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無限への結論

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 そもそも、どこが謎なのか、そのあたりから分からないようで、未来の想像図も、他の人が描く絵とそんなに違いがないように見えるのに、何が違うのか、実は分かってしまうと、
「こんなに分かりやすいものはない」
 と言わしめるだけのことはあった。
 松岡はもちろん、柿崎研究所の連中はほどんど気付いている。そのうえで、
「なんで、皆気付かないんだろうな? 間違え探しの絵でもないだろうに」
 と言っていた。
 さらに、他の人は、
「一つ一つ見ていれば分かるのに」
 と言っていたが、松岡は、
「だから分からないのさ。未来というと、普通に考えればあるはずのものがないのに、そこに違和感がないんだ。これが、この絵の秘密なんじゃないのかな?」
 ということであった。
「あるはずのものはない?」
 と言われて、初めて気づく人もいた。
「ああ、なるほど、なんで気付かなかったんだろう?」
 というのだった。
 その絵には、未来の都市が書かれている。そこでは大きなタワーが奥に見え、そこから赤十字のマークの建物にチューブのようなものが繋がっていて、そこを車輪のない車が走っている。これこそ未来の絵であるが、そこにいるのはすべてが人間である、車を運転しているのもすべてが人間。中には運転席に誰もいない車もあるが、それは無人の運転手。つまりはリモート操縦であった。
 さらに、遊園地のようなものがなく、彼のマンガでは、タイムマシンのようなものは、遊園地にしか存在せず、科学的な発展のためには使ってはいけないものとなっていた。
 ということは、彼の未来予想図には、ロボットやタイムマシンと呼ばれる一番あるはずのものがなかったのだ。
 もちろんそれは、
「タイムマシンやロボット開発には限界がある」
 という発想から生まれたものだが、彼のマンガの世界ではそのどちらも描かれている。
 ただ、それはあくまでも限界の中というだけのことで、それを未来予想図鑑としては乗せることを自ら拒んだのだろう。
 未来に到着した松岡はその未来予想図鑑を思い出した。
「そうだ、あの絵には、タイムマシンなどのタイムトラベル系、さらに、アンドロイドや人造人間に限らず、普通の形のロボットすら登場していなかったっけ」
 というものだったではないか、
 この未来にはあの絵にあったような違和感があった。
 しかし、どこかホッとしている自分を思い出す。それは、未来というものがどういうものであるかということを、あの未来予想図鑑で頭の中に叩きこまれた気がしたからだ。
「まるであの図鑑を見せるのが、目的だったんじゃないか?」
 とさえ思うほどに、あの店は、我々柿崎研究所チームメンバー御用達だったのである。
 それを思うと、自分が無意識に選んだつもりのこの未来も、何か新鮮だ。最初に一日だけの未来を経験し、あっという間に過ぎてしまった感覚に酔っている気はしたが、それは一日でも、数十年でも変わらない気がした。しいて言えば、飛行機に乗っている時間が少し長いくらいのものではないか。一日でも三十年でも、タイムマシンにとっては、あっという間のことだからである。
「タイムマシンって、改めて考えると、本当にすごいものなんだな」
 と感じたのだ。

              未来の世界

 未来にきたはいいが、ここがどこなのか、どういう時代になっているのか、創造もつかなかった。とりあえず、タイムマシンをどこかに隠さなければいけなかったが、ちょうどついた場所がよかったのか、洞窟のある場所だった。
 よく考えてみると、大学の近くの洞窟の近くで、タイムマシンを使って未来に来るにふさわしい場所だということだったような気がする。確か洞窟は、昔の防空壕の跡だという話であった。
「まさか、三十年後の未来にまで、この洞窟が残っていたなんて」
 と思ったが、洞窟のまわりは、すっかり変わっていた。
 だが、その様子を見ると、その場所が昔と変わらずに残っているのがなぜなのか、分かった気がした。
 県の文化財になっているようだった。立札が掛かっていて、立入すらできないようになっているようだった。
 しかし、背に腹は代えられない。県指定くらいであれば、大丈夫だろうと思って、タイムマシンを隠した。
 このタイムマシンは、テレビのSF映画に出てくるようなものに近いオーソドックスなもので、まるでヘリコプターのコクピットのようなものだった。設計段階で、この形が一番いいだろうと、この形に速い段階で決まった。
 メカの構造よりも先に外観が決まった科学的な装置というのも結構あるが、まさかタイムマシンがそういう形式になろうとは思ってもみなかった。
 一応、操縦はできるようになっているので、小さなキャスターを出して、そこから操縦して、洞窟に収めた。まるでタイムマシンを隠すように作られたかのようで、大きさもちょうどよかった。
 隠し終えると、街に向かって歩いて行った。街は完全に変わっていて、マンションのようなものはほとんどなかった。企業のビルもないせいか、ほとんどが二階建ての一軒家ばかりになっていた。
「人口が減ったのかな?」
 と思いながら歩いていると、その向こうから、一人の女性が歩いてくる。
 服装はと見ると、未来の服なので、宇宙服のようなものを想像していたが、そんなことはなかった。
 逆にどちらかというと、ファッション雑誌の中の特集で載っている、
「ファッションの歴史」
 を見ているようだった。
 あの服装や髪型は、以前ファッション雑誌に載っていた、いわゆる、
「八十年代ファッション」
 と呼ばれるものだった。
 時代としては、昭和の終盤に近いファッションで、自分がいた時代から、三、四十年くらい前の世界と言ってもいいだろう。
「ということは、この時代から見れば、七十年ほど前ということになるな」
 と考えると、今度は自分たちがいた時代のさらに七十年前を想像してみた。
 昭和でいうと、二十年代後半というところか、まだまだ戦後の混乱が続いていて、まだ家もない人がいた時代であろう。お隣の朝鮮では、ドンパチが起こっていた時代。日本はGHQ占領下で、独立を模索していた時代だったと言えよう。
 もちろん、ファッションなどあまりなかった時代、米軍などの駐留兵が幅を利かせていて。瓦礫やバラックの中をジープで走り回り、ポツポツとできている、キャバレーなどに日本人の女性をしたがえて、入って行く光景がドラマなどで、よく見られた気がした。
 さすがにそんな時代のファッションが、また流行るということはなかっただろうが、自分がいた時代には、
「ブームは一定周期で繰り返す」
 と言われていた。
 たぶん、自分たちがいた時代のファッションも、昭和のどこかの時代を繰り返していることであろう。そして、時代は巡り巡って、未来のこの時代に、八十年代を再度流行らそうとしているのかも知れない。
 八十年代のファッションには、一長一短があり、あまり好きではないファッションもあれば、気に入っているファッションもあった。ずっと大学の研究室に籠って、研究ばかりしていると思われがちだが、実はそうではなく、ファッションの歴史など、それ以外の歴史も本を読んだりして研究していたりした。
作品名:無限への結論 作家名:森本晃次