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時間の螺旋階段

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 ということであろう。いずれ警察がやってきて、それくらいのことは考えるであろう。
 死体を発見したサラリーマンも、そこまで自分が考えなければいけない義理はない。あとは警察に任せるしかないだろう。
 そんなことを考えていると、通報してから、十五分くらいが経とうとしていた。今までは考え事をしていたからよかったものの、よく考えたら、この薄暗い中で、死体と二人きりというのは、これ以上不気味なものはないだろう。
 どちらかというと、というよりも、怖いものは怖いと思っている彼にとって、
「早く誰か来てくれないか?」
 というのが本音だった。
 いつの間に蚊犬たちは大人しくしていた。三匹いたが、三匹とも、それぞれ座ったり、伏せをしたりして、大人しくしている。
 ここから立ち去ろうとしないのは、この男性がこの犬たちに餌を挙げたりして、それなりに保護していたのだろうか。公園に野良猫という話はよく聞くが、野良犬というのは珍しい。このホームレスが飼っていたのかも知れない。
「お前たちも寂しいんだろうな?」
 と一匹の犬の頭を撫でてあげると、
「クフゥーン」
 と、情けなさそうで、寂しそうな声で鳴くのだった。
 それを聞くと、こっちまで寂しい気がして、たっだ、十五分くらいのものだが、この公園にずっと前からいたような気がして仕方がなかった。
 そう思って頭を撫でていると、座ってまわりを見ていた犬が立ち上がり、男のそばにやってきて、また座り込んだ。
 もう犬たちは何も言おうとしない。
「犬たち、この人が死んでしまったことを分かっているのだろうか?」
 と思った。
 さすがにイヌなので分かりはしないかも知れないが、何と言っても鼻の利くのがイヌである。死体の傷口から流れでているものが血液であることは分かっているだろう。
 ただ、血が流れると死んでしまうということを分かっているかどうかが疑問だ。ただ、本能として理解しているかも知れない。
 イヌというのは、人間でいえば、幼稚園児くらいの知能があると言われている。ひょっとすると、本能とその知能とで、この人がもう永久に自分たちに構ってくれないことは、分かっているのではないかと感じたのだ。
 ただ、まわりが真っ暗なだけに、犬が動くと少し不気味であったり、その目を見ていると、光もないのに、怪しく光るのが気持ち悪かった。
 だが、彼は犬が好きであった。そのため、この犬たちを気持ち悪いというよりも、可愛いと思う方が強かったのだ。
 逆に、この不気味な真っ暗な空間に、人間は一人だが犬たちがいてくれるということは、彼にとってありがたいことであった。
 すると、後ろの歩道の方から自転車の音が聞こえた。すぐそばに交番があるようで、そこから飛んできたのだろうが、それにしては少し時間が掛かりすぎていた。
「通報をくれたのはあなたですか?」
 と制服警官に訊かれて、
「ええ、そうです」
 と答えると、
「すみません、ちょうど警らに出ていて、交番を留守にしていたんです。無線で通報があったと聞いた時、ちょっと遠くまで行っていたので、来るのが遅れてしまいました。あと少しすると、所轄の方から刑事さんたちが来ると思いますので、それまでは私の方で少し聞いていくことにしましょう」
 と言って、頭を下げた。
 これから、本格的に聞き込みが始まることになるのだろう。

                つかさの分岐点

 令和三年の三月のある日、地下街にあるブティックに勤めている飯倉つかさは、友達の七隈敦子を地下街にある喫茶店に呼び出した。
 七鞍敦子は弁護士をしていて、彼女にどうしても相談したいということがあったのだ。
 本当であれば、弁護士との接見ともなれば、三十分五千円というのが相場なのだが、友達ということで、
「話によるかも知れないけど、とりあえず、この日の食事代くらいはごちそうしてくれてもいいかな? どうせ三十分くらいで終わるような簡単な話ではないんでしょう?」
 と聞かれたので
「ええ」
 と答えた。
 つかさは、敦子の今までの経験から、よほどのことがない限り人に相談するようなことはないだろうと思っていただけに、つかさから、
「ちょっと相談したいことがあって」
 と切り出された時、敦子は身構えてしまったほどだった。
 敦子がそんなにまでつかさのことを知っているなど、思ってもみなかったのだが、やはり、
「持つべきものは友達」
 というところであろうか。
 敦子とつかさは、高校時代からの親友だった。実際には中学時代から一緒だったのだが、お互いに意識することはなかったのだが、高校に入ってから、急に仲良くなった。
 二人とも成績が優秀で、地域でも有数の進学校と言われる女子高に入学できたのは、自分たちがいた中学から、三人だけだったのだ。
 六人が受験して三人が落ちた。もちろん、六人とも成績優秀で、先生も、
「彼女たちなら大丈夫」
 ということで、内申書も書いてくれていたのだろう。
 しかし、蓋を開けてみれば、合格数は半分、さぞや推してくれた先生はガッカリしているのかと思いきや、職員室を通りかかった時、その先生が笑いながら話していたのは、
「まあ、半分が合格できたのだから、よしとしましょう」
 と、堂々と他の先生に話をしていたのだ。
 それを聞いた時、つかさは、
「しょせん、先生なんて、何割の生徒が合格するかのそのボーダーラインさえ超えているエバいいんだわ」
 と思っていた。
 一番は合格数、二番目は合格率、確かにたくさん優秀な生徒がいれば、合格数は十分に望める。合格率を優先し、本来なら内申書を書いてもらえるべき生徒に書かなかったら、分母は少なくなるので、確率は上がるかも知れないが、そのせいでせっかくの生徒の進路が閉ざされてしまうというのは、何とも言えないだろう。
 本当に心配するのであれば、
「合格できても、ギリギリの成績では、まわりが皆優秀なので、それに臆して実力を発揮できなければ、何にもならない」
 ということで、内申書を渋るならいいのだが、そうではなく、ただ合格率だけの考えであれば、それはまったく生徒のことを考えていない自分の成績だけしか見ていないと言われても仕方がないだろう。まるでどこかの政治家のようである。
 そんな状態の中で合格した三人のうちの二人が、つかさと敦子だった。
 中学時代の成績としては、つかさの方がよかったかも知れない、それでも、高校に入学してからの成績は、敦子の方がよかったのだ。
 つかさは、進学校であるその高校に入学できただけで、ある程度満足していた。それよりも入学前まではクラスで一番と言ってもいいくらいの成績だったのに、入学してしまうと、分かり切っていたことだったはずなのに、自分の成績ではパッとしない。
 確かに進学校に入学することは目標であったが、まわりのレベルについていくだけで精いっぱいならそれでもよかった。そこまで勉強が好きというわけでもなかったし、他人との競争に執着する人間でもなかったからだ。
 それに比べて敦子は、
「高校入学はあくまで通過点」
 と言っていた。
 通過点だというだけあって、そこから先は猛勉強していた。
「私はここから有名大学に行くのよ」
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次