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悪魔の保育園

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 という、まったくトンチンカンな発想を抱くのだった。
「何言っているのよ。そんな都合のいい解釈をしないでよ」
 というと、男は面白がって、
「いいんだよ。僕たちの間で恥ずかしがることはないのさ」
 という。
 だから、二人の間の会話に、一切の結びつきはなく、完全に、すれ違っているとしか言えなかった。
 そうなると、有利なのは相手である。
 それを分かっているだけに、余計にこっちは、焦りに感じる。相手もこっちが焦っていることを分かっているので、結局、こっちが攻めても、いかにもという形で簡単にごまかされてしまうのだった。
 案外と悪党というのは、そういうところがある。
「相手がのらりくらりと何をしてくるのか分からない」
 ということになると、自分の中で焦りが渦を巻いていて、相手と会話をすればするほど、相手の術中にはまってしまうのだ。
 女とすれば、
「話さないと分からない」
 と思う。
 しかしそれは、
「話せばわかってくれる」
 という、常識的な考えに基づいてのものだ。
 しかし、ストーかーになるような男に、そういう常識は通用しない。
 警察が中に入っているからと言って、相手がごまかしてくると、意外と相手も、
「この女は俺のものだ」
 とでも思っているからだろう。必要以上に落ち着いているのだ。
 警察までもが、手玉に取られるということになる。
 警察とはいえ、法律の範囲内。さらには、警察の都合のいい理論などは、ストーカー側からすれば、論破は簡単なんだ。
 なぜと言って、
「ストーカーになるような男は、一度自分の中で、精神的な浄化が行われている」
 だから、警察の、まるで教科書のようなお花畑的な理論など、簡単に論破できるのだった。
 警察の方もストーカーの中の一定数に、
「そういう頭のいいやつがいる」
 ということが分かっている人もいる。
 だから、あまり、論破されそうな時には、
「なるべく相手の調子に合せてしまうようなことをしてはいけない」
 というような、マニュアル的なものが出来上がっていたりしたのだ。
 今回は、相手が誰であるかということを、八重子が言わなかった。それは、八重子が、
「必ずしもその人だとは、どうしても言い切れない」
 と思ったからであって、その考えは間違っていなかった。
 だから、警察は、
「じゃあ、あなたの携帯から警察に電話があった時は、最優先で対応するようにしましょう」
 ということだったのだ。
 というのは、
「ストーカー犯罪というのは、危険が迫って助けを求めても、間に合わないなどということがありえるので、110番の中でも、優先で動く番号として登録しておきましょう」
 というものであったのだ。
 ということで、八重子の番号は警察の110番機能の最優先ということで、登録された。
 しかし、ちょっと考えればおかしなものである。
 それを、八重子は訪ねてきた。
「もし、気に障ったらすみません」
 と、ひとこと断っておいて、警察官が、
「うん」
 と頷いたので、
「以前から警察に対しての一市民としてのイメージなんですが、何かが起こらないと動いてくれないということがあるんですよ。つまりは、ケガをさせられたり、殺されたりしないとですね。だから、正直今までは警察を信用などしませんでした。でもこうやってストーカー被害に自分が逢ってみると、警察を信用できないとばかりも言ってられないと思ったんです。藁をもつかむというんでしょうか? だから、本当にこうやって電話の登録をしてもらったとしても、ただの気休めにしかならないんだったら、私としても、他に考えないといけないと思うんですよ」
 というではないか。
 それを聞いて警察側も、
「正直、これで絶対に安全ということもないですし、ハッキリ言って、何かが起こってからでないと、我々も動けません。だから、その中でできるだけのことをしようと考えているんですよ。それが見回りであったり、このような電話の登録であったりですね。それを思うと、とてもじゃないが、すべてを守れるわけもないと思います。ただ、あなたも、危険を感じたら、警察に連絡を取るということと、危ないと思うと、人の多いところに飛び出したり、どこかの民家に飛び込んで助けを求めるなどのことが必要ではないかと思うんですよ」
 というのだった。
 というよりも、そういうしか手はないということであろう。
 話を聴いた時は、
「これもしょうがないかな? 警察だって職務なんだから」
 と思ったが、すぐに考えが変わった。
「しょうがないかなということで片付けるわけにはいかない。だから警察はいつも、裏目裏目に出て、ストーカー犯罪を止めることができないのではないか?」
 と感じた。
 要するに、何かがあっても、そのことについて真剣に考えて、精査しないのだろう。だから、すべてが手遅れになるのだ。
 これは警察に限ったことではない。政府の政策だってそうだ。ちゃんと治安を守る意識があるのであれば、もう少しストーカー被害を未然に防ぐことができるだろう。
 実際にその実態というべき数字を聴いてビックリした。
 被害者の数に対して、ストーカー被害によって、命を落とした人の割合がかなり高かったのだ。
 ただ、これを警察に訊ねて、
「この数字、本当なんですか?」
 と聞いたとすると、ごまかされるに違いない。
「いや、ストーカー被害に遭っている人が皆殺されているわけではないんですよ」
 と言って、ちょっとしたたとえを出してきたが、正直、信憑性はなかったのだ。
「どうしてそんなことが言えるんですか?」
 というと、その時の警察官は、こういったのだ。
「ここでの死者というのは、あくまでも、ストーカー被害に遭ったと言って、警察に訴え出た人の中で亡くなった人の数を出しているんです。中には自殺の人もいたりしました。それでも、ストーカー被害者として亡くなった数に加えているんです。そして、分母の方の、数字というのは、今言ったような、ストーカー被害に遭ったと言ってきた人の数を示しているんです」
 というのだった。
 さすがにこれには八重子もビックリした。
「この男何を言っているんだ?」
 とばかりに、その言葉を疑ったといってもいいだろう。
「ストーカー被害を訴えてきた人だけの分母にしているって? ということは、実際にはストーカーに遭っていて、訴えてきていない人がたくさんいるから、この数は氷山の一角だというのだ」
 ということは、逆にいえば、
「これ以上の人がいるということを公表できない。あるいはわざとしない。その理由としては、警察が何をしているかということで非難を浴びるということだろう。少しでも人が少ないということを言っておいて、実際には、
「ただの氷山の一角だ」
 ということだ。
 ここでなぜ、八重子に行ったのかというと、八重子が実際に被害に遭っているからである。
 つまり、八重子であれば、
「本当はもっと多い」
 ということを口にすれば、
「なんだ、そうなんだ。私以外にもたくさんいるんだ」
 というのは、集団意識によって、
「自分だけではないという心理が逆に安心感を与えるということを分かっているのだろう」
 さらに、その中での死亡者の数は、
作品名:悪魔の保育園 作家名:森本晃次