳などというのも実際には信じていない。
作品名:着地点での記憶の行方 作家名:森本晃次