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時間の螺旋階段

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 今回、死体が発見された公園は、閉鎖された公園ではなく、住宅街に近いところであった。時期としては、三月だったので、まだまだ寒い時期、夜の公園には、緊急事態であろうがなかろうが、人がほとんど夜には入ることはないだろう。
 以前は、公園を横切っていく人もいたようだが、最近は公園に入ってまで横切る人もあまりいなくなっていた。
 それはなぜだか分からなかったが、そのおかげで、夜の公園は、ゴーストタウンだったと言ってもいいだろう。
 死体を最初に発見したのは、朝のジョギングをしている老人だった。時間的にはまだ四時半くらいだったが、その頃というと、まだ午前六時でも暗かったくらいなので、この時間は人が倒れていても見えないほどの真っ暗な時間帯だった。
 昔から老人は早起きだということだが、老人に限らず、この頃は早起きをする人が増えたような気がする。
 伝染病が流行っていることで、いくらマスクをしていても、通勤時間の満員電車だけはかなわないと皆思っていることだろう。
 政府は、
「テレワークの推進」
 などと寝ぼけたことを言っているが、一般企業ではまだまだテレワークは行き届いていない。
 日本という国は、先進国の中では、最低水準のIT戦略と言われているくらいなので、それまでそれほどテレワークなどということを言ってこなかったくせに、急に伝染病が流行り出したからと言って、そんな簡単に行くものではない。
 どうしても、通勤による満員電車は避けられない状態なので、できるだけ避けようとするには、方法は一つしかなかった。
 それが、いわゆる「時差出勤」なのである。
 そのため、今までであれば、通勤ラッシュと言われる時間は、ほぼほぼ七時半から八時半くらいが主流だったが、それを少し前倒しにして、七時前に出勤する人が増えたり、逆に定時の九時を十時からにして、終わりを遅くしようとしている人もいるだろう。
 だが、後ろの人はあまりいないかも知れない。なぜなら、時短営業で、帰りにどこかに寄ろうとしても、すでに店が閉まりかけているなどということになるからだ。そうなると、通勤時間はおおむね早くなり、七時前に電車に乗ろうとすると、起きる時間がおのずと早くなるのだった。
 そのため、起きる時間も早くなり、しかも、散歩することで健康を保つ、体力をつけて、移らないようにしようという考えからか、早朝散歩が増えた。
 だが、さすがに四時台はほとんどいないだろう。五時半を過ぎる頃から少しずつ増えてくるが、さすがにその時間というと、新聞配達くらいであろうか。
 そんな令和三年の三月のまだ真っ暗な公園で発見された死体は、どうやらホームレスのようだった。
 発見したのは、四十代のサラリーマンで、普段はもう少し遅くに散歩するのだが、その日は目が覚めるのが早かったこともあって、早めに出てきたのだった。
 最初はさすがに真っ暗だったこともあって分からなかったが、ベンチの近くに、犬が数匹いたのだ。それは野良犬で、寄ってみると、ベンチの上に誰かが眠っているようだった。
「こんな時期にこんなところでよく寝れるな」
 と思って見てみると、それがホームレスで、
「なるほど、ホームレスなら眠れるのかも知れないな」
 と思ったが、それにしては、犬が寄ってきているのに、構わず寝続けていられるのもすごいことだと思うのだった。
 向こうを向いているようで、最初は犬を嫌ってのことかと思ったが、そのわりに、まったく身動きをしているのが感じられない。放っておいた方がいいのか迷ったが、さすがにその日の寒さは放射冷却もあって、かなりのものだったことから、様子がおかしいと思ったのだ。
「もし、どうかしましたか」
 と揺さぶってみると、その人は、やはり身動き一つしない。
「もしもし」
 とさらに揺さぶると、犬も吠える寸前のように怒っていた。
 それが、自分に対してのものなのか、そこで寝転がっている人に対してなのか分からなかったが、犬が喉を鳴らして唸っている状態にもまったく反応しないことで、いよいよ怪しいと思うのだった。
「大丈夫ですか?」
 と、こちらに向かって身体をずらそうとすると、その男はそのままベンチから転げ落ちた。
 そして、仰向けになったその胸に、何か光るものが見えたのだが、それがナイフであることはすぐに気付いた。
 この真っ暗な中でナイフだけが微妙に光っている。煌めくような光り方には違和感があり、光るナイフに照らされて、胸元から、ドロドロとした何かが溢れているのが分かった。
 どす黒いそのドロドロしたものは、ナイフとの連想から、血であることは一目瞭然だった。胸にナイフの一撃を食らって、即死だったのかまでは分からないが、明らかに呼吸もしておらず、なによりも。最初に触れただけでも、硬直した身体の硬くて冷たくなった感覚は、ゾッとするものでしかなかったのだ。
「ぎゃあ」
 と思わず声を出してしまったが、なぜか真夜中であるという感覚から、大きな声を出してはいけないという感覚で、大きな声にはなっていなかったようだ。
 真っ暗で顔が見えないその様子から、さぞや顔は断末魔の表情に歪んでいるであろうことは想像がついた。
 胸の傷口から流れ落ちたのであろう鮮血は完全に凝固してしまっていて、殺されてからかなり経っていることは明白だった。
「声くらいは立てたんだろうか?」
 もし、一撃の下で致命傷だったのであれば、即死だろう。そうなると、声を立てる暇もなかったかも知れないし、相手によって、声を立てない場合もあるのではないかと、思えたのだ。
 断末魔の表情を想像すると、あたりが薄暗いのが幸いな気がした。だが、中途半端にここに街灯がついていれば、光の加減と顔の凹凸による影によって、恐怖の形相を呈するであろう。
 緊急事態宣言中ということで、公園はある程度の時間から以降は、明かりが暗くなる。いわゆる、
「路上飲み対策」
 と言ったところであろうか。
 だが、明るい時間の犯行であれば、さすがに誰かが気付いたことであろう。昨夜の八時以降からであれば、街灯も消え、懐中電灯でもなければ、見えない状況だ。さすがに路上飲みをする気分にはなれないだろうが、殺人を犯すにはちょうどいいかも知れない。何しろ、路上飲みの目的の中には、
「これまで何度も自粛だけをさせておいて、政府や自治体の役人は大人数で会食をしていたなどという本末転倒な話がいくつもあっては、さすがに溜まったものではない」
 ということに対しての抗議の意味があってだろう。
 とはいえ、不自由な思いをしてまで抗議する必要などないと思っている輩は、
「電気がついていないのなら、何もそこまでして」
 ということで、家に帰っていた。
 要するに、抗議をしている連中もその決意は中途半端なのである。
 そもそも中途半端でなければ、もっと人に迷惑を掛けないようなやり方をするはずだ。やつらは、そういう意味では社会の悪であった。
 いや、もっといえば、そんな連中がいるから、病気が流行するのだ。やつらこそ諸悪の根源であり、正義などと、どの口がいうのかというほどに、本末転倒な話であった。
 ただ、そうなると気になるのは、
「なぜこの男が狙われたのか?」
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次