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時間の螺旋階段

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 と書かれていた。
 肩書は、
「スカウト兼カメラマン」
 ということで、出版社の名前はあまりイメージはなかったが、彼らの発行している雑誌「ミルキー」というのは、本屋の雑誌コーナーでも、コンビニの書籍コーナーでもよく見かけていたので、それなりの出版社なのだということは分かっていた。
「裏に、私の連絡先を明記しておきますので、よかったら、こちらにお電話ください」
 と言って、名刺の裏を見ると、彼のケイタイの場号が書かれていた。
 その男はその日はそれだけいうと、素直に引き下がった。いきなり声を掛けてきたので、まったく予期していなかっただけに、戸惑っている相手をこれ以上攻めても逆効果だということを分かっているのだろう。そういう意味では、
「さすが、スカウト兼カメラマンだわ」
 と思わせたが、アルバイトも終わって一人きりになったつかさは、帰りに寄ったコンビニで、問題の雑誌「ミルキー」を買って帰った。
 雑誌ミルキーは、隔週発売のファッション雑誌で、表紙はいつも女性モデルが飾っている。
 しかも、それはプロのモデルというわけではなく、素人の大学生であったり、主婦などであった。プロのモデルのようにモデルらしい服装をしているわけでもなく、どちらかというと自然体がよかったのだ。
 中を見ると、巻頭を飾るのはプロのモデルの、いわゆるグラビアページで、いかにも撮りおろしという印象であった。
 カメラマンを見ると、本当にプロのカメラマンが撮影しているようで、京極氏の撮影ではないようだった。
 巻頭のグラビアページが終わると、目次があり、そこの上部に、表紙モデルの名前が書かれていて、カメラマンとして、京極氏の名前があった。
 それを見ると、なるほど、京極氏が探しているのは、表紙モデルであって、毎回人気の素人モデルを探していることはよく分かった。つかさもこれを見ると、
「これなら私でもできるかも知れないわ」
 と思った。
 さっきはあまりにも突然だったので、意識はしていなかったが、今ではカメラマンの顔を思い出しながら雑誌の表紙を見ていると、
「悪くない」
 と感じるようになった。
 その回の表紙を飾っている女性は主婦のようで、大人の魅力を感じさせる女性だった。笑顔が何と言っても素敵で、これなら、女性うけもするであろうし、男性に対しても癒しになるのではないかと思うのだった。
 さすがに、元々は女性向けの雑誌だったが、最近では男性もターゲットにし始めただけのことはある。
 ただ、まだ男性に対しての知名度は薄いようなので、表紙モデルに力を入れて行こうというところではないのだろうか。
 もっとも、この話は、先ほどバイト先で、
「平成出版の記者に、雑誌『ミルキー』のモデルにならないかとスカウトされた」
 と話をしたことで、その人が結構雑誌に関しては詳しい人で、よく知っていたことでの知識から判断したものだった。
 バイト先で、いつも相談に乗ってくれる人で、その人は主婦なのだが、それだけにしっかりしていて、
「頼りになるお姉さん」
 というところであろうか。
 そのお姉さんの話によると、
「平成出版というところは、それほど大きな出版社ではなくてね。というのは、地元の出版社で、地元のニュースが中心だから、出版社の名前よりも、雑誌の名前の方が有名なところなの。規模が大きくない割に、雑誌の売れ筋からすると、なかなかなんじゃないかしら?」
 という話だった。
「信用して大丈夫なのかしら?」
 と、少し不安な感じで話してみると、
「別に、プロになるためのスカウトではないんでしょう? だったら、そんなに深く考える必要もないんじゃないかしら? 気楽に構えていればいいと思うんだけどね。せっかくだから、最新号を本屋かコンビニで買って帰って見てみればいいんじゃない? そのスカウトの人が、そんなに強引ではないような話だったので、後はつかささんの気持ち次第なんじゃないかしら?」
 ということだった。
「でも、私のような地味な女に、モデルなんて」
 と、自信がないようなことをいうと、
「それは私にも分からないけど、スカウト兼カメラマンの人が、名刺を渡してお願いしているんだから、自分の雑誌に似合う人だと判断したからなんじゃない? そこを疑うというのは、ある意味その人に失礼な気がするわ」
 と言われた。
「そうね、そうよね。私、雑誌を買って帰って、読んでみるわ」
 と言って、実際に買って帰ってから読んでいるという次第だった。
 雑誌の中身は、まず最初の方のページには、今週の特集コーナーということで、
「春のデートスポット」
 として、大学生から、新婚さんまでをターゲットにした、地元のデートスポットを特集している。ここには、大学生の男女が、読者モデルという形で参加していて、その表情は実に楽しそうだった。
 特集によって、二組のカップルが載っているが、この二組は果たして本当のカップルなのかどうか、つかさには分かりかねるところがあった。しかし、その表情は、表紙モデルの主婦の人に負けず劣らずの表情で、ホクホクした気持ちにさせられるのは、
「ある意味カメラマンである京極氏の力なのだろうな」
 と思わせた。
 そして、特集ページが終わると、連載の料理コーナーのようで、ここではモデルというよりも、お料理の先生が出てきて、おいしい料理の作り方を指南していた。
「ここはきっと、結婚が決まった女性や、主婦をターゲットにしているんだろうな?」
 と思ってみていたが、結婚はおろかまだ相手もいないつかさにも興味がそそられるページではあった。
 その後は、地元の有名レストランを特集していたり、映画やテレビなどの紹介がされていたりと、いわゆる、
「地元発行の情報誌」
 というイメージの内容になっていた。
「なるほど、これなら、本屋でもコンビニでも売れるはずだわね」
 と、今まではほとんど見たことがなかった雑誌「ミルキー」を改めて見ると、結構いけているように感じるのは、贔屓目だからだろうか?
 次第につかさの気持ちは、
「私がモデルというのも悪くない」
 と思い始めた。
 どんな内容になるかにもよるが、再度話を訊いてみるくらいはありかも知れない。そう思うとつかさは、さっそくカメラマンの京極氏に連絡を取ってみる気になっていたのだ。
 さすがい今日の今日では、あまりにもがっつぃているような気がして、気が引けた。
 翌日になって、午前中、部屋を片付けたりして、一度落ち着いて考えてみると、
「やはりやってみよう」
 と思う気持ちに変わりがなかったことで、午後になってから、京極氏に連絡を取ってみることにした。
 そもそも、つかさというのは、
「善は急げ」
 と感じる方で、自分の中で行動しようと考えた時、すぐにやらないと、意外と冷めるのが早いのではないかと自分で思っていたからだった。
 しかし、実際にはそんなに冷めるのが早いわけではなかったのだが、つかさとしては本当に、
「思い立ったが吉日」
 という思いが強くあったのだ。
「私にとって。閃きって結構大切なのかも知れない」
作品名:時間の螺旋階段 作家名:森本晃次