小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

着地点での記憶の行方

INDEX|15ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 浚った人間をどのように利用するかである。
 労働力として、奴隷のごとくこき使うのか、それとも、労働力はロボットに任せるとして、浚ってきた人間を種馬にして、子孫を残すために利用するというのか、とにかく、分かっているのは未来には、老人ばかりが残ってしまった、いわゆる今でいう「少子高齢化」の波が訪れているということだ。
 この特撮番組が放送された頃には、まだ少子高齢化などという問題の種もなかったことである。高度成長時代で、
「子供をどんどん産め」
 という時代だったのだ、
 さらに、未来の労働力にしても、ロボットが開発されていて、労働力の問題はロボットにやらせれば問題ないと考えられていたのではないか。
 ただ、その頃には、すでに、
「ロボット工学三原則」
 という考え方は存在していて、安易なロボット開発はできないということは考えられていた。
 しかし、それでも、半世紀もあれば、それらの問題はクリアされているだろうと思われていた。それだけ、半世紀前というのは、明るい未来しか見えていなかった、
「古き良き時代だった」
 ということなのだろう。
 その特撮の話と、当時のSF小説が酷似しているもので、もちろん、特撮の盗作ではないかと思われるほどであったが、小説の方は、その話はあくまでも、導入部でしかなく、本編は、まったく違う恋愛物語だったのだ。
 時代を超えた恋愛というべきで、ある意味新しい試みであったが、自分が就職活動をしている間、収束活動をしていて、内定をもらった人間の何人かが行方不明になっているということは、知る人だけは知っているが、決して公にしてはいけないことだった。
 なぜその秘密を高橋が知ることができたのかというと、内定をもらえなかったのだが、二次面接の帰りに、トイレに寄った時、トイレの中から、何やらヒソヒソ話が聞こえてきた。声は小さかったが、こんな重要なことをトイレで話すなんて不用心なと思うほどだったが、まるで自分に聞かせたかったのかも知れない。いや、大っぴらに聞かせることで、相手に、
「そんなバカな」
 と思わせるのが目的だったのかも知れない。

               風俗抑止条例

 元々、風俗に対しての考えは、賛否両論であった。令和三年時点では、以前と比べれば風俗に対しての考え方は、かなり柔軟になってきていた、
「結婚する人が減ってきていたり、離婚率も増えてしまっていることから、男性の欲求不満の解消にも、性風俗は必要だ」
 という意見が出てきたからだ。
 確かに、昭和の終わり頃、今の名前のソープランドに変わった時、風俗営業法が整備され、ソープランドの営業に対して、確固たる指針が示されたことで、逆に市民権を得た。ソープランドに名称が変わる前は、
「トルコ風呂」
 という名前だったが、これは、本来の意味としては、特殊浴場のサービスに使うお風呂が、トルコという国のお風呂のようだということでの命名だったのだが、トルコ人の青年が、
「トルコという国に対してのイメージを損ねるので、改名をしてほしい」
 と訴えたことで、名称変更になったのだった、
 実はちょうどこの頃だっただろうか、性風俗業界に限らず、この前後にも性生活、あるいは医療関係の問題で、同じくウイルスによる感染問題が世界的な問題となった。いわゆる、
「エイズウイルス問題」
 というものであり、このウイルスには大きな問題が秘められていた。
 一番大きいのは、致死率の高さだった。
 発病してしまい、他の病気と併発すれば、ほぼ死に至るというくらいのもので、何しろ他の病気の免疫効果を失くしてしまうのだから、それも無理のないことだった。
 そして、この病気の恐ろしさのもう一つは、
「潜伏期間の長さ」
 だったのだ。
 もし、ウイルスが入り込んでから発病までに、五年から十年が掛かると言われている。もちろん、発病しない人もいるだろうが、まるで身体に爆弾を抱えているようなものだった。
 ただ、この病気も解明されていくうちに、だいぶ、状況も変わっていった。
 まず、この病気は空気感染するものではなく、基本的には、
「体液感染」
 であった。
 つまりは、血液であったり、精液によっての感染であった。危険なことの例として、
「注射針の使いまわしなどによる血液感染」
 あるいは、
「性行為による精液の感染」
 などであった、
 実際に、今では注射針は、一人に一度使用すれば、交換すること、あるいは廃棄に関しても、間違って、清掃員などに刺さらないようなマニュアルに沿った廃棄方法などを厳守するように、法律でも定められている。
 エイズが流行り出したことには、
「薬害エイズ問題」
 などという訴訟があったりして、大きな社会問題であった。
 精液の感染という意味でも、当然、風営法に守られるべき、ソープランドなどのように、性交渉を商売にしているところでは、エイズ問題は大きなものだった。
 ただ、避妊のためのゴム着用をせずに、その分、サービス料が高いという店が存在するのも事実だった。
 本来なら、その頃に、
「店側の避妊」
 ということを徹底させる法律ができていてしかるべきだったのに、何をいまさらになってそのような条例を成立させようというのか、反対派にとっては、訳が分からないところであった。
 それでも、今回のパンデミックで、県議会も国民の大半が、
「伝染病というのは、本当に恐ろしい」
 という過剰なまでの意識が植え付けられてしまっていた。
 そこで改めて、県議会が、
「ソープランドの経営に対して、批判的な意見が噴出してきたことを踏まえて、避妊の義務化を条例での制定を目指します」
 という意見を聞いて、
「いまさらだが、エイズに関しての恐ろしさもあるので、賛成だ」
 という人が増えてきた。
 もっとも、それらの意見は、ソープを使用しない人がほとんどであったが、利用する人の中にも、エイズウイルスに対しての脅威に、今回の伝染病禍においての不自由な生活をしいられたことで、あらためて、考えさせられる気がしていたのだ。
 要するに、性風俗にも、さらなる徹底が必要だという考えであった。
 さらには、経営者側でも、それほどこの条例の成立に関して、目立った反対はなかった。そもそも、経営者側では、女の子や客の安全という観点から、本当は避妊をさせるのが当然だとは思っていたが、少しでも利益を得ようとすることで、欲を出していたのだ。
 だが、それが条例となると、皆が従わざるおえない。そうなると、皆一律ということになり、必要以上に利益にこだわることもなくなり、当初は利益が減るかもしれないが、そこはしょうがないということで、長い目で見れば、それもいいのではないかと思うのであった。
 その条例は、結構早く議会を通過し、翌年には施行されることになった。
 その頃には大きなパンデミックは、一応の収束を見ていて、もちろん、ウイルスが消滅したわけではないが、ワクチンだけではなく、特効薬の開発もされ、ある程度その正体も判明してきたことで、世の中もだいぶ落ち着いてきていた。
作品名:着地点での記憶の行方 作家名:森本晃次