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時間の螺旋階段

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 刑事課に配属になってから、上司の門倉警部からも同じように、
「彼は勧善懲悪なところがあるが、何よりもコツコツと努力ができるすばらしい部下である」
 という評価を受けていた。
 だから、門倉警部が刑事時代から、新人だった辰巳刑事と一緒にコンビを何度も組んできて、辰巳刑事の成長を一番支えてきたのか、門倉警部だった。
 門倉警部は、刑事として、最前線での活躍が長かったので、最近までは捜査を続けていた。そのせいもあってか、人脈も広く、門倉警部の名前を出せば、普通の刑事には答えてはくれないような情報も、積極的に話してくれる人も結構いたりした。
 辰巳刑事はそんな門倉警部の刑事時代を忠実に踏襲していて、
「門倉刑事の後には辰巳刑事がいる」
 と、K警察署管内では、よく言われていたものだった。
 だから、この新聞記者も辰巳刑事には、かつての自分のこともあって、全面的な信頼を置いている。それでも、この情報はかなり勇気のいる提供だったに違いない。
「そっか、今回の事件と、君の教えてくれた記者の失踪がどこかで繋がっている可能性もあるわけだね_」
 と辰巳刑事はいうと、
「ええ、確証となるものは何も発見されていないんですが、週刊誌業界では、この話が少しウワサになりかけているんですよ。出版社が、それを何とか止めようとすることは必至なんですが、そのやり方によっては、事件の関連を匂わせるに十分な証拠になるのではないかと思っているんです。でも、下手をすると、やつらに先に情報を掴まれる可能性もありますよね。だから、その前にと思って辰巳さんにご相談したわけです」
 とその記者は言った。
「ありがとう、じゃあ、その情報を元に捜査させてもらうよ。今日は貴重な情報を与えてくれて助かったよ」
 と、辰巳刑事は、恐縮していた。

              不可解な記憶喪失

 辰巳刑事は、勧善懲悪なところがあるので、人の温情をずっと大切にするタイプだった。それだけに、ニュースソースは大切にしていて、よほどの確証がなければ、それを上司とはいえ、話すことはしなかった。相手が尊敬する門倉刑事であっても、そうだった。あくまでも個人からもらった情報は、個人として受けるのだった。
 今の時代は個人情報の保護が叫ばれているが、もし、そんな法律がなくても、辰巳刑事は、人から得た情報を勝手に誰かに漏らすようなことは絶対にしない。
「そんなことをして、予期せぬことがせっかく情報をくれた人に及んでしまわないとも限らない」
 と考えた。
 そうなると、せっかくの情報提供者を裏切ることになるし、何よりも、自分のポリシーを裏切ることになると思っていたのだ。そんな辰巳刑事は、自分がいかにまわりに対しての態度を取って行けばいいのか、却って悩むことはないのだ。
「目指す方向は決まっている」
 だから、ブレることもなく、それだけに、まわりの人からも、
「あの人は分かりやすい人だ」
 と思わせることもできる。
 そういう意味で、少々の小細工は、見破られることはない。
「辰巳刑事に小細工なんて、想像もつかない」
 とまわりに思わせることができるからだ。
 それだけ、元々が実直で素直な性格だということだろう。猪突猛進と言えば言葉は悪いが、
「猪突猛進という言葉でさえ、辰巳刑事になら、まったく悪い言葉には聞こえない」
 と言われるほどに、まわりからの信頼は厚かったのだ。
 そんな辰巳刑事は、今までに何度も門倉刑事と事件を解決してきて、最初の頃は、
「足で稼ぐ捜査」
 を中心にしていて、最後の謎解きは門倉刑事というのが多かったのだが、門倉刑事とコンビを組んで三年目くらいからであろうか、次第に足の捜査だけではなく、頭の捜査の方にも絡んでいき、今までに辰巳刑事の名推理で解決した事件も多々だったのだ。
「冷静沈着とは少しイメージが違った」
 と思っていたまわりの人も、事件解決という一つのことに集中した時の辰巳刑事は、
「まるで今までとは別人のようだ」
 と思わせるほどに、その推理の幅の広さ、そして、発想の豊かさには、舌を巻くほどであった。
 何しろ自分の足で稼いできた情報を、頭の中で噛み砕いていくのだから、ある意味、リアルタイムでの事件との相対に、情報が集まったうえで一つ一つ組み立てていく捜査との違いを、示すという、新しい捜査方法を気付いた先駆者とも言えるであろう、
 ただ、実際に捜査をしている本人に、そこまでの自覚はなかったが、リアルタイムな情報を推理に結び付けていくやり方は、柔軟で限りない可能性を示しながらも、その中から的確に必要分を取捨選択できるだけに、従来の捜査とはまったく違っていた。
 今までの捜査は、
「どうしても、警察の捜査には限界がある」
 と言われてきて、証言が得られなかったり、令状がなければ、家宅捜索ができないなどというしがらみを勝手に過小解釈してしまうことで、おのずと捜査に対して、その可能性を自らが狭めてしまっていたのだった。
 それを打開するために、いろいろな捜査方法が考案されてきた。
 犯罪捜査に科学捜査がどんどん入ってきたのもそのためだろう。
 そういう意味では、ミステリー小説における、トリックの種類も今ではトリックとして使えないものも結構あるだろう。
 たとえば、電話や通信機器の発達によって、アリバイトリックの幅が狭まったり、身元の分からない死体であっても、昔なら、指紋や顔を分からなくして、特徴のあるところを潰してしまうとできるだろうが、今ではDNA鑑定などもある。
 ただでさえ、ミステリー業界というのは、
「これまでにトリックというものはほとんど出尽くしてしまっているので、あとはバリエーションの問題だ」
 と言われるようになっている。
 実際にこれが言われ出したのは、日本でやっと探偵小説として、それまでの黎明期からやっと表に出てきた時代であったのに、すでにそういう時代に入ってきていたことを、どれだけの探偵小説ファンは理解していただろうか?
 最近での海外のミステリー小説と言われるのは、ほとんどがトリックによる謎解きというよりも、動機であったり、事件経過などを重視した話が多くなっているというのも分かる気がするのだった。
 辰巳刑事も警察官になろうと思ったのに、いくつかの理由があるのだが、その中の一つとして、探偵小説を読んできたことが理由にあった。
 それも、昔の頃の探偵小説である。
 中学時代によく読んでいたが、大正時代から、戦後くらいまでの探偵小説をよく読んでいた。
 黎明期から脱却し、日本で探偵小説としての地位が確立されてきた時代だったのだが、その頃は、時代背景もあってか、トリックによる謎解きなどが多かった時代である。
 それを、
「本格探偵小説」
 と呼ぶ人がいた。
 そんな本格探偵小説以外を、
「変格探偵小説」
 という言い方をしていたようなのだが、それが時代背景に密接に結びついている作品が多かったのだ。
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次