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有双離脱

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 如月は見ている限り耽美主義と言われても、別に嫌な顔はしないような気がするが、もう一人の常連はどのように考えているのか、気になるところであった。
「僕は昔、小説を書きたいと思ったことがあったんだけど、気が付いたら、頭の中の発想が、猟奇的だったり、異常性欲だったりして、ビックリしたことがあったんだけど、今から思えば、その思いを断ち切らずに書けばよかったかも知れないって、今では思っているんだ」
 と、俊介は言った。
 確かに俊介は小説を書きたいと思った時、どんな話にしようかと考えると、結構、ホラー的な話になっていることがあった。別に妖怪が出てくるわけではないのだが、何か不思議な世界に入り込んでしまったりする話だった。
 そもそも、ドラマや映画では、怖い話は苦手だったはずなのに、どうしてなのか、自分でもよく分からなかったが、その後で考えてみると、その意味が分かった気はしていた。
「書けばよかったのに」
 と言われたが、
「いや、あの時は自分でこんなことを頭に描いていると思っただけでも、気持ち悪くなったくらいだったんだ。自分がどうかしてしまったのかと思ったよ」
 というと、
「いや、異常性欲も、猟奇的な感情も、皆心の奥に閉まっていて、表に出さないだけなんじゃないか? 時々猟奇的な話がニュースであるが、それも、たまたま溢れてきたんじゃないのかな? だって、何か災害が起こった時など、その後には結構そういう猟奇的なものが多いだろう? それは、きっとPTSDのようなもので、後天性のストレス障害が起こるから出てくることで、それって、ストレス障害は皆持っているかも知れないということだよね? つまりは、トラウマというのは、ストレス障害が起こった時に、一緒に生まれるわけではなく、潜在的に持っているものが表に出てくるからなんじゃないかって思うんだよ。そういう意味では、皆、オカルトやホラーのような話を書ける素質を持っているんじゃないかと思うんだ」
 と、マスターが言った。
「じゃあ、五月雨君は、どういう小説を書いてみたかったんだい?」
 と訊かれて。
「僕は、恋愛小説だとか、ドラマに出てくるようなトレンディドラマの原作になるような話を書いてみたいって思ったんだ。ドラマを見ている時は、何となく自分でも書けそうな気がしているのに、実際に原稿用紙に向かうと、まったく書けなかったんだよ」
 というと、
「パソコンで書けばいいじゃないか」
 と言われたが、
「パソコンは苦手なんだよ。指に集中しなくてもいい分、何か変なプレッシャーを感じちゃって、思ったことを言葉にする前に、前の言葉を書いてしまうので、追いつかないのではなく、追いついてしまうという感じかな?」
 というと、マスターが、
「それが書けない理由なのかも知れないね。実は私も学生時代に、小説を書こうと思ったんだよ。今からもう、二十年くらい前になるかな? 当時はパソコンというよりも、ワープロと言った方がよかったかな? ワープロだと、ある意味大げさな機会が目の前にあるという感じで、却って緊張してしまって、気が散って書けないんだよ。きっと、パソコンで書くのと同じ感覚なのかも知れないな」
 と言った。
「まさに、その通りかも知れないですね。書き始めって、結構気が散るものなんですよね。少しでも書けると、自己満足に浸ってしまうのかも知れないと思いました。だから、すぐに気が散ってしまって、他のことを考えると、せっかく今まで繋がっていた話の内容を忘れてしまっていて、先が続かなくなるんです。どうしてなのか分からなかったんですが、最近では分かってきました」
 と、俊介が言った。
「それはどうしてだい?」
 と、マスターが聞くと、
「実は少しでも書けているということは、その間、自分でも分からないほどの集中力なんじゃないかと思うんです。だから、少し書いて気が抜けてしまうと、集中力が一気に下がり、そして、その間、自分の書こうとする小説の世界に入り込んでいるにも関わらず、気を抜いてしまうから、せっかく繋がっていた内容が、そこで途切れてしまうんですよね。でも、その時は、すぐに思い出すと思うんですが、一度途切れた集中力の中の世界には、二度と戻れない。それはまるで、一度見た夢の途中を見たいと思って、眠りについても、絶対に同じ夢を見ることができないのと同じ感覚ではないでしょうか?」
 と、俊介は言った。
「うん、うまいことをいうね。まさにその通りだと思うよ」
 とマスターは言うのだった。
「ところで、最近、僕は気になる女性がいるんですが?」
 と如月が言い出した。
「ほう、誰なんだい?」
 とマスターが言ったが、マスターには分かっているのかどうなのか、何となく分かっているような気がしたから、興味本位っぽく聞いたのかも知れない。
 俊介にはそれが誰なのか、創造もつけば、最初から分かっていたような気もする。
「実は、この間、ここで少しだけお話した、砂土原典子さんなんです」
 というと、少し顔を赤らめていたが、俊介とすれば、
「やはり」
 と思うのだった。
 そもそも、如月の女性への趣味はよくは分からなかったが、二人が話をしているのを見ていると、積極的なのは典子の方で、如月はまんざらでもないと思いながらも聞き手に回っていたのは、どうも、自分が芸術家で、相手が、
「芸術家としての自分のファン」
 だという意識もあったからだ。
 最初からがっつくようにすると、相手を不安にさせ、ガッカリさせることになるのではないかと思った如月は、会話の中でなるべく自分から話しをしないで、相手がどれほど自分に対して前のめりなのかを見ることで、自分への気持ちがどれほどのものなのかを判断しようと思っていたのだ。
 典子は本当に自分のファンのようだった。素人なのに、ファンがいるというのは、芸術家として、一応認めてくれる人が存在するという何よりも嬉しいことで、本来なら恋愛感情など、感じてはいけない相手だということも分かっているつもりだった。
 しかし、その感情を浮き上がらせるのも、隠そうとするのも、恋愛感情を持っているかどうかであるのだが、その時は、ファンとして見てくれているという気持ちから、一歩下がったところでの、
「大人の対応」
 ができたと思っている。
 しかし、次の日から、いや、その日彼女が帰ってから少ししてからなのかも知れないが、如月の心の中に変化が起こってきた。
 それまでも無口だったが、さらに無口になっていた。
 まわりから見ていると、明らかに集中しておらず、絶えず何かを考えているように見えた。
 そもそも如月は、絶えず何かを考えているようなタイプであったが、それ以上に集中力の欠如が感じられた。
「今話しかけたら、トンチンカンな回答をするに違いない」
 と思うのだった。
 こんな如月を俊介は久しぶりに見た気がした。それがいつだったのかを思い出してみると、
「そうだ、あれは中学時代だったかな?」
 友達になって少ししてからのことだったと思う。
 如月は明朗な性格だったので、絶えず誰かに話しかけるタイプだったのだが、その時だけは、話しかけたとしても挨拶程度で、それも明らかに上の空の挨拶だった。
作品名:有双離脱 作家名:森本晃次