小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

時間の螺旋階段

INDEX|6ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

 やはり、相手に比べて自分の方がレベルが低いというひけめと、どこか敦子の自尊心を助けているような気がして嫌だったのだ。
 つかさの方としても、敦子には負けているが、大学生活としては、それほど悪いものではなかった。だが、就活になると、どうもうまくいかない。
「大学時代に何か自分でやり遂げたようなものがありましたか?」
 という質問をされると、何も答えられなくなる。
 確かに、大学時代を無難に過ごし、成績もさほど悪いわけではなかったのだが、人にはないような特化したものはなかった。ただ、無為に過ごしてきたということを証明したようなものだったが、就活において、それは致命的であった。
 ほとんどの面接では第一次で落とされる。
 一応は、一流大学という触れ込みがあったので、大学の名前だけでも、最終面接くらいまでは行けるのではないかと思っていたが、それは甘かった。
 逆に面接官の方としては、
「一流大学を出ているのであれば、それなりに何かを残しているはずだ」
 という意識を持って面接をしているようだ。
 つまり、大学の名前が有利に働くわけではなく、却ってそのハードルを上げていることに、つかさは気付いていなかったのだ。
 それでも、何度か面接を受けているうちに分かってきた。
「大学の名前を問題なのではなく、その看板を背負っているのであれば、それだけの成果があることを相手が望んでいるということだ」
 と感じると、就活をするのがある程度きつくなってきた。
 結局、どこからも内定がもらえずに、大学時代でアルバイトをしていたファミレスのウエイトレスのバイトをそのまま続けることになった。
 まあ、時代としては、自分が就活をしていた時期というのは、リーマンショックの尾を引いていて、なかなか不況からの脱却ができない頃であった。したがって、就職浪人が何人もいて、アルバイトやパートで食いつなぐ人も多かった。
 中には、
「パパ活」
 なることをしている人もいたが、自分にはできないことだと思っていたので、最初から考えもしなかった。
 お金を持っていそうな、少し寂しそうにしている金銭的に余裕のある相手との疑似恋愛の中で、お金を貰うという考え方だ。
 調べてみると、パパ活と呼ばれるものは、一種の援助交際の中に含まれるものであるが、基本的には、食事やお茶が中心で、肉体関係は必須ではないというのが、パパ活の定義である。
 そういう意味では、パパ活が自由恋愛なのかどうかは意見が分かれるところであるが、元々、交際クラブ、デートクラブというところがパパ活を支援しているいう点では、自由恋愛とは程遠いのではないかと思うのだった。
 つかさは、そこまで自分の容姿には自信もなかったし、何よりも、それほどコミュ力があるわけではないので、男性と二人きりになった時、何を話せばいいのか、実際に困ってしまうだろう。
 それを思うと、つかさは、普段から地味にしているし、目立たない存在になっていたのだが、そのせいもあってか、三十歳になるくらいまでは、誰もつかさを意識する人はいなかった。
 だが、ある日、グラビア記者が街を歩いているつかさに声を掛けてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
 男を見た時、いかにもちゃらちゃらしているように見えたつかさは、咄嗟に身体を翻して反対方向に歩き始めたが、
「怪しいものではないんです、あなたの自然な姿を撮りたいと思ったんです。よかったら見てください」
 と言って、デジカメの写真を見せてくれた。
 そこには、いつ撮られたのか、自分で意識もしていない自然な表情の自分が写っているではないか。
「これ、私なの?」
 というと、
「そうですよ。あなたです。どうやらあなたは自分の潜在している美しさに気づいていないようですね。でもね、あなたの素晴らしさはそういう素朴なところにあるんです。あなたは無意識に今のファッションを選んでいるんでしょうけど、それが実にいいバランスを保っているんです。もっというと、あなたのファッションがあなたの表情を形成していると言ってもいい。あなたは、今までに誰かから見られているという思いを抱いたことはなかったんですか?」
 と言われて、
「ええ、もちろんありません。なるべくまわりに意識されないようにしようと、そればかり考えていたんですよ。私は人と話をするのが苦手なんです。だから、人から見られるのが嫌なんです」
 というと、
「そうそう、そうなんですよ。あなたは、自分をネガティブに表現する時には饒舌になる。それは、なるべく自分のことを自分で分かっているということをまわりに宣伝したいという思いからなんですよ。自分には目立つ要素がないので、それくらいでしか自分を表現できないと思い込んでしまっているので、あなたは、そういうネガティブな世界に入り込む結果になってしまったんでしょうね」
 というではないか。
「でも、どんなに頑張っても、私は人とちゃんと会話もできないので、だったら、身の程を知るしかないじゃないですか」
 と、興奮気味に話した。
 すると、男はそれを待ってましたとばかりにニヤッと笑って、
「そうなんですよ。あなたはそうやって自分が身の程を知っているということに満足しているだけなんです。つまりは自己満足することでせっかくの自分の性格を押し殺そうとする。きっと、自分のことを考えたり見たりすることが怖いんでしょうね」
 というではないか。
――明らかに私に挑戦してきているんだわ――
 と感じたが、すでにその時にはその男に踊らされていたようだった。
 何を言っても、言いくるめられるような気がするのは、今までのコミュ力のなさだと思っていたが、実際にはそのことを自覚しながら何もしてこなかった自分が悪いのだということに気づかされたのだろう。
 今までのつかさは、男性を怖いものだと思っていた。そして、そんな男性を操っているかのような態度を取っている女性を、さらに怖い存在だと思っていた。いわゆる、
「魔性の女」
 という人なのであろうが、ただでさえ男性と話もできない自分が、そんな魔性の女に適うわけはない。
 つまり、男性に話をできない以上に、誰が魔性の女なのか分からないだけに、女性に対しても話をしかけることなどできるはずもない。
 特に女性というのは、男性に対してとは違い、同性であれば、相手が話しかけてこなければ自分が行くようなことはほとんどない。よほど何かの情報を得たかったり、利用できると思わない限りは自分からはいかないものだと思っていた。
 となると、余計に同性の知り合いができるわけもない。
 今までできた友達というと、敦子だけだった。他にもできたかも知れないが、ほぼ、その時だけの関係で、それ以上はないと言っても過言ではない。
 もちろん、男性の友達がいたわけでもない。
 だが、つかさは処女ではなかった。まわりの人はつかさのことを、
「処女だ」
 と思っている人が多いかも知れないが、それはそれだけつかさのことをまわりの女性が誰も気にしていないからだということであろう。
 少しでもつかさのことを見ている女性がいるとすれば、
「何言ってるのよ。あの人は処女じゃないわよ。見ていればすぐに分かるわ」
 ということになるだろう。
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次