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時間の螺旋階段

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「いかに相手を出し抜けるかという意味では、情報戦以外の何者でもないような気がする」
 と言えるのかも知れない。
 どんなに結束力があり、組織の底力が強くても、相手が攻めてくる方向を見誤ってしまえば、まったく兵隊も役に立たない。
 特に情報戦は、IT戦略でもある、最新の情報が分かっていなければ、まるで竹槍を使って、爆撃機を叩き落そうなどというようなもので、守らなければならないところに守りを固めず、相手に迫って突進している間に、自分の陣地に攻め込まれていて、落城の憂き目をえたのだとすれば、
「タイムマシンを使って、歴史をやりなおすことができない以上。我々にはどうすることもできない」
 ということである。
 警察の力というものをどこまで信じているかにもよるのだろうが、少なくとも、
「警察もバカではない」
 と思いたいであろう。
 さすがに、東条記者が何を探っていたのかまでは、編集長は教えてくれなかった。
 これは、出版社の方では把握しているが、いくら相手が警察であっても喋らないという、出版社特有の守秘義務のようなものか、それとも、本当に知らないのかのどちらかであろうが、辰巳刑事は、いくら出版社とはいえ、自分たちの仲間が行方不明になっているのに、それを守秘義務として守ろうとするのもおかしいだろう。
 最初の二週間くらいであれば、連絡がなくとも、
「調査に必要な連絡できない期間」
 ということで許容範囲なのだろうが、さすがに数か月ともなると話が変わってくる。
 しかも、そもそもこの話は、編集長が警察に顔のきく(と言っても、辰巳刑事だけではあるが)田中氏に話をした時点で、警察がやってくることは織り込み済みであろう、それくらいのことは何も言わずとも忖度できる田中氏だったからである。
 そういうことであれば、
「出版社の守秘義務」
 という考え方はあり得ないだろう。
 ということになれば、編集長も、詳しいことを知らないということであろう。
 詐欺集団ということだけは分かっているが、その組織がどれほどのものなのか。バックに何もいない単独の組織なのか、それとも、反社会的勢力や暴力団関係が絡んでいるのかによっても全然変わってくるだろう。
 そもそも、行方不明になった東条記者という人がどれほど仕事に忠実なのか、怖い者知らずで特ダネを追いかけるタイプか、さすがに危険なところには顔を突っ込まない人なのかによって、その組織が分かってくるというものだ。
 編集長がいうには、
「東条記者というのは、よくも悪くも平均的な記者なのかも知れないですね。そういう意味では無茶はしない。もし、潜入捜査のようなことをするのであれば、よほど自分でその組織の情報を集めて、それで危ないところがないとすれば、潜入するという、
「石橋を叩いて渡る」
 という用心深いタイプだという。
 ということは、彼が調査した中では、本当に危なくないという結論が出たのだろうか。もしそれであれば、彼の失踪はこの詐欺グループとは関係ないのかも知れない。偶然何かの事件に巻き込まれたのか、それとも別のところで、表に出てくることができなくなったことが理由にあるのかも知れない。
 次に考えられるのは、詐欺グループが、よほど厳重な隠れ蓑を持っていて、その結界に引っかかってしまったと考えられなくもない。そうなると、バックに危ない組織がついている可能性もあり、それこそ、一番最悪の考え方になってしまうが、東条記者の命も風前の灯なのかも知れない。
 いろいろな可能性が考えられるが、一つ言えることは、潜入捜査で取材に当たっている一人の雑誌記者が、行方不明になっているということだ。
 しかも、唯一と言ってもいいくらいの情報として得られた、グループのアジトやれなく先で分かっている中に、この間殺されたホームレスの死体が発見された公園があるということだ。
 これも偶然とはいえ、辰巳刑事が捜査している殺人事件に絡んできたというのは、可能性としては、二つの事件がどこかで繋がっているということは大いに考えられるのではないかということであった。
 辰巳刑事は、まだこの段階で、捜査本部にこの情報を持っていく段階ではないと思っていた。
 その理由の大きなところとしては、
「あまりにも情報が不確定で、殺人事件の方もまだまだ解明されていないことが多いからだ」
 ということが挙げられる。
 結び付ける先の殺人事件自体が、まだ不特定なので、そこに、さらに不特定で、まだ関係があると言える段階ではないこの失踪事件を結び付けるというのは、捜査で一番やってはいけない、
「先入観による捜査」
 という、思い込みによる捜査になってしまわないかという懸念があるからだった。
 特に門倉警部は、思い込みの捜査を嫌うところがある。
「捜査において、一番やってはいけないことは思い込みによるものだ。もちろん、ほぼ事件の全貌が見えてくれば、一気に推理することもありだとは思うが、まだまだ取捨選択が必要で、さらに、取捨選択できるだけの情報すら集まっていないところでの思い込みは、自殺行為となるのだということを意識してもらいたい」
 と若い頃に門倉刑事から教えてもらった刑事のイロハだった。
 捜査を続けていく中で、辰巳刑事は、河川敷から少し離れたところにホームレスがたまに集まっているという情報を得ることができた。彼らが普段はどこにいて、どこから来るのかは分からない。ただ、やってくる曜日は決まっているということだった。
 辰巳刑事は、付近の捜査を受け持っていた初動捜査の序盤で聞き出すことのできなかった情報を聞き出すことができたのだが、それがどうしてなのか、他の人には誰も分からなかった。
 もちろん、辰巳刑事のことなので、
「さすが辰巳刑事」
 と、このことに誰も不信感を抱く者がいないほど、辰巳刑事の働きというのは、周知のことだったのだ。
 辰巳刑事がまわりを説得できたのは、辰巳刑事のその顔の真剣さにまわりが委縮したからではないだろうか。辰巳刑事のような勧善懲悪な人が、ただでさえ、
「悪を許さない」
 という顔でくれば、ホームレスの人もその真剣さに心を打たれたとして、それも事実だろう。
 しかし、辰巳刑事はホームレスの捜査以外に、もう一人、東条記者の捜査まで行っていたので、ホームレスとしても、
「刑事さんの捜査は、一人ではないのか?」
 ということだったので、どうしても真剣な気持ちに至るのも当然ではないだろうか。
 辰巳刑事は、半分くらいの感覚で、そのホームレスの正体が、東条記者ではないかという思いをい出していた。
 東条記者は、潜入捜査を行うについて、もちろん、変装すれば、その変装した人間になり切るところがあるらしかった。それは編集長に聞いたのだが、そのことに対しては彼はプロだったという。
 もっとも、危険な仕事ではあるので、それくらい徹底できる人間でなければ、そんなこともさせられない。
 そして、東条記者は、いつも一人だった。結婚しているわけでもなく、誰かと付き合っているという話も聞いたことがない。
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次