有双離脱
制服というと、一番は女子高生の制服で、ブレザーなのかセーラーなのかというのが問題であるが、それ以外では確かにナース服には気になっていた、
中学生の頃に体調を崩して病院に行った時、看護婦さんが点滴を打ってくれたのだが、その時にベッドに横になって見上げた看護婦さんの顔が眩しくて、さらにシルエットのように浮かぶナース服に、ドキドキした気がしていた。
体調の悪い時に頭がボーっとしていながら、血液が逆流するかのような興奮を覚えるというのは、ある意味快感でもあったようで、なすがままになっている自分が、まったく動けず、いいなりになっていることに覚えた快感は、
「俺って、Mじゃないのかな?」
と感じたものだ。
その頃は、ちょうど思春期の最初の頃だったので、まだ感情をどう表現していいものか分からなかったが、分からないまでも興奮していたのは間違いのないことで、その気持ちが、身体を支配していた。
征服フェチという言葉を聞いたのは高校生になってからであり、その時には言葉を聞いてすぐに、
――俺は征服フェチなんだ――
と感じたものだった。
制服を着ている女性を目で追ってしまっても、追っかけていることに最初は気付かない。下手をすると、まわりからの、
「あの人、怪しい」
という視線に気づいて、ハッとしてしまうこともあるだろう。
だから、自分が制服フェチであることに気づいた時、今度は初めてまわりの視線を気にし始めた。最初はまったくまわりの視線を気にしていなかった自分が、気付いてからは恥ずかしくて仕方がなかった。
「ひょっとすると、自分が気付かないだけで、まわりから、変態呼ばわりされているかも知れない」
と感じた。
そう、これはあくまでも、
「よばわり」
の世界である、
俊介としては、制服フェチを、
「変態の領域ではない」
と思っている。
確かに変態には見えるであろう。もし自分が逆の立場で見れば変態だと思うに違いない。それだけに、自分の制服フェチが、いかにも変態だと思っている自分の感覚にかぶってしまっていることが恥ずかしい反面、
「制服フェチに間違いない」
という感覚は、悪いものではないと思っていた。
というのも、
「恥ずかしさも快感に変わる」
ということが分かったからで、これも思春期の感覚がそう誘ってくれたのではないかと感じたからだ。
ただ、恥ずかしさが快感に変わるというのは、これこそが変態であり、自覚する分にはいいのだが、他の人にここまで想像させてしまうのはダメだと思うのだった。
恥ずかしがっている自分を見せるのはいいのだが、快感を味わっているのを感じさせては負けだという考えであった。
このあたりは、誰にも言わずに一人で悶々としたものだが、そのうちにバレルことになった。しかもそれを看破したのが、如月だったのだ。
「お前は俺に似たところがあるんだな・俺もいつも一人で考えていたんだが、お前が俺と似たところがあるのなら、俺は嬉しいんだがな」
というではないか。
さすがに恥ずかしくて、すぐには返事ができなかったが、最初に、
「自分は制服フェチだ」
と言ってカミングアウトをした如月だけに、何も言えなかったのだが、そのうちに、
――仲間だって言ってくれているのであれば、俺も恥ずかしがることはない――
と感じるようになって、心の中に溜まっていたうっぷんを晴らすことにしたのだった。
これは二人ともに同じ感覚だったようで、話し始めてみると、これがまた同じ感性を持っていたようだ。
「如月君が、ここまで僕と同じような考えでいるとは思わなかったよ」
というと。
「そんなことはないさ。似ているように見えて、微妙なところで違っている。そもそも、人間皆同じということはないので、微妙に違うものさ。逆にまったく同じだったら、それはそれで怖いとも言えるけどね」
と、如月はいうではないか。
「確かに如月君の言う通りだね。でも、最初に君がカミングアウトをした時、僕も同感だったんだけど、さすがに言えなかったんだ」
と言って、少し申し訳なさそうにすると、
「いや、いいんだよ。もしあの時に君までカミングアウトすると、二人の関係が怪しいとまわりから見られて、変に警戒されたりで、君だけではなく、俺迄計画が狂ったかのように思われるのを避けてくれたんだよね? そうその通り、俺は最初にカミングアウトすることで、それ以上でもそれ以下でもないことをまわりに定着させようと思ったのさ。思春期の連中は、大なり小なり、皆、何かのフェチを持っているものさ。だから、俺は、君にそのことを言いたかったんだけど、君がそれを察知してくれたのかどうか、今は感じてくれている。それが嬉しいんだ。これで、お互いに、フェチであることを隠すことなく、オープンに話ができるというものだ」
と、如月は言った。
「君はセーラー派なのか、ブレザー派なのか、どっちなんだい?」
と聞かれた如月は、
「僕はブレザー派かな? 大人しい雰囲気を感じさせるし、僕は、紺ハイが好きなんだ」
という。
「僕も紺ハイは好きなんだ。でも、それがセーラーであったら、もっといいと思っているよ」
と俊介がいうと、
「だったら、スカートはミニだね。だけど、あまりミニにしすぎると、コスプレっぽくなって、それも嫌なんだ」
と如月は言った。
「うんうん、僕もそうなんだ。あまりにもコスプレになってしまう制服はどうも気に入らないんだ。コスプレはあくまでもフェチとは違う世界のものなので、別の扱いにしたいな」
「確かにそれは言える。コスプレって、どちらかというと、それぞれに好きな格好をして、それを見せたがる人たちがいて、それを見るのが楽しみな、まるでアイドル活動に近いような気がするよね。だけど、フェチは一人で楽しむものなので、どちらかというと気持悪がられる。だから、コスプレイヤーからは、フェチとは違うと思われていて、フェチは、コスプレイヤーとは違うとそれぞれで思っているんだよね」
と如月がいうので、
「じゃあ、その中間のような人っていないんだろうか?」
という俊介の疑問だったが、
「いるかも知れないな。だけどそれって、まるでコウモリの話を想像させるのは、俺だけだろうか?」
といきなり如月は不思議なことを言った。
「コウモリの話って、あの夜行性のコウモリのことかい?」
「うん、そうだよ。別に傘のことじゃないさ。これは確かイソップ寓話の中の一つのお話だったと思うんだけど、『卑怯なコウモリ』という話があるんだ。聞いたことがあるかい?」
と言われて、
「いいや、初めて聞く言葉だね」
というと、如月が得意げに話し始めた。