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無限への結論

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 しかし、当時の腐り切った政府では、その貴重な発明を、政治家個人の私利私欲のためだけに論議しているようにしか思えない。そうなると、論議が紛糾するのも当たり前で、特許の問題や、開発費用などをどこが受け持つか、さらに大量生産を考えるのであれば、どこに委託するかの問題がある。
 少なくとも兵器になりかねないものであるから、簡単に敵外国に方法が漏れてしまっては、本末転倒である。
 そのあたりのセキュリティ感覚は、利権よりも優先しているだろうとは思っているが、それもまったく信用できないのが、今の政府であった。
「何しろ利権のために、国民の命を利権よりも低いところに優先順位を置いたという、オリンピック問題の前科がある政府だから、信用しろという方が無理なんだ。安心安全なんて、クソ食らえだ」
 と、当時の国民が皆思っていることであった。
 そんなことを考えていると、元の世界に戻らなければいけないと思った松岡はタイムマシンを隠しておいたその場所に行ってみることにした。
 あの隠し場所は、ずっと誰お立ち寄っていないように見えた場所なので、誰が気付くものかと思っていた。しかし、その予想はまったく違ったものになっていた、
 何とそこには、軍隊のような武装兵がバリケードを作っていて、鉄砲を手に持って、まわりを警戒していた。
「これは一体どういうことだ?4 まるで俺が最初からそこにタイムマシンを隠すとでも考えていて、それを待っていたかのようではないか」
 と思った。
 タイムマシンで、戻ったような気になっていたのは、こちらの世界についてから、どうやら夢を見ていたからなのかも知れない。それも眠っていて見る夢ではなく、起きていて見るという戯言のようなものだった。
 それをリアルに感じたのは、それだけこの世界が自分にとって違和感のあるものだったからなのかも知れないが、それにしても、この世界で話をした人との会話は、今までの世界で同じ目的を持った研究者とする、
「深みのある話」
 よりも新鮮だった。
 その新鮮さというのは、
「一足す一が、三にも四にもなる」
 というような、倍々を感じさせるものであった。
 話をしていて、
「目からうろこが落ちた」
 という感覚は久しぶりだった。
 タイムマシンの完成を確信した時でさえ、そんな大きな感動はなかった。むしろ、別の意味での感動だったと言えるのではないだろうか。
 タイムマシンというものが、悪にも善にもなるという考えは最初から持っていたが、
「未来の人と話をするというだけで、そこに出てくる話のすべてが、自分にとっての回答であり、甘んじて受け止めなければいけないものだ」
 と考えなければいけないと思うのだった。
 目の前で見張っている連中の前に飛び出していくわけにはいかない。あれはあくまでも、タイムマシンを確保していることで、自分をおびき出そうとしている作戦なのかも知れない。
 いくらマシンがあっても、それを使ってやってきたのは、この自分だからである。
 そこでもう一つ思ったのが、
「待てよ? あそこにいる連中は、あれがタイムマシンだということを分かって、あそこで見張っているのかな? 怪しい機械だということだけで見張っていると言えないだろうか?」
 と思ったが、そうではないことがすぐに分かった。
 あの場所にあるということは、
「過去から何かの知らせがあったことで見張っていたら、ちょうど、その場所に本当に機械があったので、驚いている」
 のではないかと考える方がよほど発想としては、スムーズで、説得力もあるというものだ。
 兵隊の服装は、自衛隊ではないようだ。雰囲気とすれば、写真で見たことのある旧日本陸軍の軍服に実によく似ている。まるで、
「未来ではなく、過去の戻ったのかな?」
 と感じるほどで、まさに過去を微妙に違った形でやり直しているような感覚だった。
 それこそが、
「パラレルワールド」
 というものの発想で、ある意味その存在を証明したくて、タイムマシンを作ったと言っても過言ではなかった。
 松岡がタイムマシンの研究に打ち込んだのは、タイムトラベルが目的ではない。タイムパラドックスや、パラレルワールドの存在を証明したかったのだ。
 いや、逆にいえば、
「タイムパラドックスや、パラレルワールドなどありえない」
 ということを証明したかったというべきなのかも知れない。
 要するに曖昧なことは嫌いなので、白黒つけたかったというところであろうか。
 ただ、松岡という男は、曖昧なところが嫌いだとはいいながら、
「決して破ってはいけない結界が、この世には存在するのだ」
 という考えも持っていた。
 その発想が松岡にとってのタイムマシン開発の原動力であり。今でもその時と気持ちの大きさは変わっていないのではないかと自分では思っていた。
 松岡は、科学や物理も好きだが、本当に好きなのは歴史だったのだ。タイムマシンの研究も、歴史好きが高じて始まったことで、
「やり始めたら止まらないのが科学の世界」
 ということを分かってしまい、タイムマシンから抜けられなくなったのだ。
 一つのことを証明するには、それ以外のことがすべて否定できれば、それを証明することができるという逆の発想もあった。
「悪魔の証明」
 などと言われるものもそうなのだろうが、詳しい話はあまり分からなかったが、後から考えると、結局のところ、
「自分の考え方は悪魔の証明にいつも近づいているような気がする」
 と考えていた、
 そういう意味ではタイムパラドックスに対しての発想も逆説という意味から、悪魔の証明に近いところがあったようだ、だが、結局は似ているとは言いながら、どこが似ているのか分からないところが、ある意味結界なのであって、
「分かっていない部分が存在することで、余計に悪魔の証明に近いことを証明しているようだ」
 と教授から言われたが、まさしくその通りなのかも知れない。
 それにしても、今のままでは、過去に戻ることはできない。
「それにしても、なぜ自分があそこにタイムマシンを隠しているということが分かったのだろうか?」
 一つの考え方としては、自分が、このまま過去に帰り、未来のことを日記か何かに書き残したとして、それが何かの理由で、のちの権力者の手に渡り、タイムマシンを手に入れようと思ったのかも知れないという考え方だ。
 しかし、自分が過去に帰って、タイムマシンの成功をまわりにいうか、承認を得ようと働きかけたとすれば、承認されれば、タイムマシンは機密ではないし、承認されなければ、国家として取り扱うことはできないはずだ。
 となると、国家転覆を狙う秘密結社が、柿崎チームがタイムマシンを密かに作っているということを分かっていて、密偵でも送り込んでいれば、そこから話が漏れて、タイムマシンを手に入れることになるのだろう、
 しかし、そのタイムマシンが何かの影響で、不具合を起こして使い物にならないと判断されれば、ただちに解体、そして永久にタイムマシン開発は封印されることになるだろう。
 だが、その陰で暗躍する秘密結社は、政府が投げ出した計画を自分たちで手に入れ、国家転覆の材料にしようとしているとすれば、話は変わってくる。
作品名:無限への結論 作家名:森本晃次