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時間の螺旋階段

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           失踪者は誰?

 辰巳刑事は、まず行方不明になったという記者の所属する会社の編集長に逢うことにした。編集長はそもそも記者の失踪を友人の新聞記者に相談したこともあり、事情は分かっている。警察が来ることも分かっているし、新聞記者が辰巳刑事と昵懇なのも分かっていた。
 ただ、辰巳刑事のウワサは彼から聞いてはいるが、何しろ初対面であり、しかも、部下の失踪という事件絡みのことで事情を訊かれるということで、どうしても緊張が走ってしまう。
 それを思うと、何から話していいのか分からなかったが、他の人に相談してしまったことを、後悔すらしているくらいだった。
「今日は、お時間を作っていただき、申し訳ありません。山井新聞の田中記者からこちらの話を伺って訪ねてきました」
 というと、編集長も分かってはいるが、すぐに緊張が顔に現れて、ソワソワしているように見えた。
「はい、東条君のことですね?」
 と何とか、声のトーンを普段と変わらないようにしようと思っているせいか、これ以上でないというほどに、声が低くなり、ハスキーボイスになっているのが分かった。
 そんな状態になっていることに気づいた辰巳刑事は、
――この人は、思ったよりも小心者なんだろうな――
 と、すぐに彼の性格を見切っているようだった。
「はい、田中さんの話によると、ここ数か月ほど、連絡が取れていないということですが、それについて何か分かりますか?」
 と、最初は、何も知らない人のように、漠然とした質問をした。
「ええ、実は我が社では、気になる記事があれば、潜入捜査のようなものをやっているんです。警察の内偵などのように、危険なことはしないですが、なるべく、相手に寄り添うような素振りを見せて油断させるというようなやり方ですね」
 と編集長は言ったが、
――この人、小心者に見えるが、言葉の使い方は、かなり挑戦的なところが多いな――
 と感じた。
「これは、いきなり手厳しいですな。警察も内偵やおとり捜査は、基本的には認められていませんからね」
 というと、
「それは失礼しました。実は我々が潜入捜査をやっているのは、ある詐欺グループの実態を暴こうということなんです。今の詐欺というのはご存じのように、一つのところからいくつにも広がっていて、その中にいくつかのトラップもあるので、詐欺グループの実態に近づくというのは、かなりの至難な業なんです。まずは相手を安心させて、安全な中でこちらの主旨を悟られないようにするには、信頼を受けるしかないんですよ。信頼を受けるには時間が必要。東条君というのは、今までにも何度も同じような橋を渡ってきている実績があるので、ある程度安心しているんです。それに、危険を少しでも感じたら、必ず引き下がるというのがこの仕事の鉄則なんですよ。下手に睨まれると、一つのネタのために、出版社存続はおろか、自分たちの命までもが危うくなってしまう可能性がありますからね。だから、一旦潜入すると、一定期間、連絡が取れなくなるkとはしょうがないことなんです。下手に連絡を取って、怪しまれることは避けなければいけませんからね」
 と編集長がいうのを聞いて。
「だから、数か月も放っておいたというわけですね?」
 という辰巳刑事に。
「ええ、そうです。下手にこっちが動けば、せっかく潜入している東条君の身の危険もあるし、みすみすこちらの存在を明かすようなことになってしまいますからね。それだけは避けなければいけないんですよ」
 と、編集長がいう。
「ところで、その組織のことはどこまで分かっているんですか?」
 と訊かれて、
「彼らはいくつかのアジトを持っているようなんですが、連絡先に使う場所はある程度決まっていて、時間帯によって分けているようですね。ほとんどが夜なんですが、ハッキリと分かっているのが、実はこの間、ホームレスの死体が発見されたという、あの公園なんですよ」
 というではないか。
「えっ?」
 とさすがにこれには辰巳刑事も驚いた。
 しかし、考えてみると、事件が起こっているのに不謹慎かも知れないが、そもそも元々の表に出ている事件は、ホームレス殺人事件が辰巳刑事の事件であった。
 失踪者の事件は、
「本来の事件の捜査を疎かにしない程度」
 という約束で、田中氏から引き受けた者だった。
 旭日出版に出向いてきたのも、近くで目撃者を探すという名目で近くまできたから、そのついでに立ち寄ったもので、その話はこれからするつもりでいた。それなのに、向こうから公園の話を持ちだしてくれるというのは、手間が省けたとも言えるし、ひょっとすると、記者の失踪事件と、ホームレスが殺された事件とでは、底辺で結び付いているのかも知れない。
 それを思うと、さすがにまだ、何も分かっておらず、ただ、公園という共通点があったというだけの薄い関連で、この二つの事件を結び付けるには、時期尚早である。だから、まだ捜査本部にこの話を持っていくことはできないと辰巳刑事は考えていた。
 本来の事件の捜査に時間を割かなければいけないので、詳しい話を訊いている時間もない。それだけに、とりあえずこの情報だけで、その場を離れなければならなかったが、それでも、たったこれだけの情報で、
「ひょっとすると、二つの事件が一気に解決するかも知れない」
 ということが分かっただけでも、成果は十分にあったと言えるだろう。
 ただ、辰巳刑事は一つ確認しておく必要があった。
「詐欺事件というのは、実際に警察の方で、認識していることなんでしょうかね?」
 と聞いてみた。
「ハッキリとは言えませんが、警察が内偵しているというようなことは、田中君は言っていませんでしたね。あくまでも、自分だけが潜入しているという話でした」
 ということだった。
 警察も暴力団絡みであったり、薬物などが絡んでいたり、海外のマフィアなどの組織と関係していたりなどの、放置できない捜査であれば、潜入捜査もあるだろうが、普通の詐欺グループくらいでは、そこまで危険を犯してまで潜入捜査をすることはないだろう。
 ただ、最近は現職の刑事などの現場の知らないところで、いつの間にか、特定の悪の組織をターゲットにしたような秘密部署が設立されているというようなウワサを訊いたことがあった。
 警察というところの捜査は、内偵によって、いろいろ分かってきているようになったが、相手の組織も何とか警察の目をかいくぐろうと必死になっている場合もある。
 特に、同じような組織と勢力図が被っていれば、どうしても、抗争が起こらないとも限らない。
 対応組織だけでなく、警察も相手にしなければいけなくなれば、組織も存続問題でかなり大変である。
 下手をすれば、組織が一旦手を握り、束になって警察に襲い掛かってこないとも限らないだろう。
 それを思うと、警察も警戒しないわけにはいかない。マルボーや薬品専門の部署なども存在するので、警察もそれなりに組織としての体裁は整っている。
 このような三つ巴の状態において一番必要になってくるのは、情報力ではないだろうか?
 組織としての根本からの力であったり、兵隊の数も重要であるが、
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次