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時間の螺旋階段

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「人の数だけ孤立した世界が広がっていて、その世界との境界線が結界として存在することで、それを忘れないようにするという目的をもって見るというのが、夢というものであり、その夢の存在意義なのではないのか?」
 と考えられる。
 夢を孤独なものだと考えると、無限に広がるもう一つの孤独な世界は、先ほどの老人が口ずさんだような、
「時間を食べている」
 という発想になるのだろう。
 時間というののと夢というものの結び付き、そして時間を食べるのが、夢を食べる動物として存在する獏のようなものが本当に存在するのか、ひょっとすると、果てしなく人の数だけ広がっている孤独な、もう一人の自分が、時間というものを食べているのかも知れない。
 自分にとってのもう一つの世界が、人それぞれで重ならないのは、時間を食べるタイミングが、それぞれの人によって違うからだ。
 孤立しているという意識が、時間を狂わせて、狂った分だけ食べてしまう。そんな理屈を考えていると、つかさは、自分が何を考えているのか、感覚がマヒしてきた。
「これから、起こることは、最初から決まっていたことなのか、それとも、孤立している自分の存在に気づいたことで、歪んでしまった世の中を進んでしまおうとしたバチなのか、そのことをつかさは思い知ることになるのだ。

             捜索願

 ホームレスが殺されたその日に、所轄警察の方で、捜査本部が出来上がり、さっそく、捜査会議が行われていた。本部長になるのは、門倉警部で、部下の清水刑事、桜井刑事、さらに辰巳刑事という、K警察署では、お馴染みの面々が捜査に当たることになった。
 初動捜査に参加した清水刑事と桜井刑事の報告がまず行われていたが、そこに、鑑識からも詳しい内容が入ってきた。
 捜査本部は昼から行われたが、その間に司法解剖が行われ、犯行現場付近の目撃情報などを当たってみたが、いかんせん夜中のことなので、誰も目撃情報を得ることができなかった。しかも、その時点では、死亡推定時刻もハッキリしておらず、ホームレスの正体も分かっていなかったので、目撃情報を聞き出すのも難しかった。
 第一発見者の筒井正孝の話も曖昧で、ハッキリとしなかったが、それもホームレスの正体も分かっていないことから、初動捜査がうまくいかないのもしょうがないことではあった。
 だが、まったく成果がなかったわけでもない。
 死体が発見されてから、警察が到着し、鑑識の捜査と、第一発見者への事情聴取を行っている間に時間が過ぎていき、次第に普段の散歩やジョギングにやってくるはずの人が公園を訪れて、その人たちは、すぐに踵を返して引き返すようなことはなく、この異様な様子を眺めていてくれたおかげで、彼らにも事情を訊くことができた。
 たとえば、毎日五時半にこの公園の外周をジョギングしている人に話を訊くことができたのだが、その人は伝染病が流行り出してからの運動不足を解消するためにジョギングを始めたという、まだ初心者に近かった。そのため、毎日、同じ時間にここにきて、判で押したような毎日を過ごしていたおかげで、そのホームレスのことが少しだけ分かったのだった。
「あのホームレスですか? ええ、見たことありますよ。あの人は毎日ではないですが、いつも五時半になると、この公園にやってきます」
 というではないか。
「毎日ではないということは、曜日が決まっていたということかな?」
 と訊かれて、
「私はジョギングを始めて一か月なので、ハッキリtとは分かりませんが、私がき始めてからは決まった曜日ですね」
 というではないか。
「それはいつですか?」
「火曜日と木曜日だと思います」
 ということだった。
「週に二回ということですか?」
「ええ、私の知っている限りはですね」
 とその人は話してくれた。
 死体が発見されたその日は、金曜日であった。そのジョギングをしている人の話を信じるとすれば、ジョギングをしている男が現れる五時半には、この公園にはいないはずだったということになる。最初は、この男性がウソをついているのかも知れないと思ったが、その後に同じように散歩をしている人の意見も聞けたので、訊いてみると、ジョギングをしている男性の話のウラが取れた証言であった。二人が共謀でウソを言っているわけではないだろうから、どうやら、
「ホームレスが現れるのは、火曜日と木曜日ということになる」
 という話には、信憑性がありそうだった。
 それを捜査本部で報告すると、
「じゃあ、殺されたホームレスは、金曜日の五時半の時点ではその公園には姿がないということだと考えると、殺されていなければ、どこか別の場所に言っていたということになるのかな?」
 という辰巳刑事に対し。
「そういうことになりますね」
 と桜井刑事が答えた。
「ここに鑑識からの報告書ああるので、説明しておきましょう。まず死亡推定時刻ですが、やはり最初に見られていたように、午後十時過ぎくらいだったようですね。そして凶器は胸に刺さっていたナイフに寄る刺殺。出血多量によるショック死ということですね。そして、被害者の胃の中は空っぽだったということ、つまり、その日はほとんど何も食べていなかったということでしょうか? しかし、だからと言って空腹で弱っていたということもないようで、そもそも、あまり色の太い人でもないということ。これで分かることは、付近に落ちていたおにぎりを食べていなかったことが証明されたことになりますね」
 と、清水刑事が報告した。
「あのおにぎりは何だったんでしょうか?」
 と桜井刑事が訊くと、
「鑑識の分析結果として、あのおにぎりには、青酸カリが混入されていたということであるが、実は致死量には達していないくらいにしか入っていなかったらしいんだ。だが、食べていれば、ショック状態になったことは間違いなく、死なないまでも、救急車を呼ばれるくらいの状態で発見されていたことになるようだ。どちらにしても警察が出動することにはなったと思うのだが、この青酸カリを混入した人物と、実際に反応に及んだ人物が同じかどうかも捜査してみないと分からないだろうね」
 と清水刑事が言った。
「この男性の自殺ということも考えられますよね?」
 と、辰巳刑事が訪ねたが、
「もちろん、その可能性もあるだろう。だが、今の段階では何も言えない。そういう意味でもまずは、この被害者が何者であるかということを突き止めるのが、まずは一番大切なのではないかと私は思っているんだ」
 と、清水刑事は言った。
「ジョギングの人の話では、毎週、火曜日と木曜日の五時半過ぎに、この公園に来るということですよね?」
 と、辰巳刑事が訊くと、
「ああ、そういうことだね」
 という清水刑事に対して、
「火曜日と木曜日に何かあるのだろうか? 五時半にこの公園に来なければいけない理由が」
 と、独り言のように桜井刑事が呟いた。
「誰かと待ち合わせをしているとか、誰か気になる人物がその時間に来ているかということでしょうかね?」
 と辰巳刑事がいうと、
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次