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時間の螺旋階段

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 それこそ、定期的に起こる事件として、世間を騒がせていた事件であったのは間違いではない。
「本当に代償が大きすぎた」
 ということで、この神社に彼女たちの無念を祠の中に封じ込めていたのだ。
 自殺をする人はいなかったようだが、一時、村でお嫁に行くことを全員が拒むということがあり、皆それぞれに、深いトラウマを持っていたのが分かったことで、村の存続問題も含めたところで、彼女たちの気持ちを収める必要があったのだ。
 何とか他の村から、お婿さんを迎えることで、村の存続は保たれたが、余計な血が混じったということで、この神社には、右と左とで、狛犬の種類が違っている。
 何と、右側が狛犬ではなく、猫だったのだ。
 それは、その時の混血状態を表すものだそうだが、今の時代で、この伝説を知っている人がどれほどいるだろう。
 今でこそ、大都市のベッドタウンのような街になってはいるが、昔はどの町とも関係を結びたくないという閉鎖的な村だったという。それは、かつての苦い思い出が、そうさせるのかも知れないということだった。
 つかさがこの話を訊いたのは、祖母からで、子供の頃、よく分からないまでも、さすがにバカ兄弟の本当の所業はぼかしていたが、
「女性に意地悪をしたたえ」
 というくらいのことは聞かされていた。
 その頃から、女性を大切にできない男性は嫌いだということを公言するようになったつかさは、今では伝説の正体をよく知っている。
 高校生になった頃からそういう話を訊きまわっていたので、真剣に訊ねると、さすがに老人は教えてくれた。
 むしろ、若い女の子でこの話に関わってくる人がいることを知ると嬉しかったようだ。
「少々の悲劇があったことは想像ができます。ショックを受けるかも知れないとお思いであったら、自分もある程度知っているということを理解してくれれば、話しやすいと思います」
 という前置きをしたようだった。
 そのことがあったので、つかさは、この神社を、
「婦女暴行などの凶悪犯罪から女性を守ってくれる神様なんだ:
 と思うようになった。
 つかさは、自分が被害者になるようなことはないと思っていたが、それでも、ここの神様を無視してはいけないという思いもあってか、気になった時には絶対に無視してはいけないと思うようになった。
 気になる時も定期的なので、これもこの神社とのかかわりを感じさせ、そのおかげでその日も立ち寄ることになった気がした。
「まさかとは思うけど、さっきの時間を食べると言っていた老人、ここの神様に関係あるのかしらね?」
 などと考えてみるうちに、次第に酔いがさめてくるのを感じると、先ほどの老人の顔がどんどん薄れてくるのを感じた。
「どんな顔だったのかしら?」
 とまで思うようになると、さっきの話までもが、まるで幻ではないかと思えた。
 つかさは、その日、鎮守様にお祈りをしてから、そのまま返ろうと、その日は、鎮守から家までのいつもの道である、公園に差し掛かった。
 この日は、まだホームレスの死体が発見される前だったので、公園には何も施されていなかった。
 つかさは、まだ少し酔いが残っていたので、ベンチに座って、酔いを覚まそうと座っていたが、後ろから誰かに襲われた気がした。
「誰?」
 と声を発したが、酔いが戻っていなかったので、抵抗はできなかった。
 男は目出し帽をかぶっていた、まったく顔は分からない。その様子は明らかに犯罪者であり、自分がその男に蹂躙されてしまったことに気が付くと、怖くて声が出せなくなってしまった。
 男は、つかさのみぞおちを殴ると、そのままつかさは息ができなくなり、気絶してしまった。
 少しして抱えられるように感じたが、今度はまた下ろされて、次第に意識がハッキリしてくると、今まで自分を蹂躙しようとしていた男がこちらに背を向けて、誰かを相手にしているようだった、
 その人はこちらに向かっていて、身構えている。ただ、その様子はみすぼらしく見えて、ホームレスのようだった。
「何、邪魔してくれ用としているんだよ」
 と、目出し帽の男がいうと、
「お前こそ、何をここで女を襲うようなことをしてるんだ。お前なら、女を襲う必要なんかないだろう」
 とホームレス風の男が言った。
 その話を訊くと、どうやら二人は知り合いのようだった。
「なぜ、そんなことが分かるんだ?」
「だって、お前は金にモノを言わせることができるだろう?」
「ふん、そんなことか。俺はもう金にモノを言わせて手に入れることに飽きたのさ。暴力でも犯罪でも何でもいいから、俺の力で手に入れるものがいいのさ。金の力なんかに頼らなくともな」
 と目出し帽の男は言ったが、話を訊いている限りでは、暴力や犯罪よりも、この男にとっては、金の方が程度の低いものに感じられた。その様子は金を憎しみにさえ思えるかのようだった。
「お前のような男が、この世をここまで腐らせたんだな」
 というと、ホームレスの手にはナイフが握られていた。
 二人はもみ合っていたが、さすがにつかさは恐ろしくなって。その場を離れた。どちらが勝ったにしても、目撃者であるつかさは、後でどうなるか分からない。二人が争っているうちにつかさはその場を逃げ出した。
 つかさは家に帰り、そのまま布団をかぶって震えていて、結局その日は一睡もできなかったのだ。
 それから二日後に、京極氏が、つかさを訪ねてやってきた。かなり憔悴したつかさを見て、
「どうしたんだい? そんなにくたびれてしまって。アルバイト先に聞くと、最近休みがほしいと言って、少し安いんでいると聞いたので、ビックリしてきて見たんだけど、こんなになってるなんてね」
 と言われた。
 つかさは翌日から新聞などを見て、昨日の結果がどうなったのかを見ていると、
「ホームレスが公園で殺害されている」
 と書かれているのを見て、自分で勝手にその内容を推理した。
「私を助けてくれたホームレスが殺されて、結局、犯人は私を襲おうとした男なんだ」
 ということが分かった。
 それとなく、京極氏に聞くと、
「あのホームレスだけどね、まだ警察も誰なのか分かっていないようだけど、実は俺は知っているんだよ」
「どういうこと?」
「あのホームレスは、あの公園の近くにある神社をねぐらにしている人で、ホームレスというよりも、仙人のような人だと子供たちのウワサになっている人だったんだ。僕は一度取材しようかと思ったんだけど、どうやらその人も元は同業者だったようで、その人を警察が探しているようだよ。というか、探すように仕向けたのは、実は俺なんだけどね」
 ということだった。
 京極氏は続ける。
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次