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悪魔の保育園

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 と聞くと、先ほどの安心した表情が曇り始めた。
 今回の事件の話であれば、もううんざりだろうが、そうもいかないので、それ以外の警察の訪問であれば、よかったと思ったのだろうが、あの様子を見る限り、
「叩けばいくらでも何かが出てくるところだな」
 ということであった。
「実は、この女性は、以前、ここに一時期いたんですよ。でも。当時のうちは、経営もしっかりしていて、入園者は後を絶たない。そこで、保育士の中には、辞めていく可能性がある人が多かったので、一クラス2人の先生による体制にしたんですね。そして、さらに、補欠のような、タイプの人。野球で言えば、育成のような感じですね。だから、育成も頑張れば、上に上がれるという体制を取ったおかげで、保育園はうまくいっていたんですが、この女性が入ってきた時、彼女が父兄の一人と、ねんごろになっちゃったんですよ。それでそれまでの体制が揺らいでいきまして、園内がきな臭くなったんですよね。それで、彼女には辞めていただいて、不倫をした保護者のお子さんもお預かりできないということにしたんですよ。言い方は悪いですが、喧嘩両成敗というところでしょうかね?」
 と理事長は言ったが、その話は当然のことである。
 さらに理事長は続けた。
「でも、後から思えば、彼女は不倫に走る前から、何やら挙動不審ではあったんです。いつも何かに怯えているようで、それが気にはなっていたのですが、大所帯の中ですので、目が回りませんでした。そこで不倫問題が発覚しましたので、辞めていただいたわけです」
 と理事長がいうと、
「彼女は警察に相談したとか言ってませんでしたか?」
 と聞くと、
「ええ、警察の生活安全課で気休めにもならない話を聞かされたといっていました。実際に聴いたわけではないので知りませんが、そんな彼女の不倫があったのはそのあとだったんですよ。これも後から聞いた話として、その不倫相手が、実はストーカーだったとかいうことだったんですよ」
 というと、横から園長が口を挟んだ。
「実は、その男詐欺師だったようで。彼女と共謀して、ここのお金に手を出そうとしていたんです。それを咎めたのが、今回の三人の一人だったんです。今回の虐待問題なんですが、あれを起こした三人のうちの一人は、元々、勧善懲悪主義で、自分中心で、言っていることは間違っていないんだけど、自分のやり方に逆らうと、人間が変わってしまったんですね。そういう意味では、この仕事が一番合わないはずなんですけどね。本人は、子供を育てることが正義だと思っていたようで、大学を卒業し、意気揚々と入園してきましたよ」
 というではないか。
「なるほど、勧善懲悪だからこそ、余計にまわりのことに敏感で、融通も利かない。だけどそれは子供も同じなので、彼女のような性格は、却って大きな子供と化してしまったというわけですね?」
 と桜井がいう。
「まあ、そういうことですね。我々は、彼女には引っ掻き回されました。ストーカーというのも、彼女の自意識過剰から来るもので、まさか相手が分かったら、その相手と不倫をするなど、思ってもみませんでした。ミイラ取りがミイラになったといえばいいのか、信じていただけに、ビックリしましたね」
 と、園長がいうと、
「その時、彼女は子供にはどう当たっていました?」
 桜井が聞き返す。
「それは結構ひどかったですよ。虐待に近かったですね。今だから思いますが、今回の元凶も彼女ではなかったかと思うんです。実は犬猿の仲ではありましたが、お互いに性格は似ていました。特に。勧善懲悪という意味では似ていたんでしょうね。私が最近思いますに、勧善懲悪というのは、人間皆が持っていると思うんです。普通に生活ができる環境であれば、表に出てくることはないんですが、波乱に満ちてくると、その感情が頭をもたげて、性格が先に行ってしまうんです。だから、人間、性格が見えてくると、危ないんじゃないかと思うようになりました」
 と園長が言った。
「なるほどそういうことなんですね。気になったのは、彼女のケイタイが、近くの学校で発見され、ケイタイに2人分の指紋があったですが、それが今お話にあったお二人なんです。機種変更したのは、最近だったということなので、少なくとも、数日前に一度会って、ケイタイに指紋が残るようなことをしているんじゃないでしょうか?」
 と、桜井が説明した。
「そういうやり方をするのであれば、この間逮捕された、渦中の人である。欅谷康子という女性が得意じゃなかったですかね? 彼女の場合頭もいいので、大切なことを隠すのに、オオカミ少年のようにデマを流して、注意をそらせる作戦に思わせ、逆に気が緩んだところで、まさかこんなことをしないだろうと相手に思わせて、そして本懐を遂げるということをよくしていましたね。そういう意味で、彼女のやることにはいつも何か、意味があったような気がします。それだけに、今回のような虐待などというのは信じられないんですよ。ひょっとすると、虐待をしてでも、何かを隠したいことがあるのではないかと思ってですね」
 と園長はいう。
「園長はどう思いますた?」
 と聞かれて、
「私になら、彼女の方が不倫しやすいタイプだと思ったので、本当は他の女性と不倫をするつもりだったが、ストーカーになった男が騒ぎ出したので、邪魔になった。そこで、その男をけしかけ、西牟田さんにちょっかい掛けるようにしたんじゃないかと思いました。そこで何が起こるは分かりませんが、そういう直感に関しては、彼女は自分の考えを曲げませんでしたからね。その思いが、今までの彼女を支えてきたのではないかと思ったんですよ」
 と園長は言った。
 刑事二人は、頭を抱えてしまった。どこまで信じていいのか分からなかったからだ。
 園長と理事長の様子は明らかにおかしかった。今まで刑事という職業柄、いろいろな企業の人と話をしたことがあるが、その経験から言って、ここは明らかにブラック企業であった。
 ただ、他のブラック企業にはない、何か別のものがあった。園というもの全体が、得体の知れない不安に取りつかれているような気がするからだった。
 その正体は分からなかったが、そういう場合に見えてくるものは、
「隠蔽気質であり、その気質が、人間の精神を徐々に蝕むというものではないだろうか?」
 と考えられた。
 もちろん、3人の虐待は許されることではなく、正直、
「もうあの3人の人生は終わった」
 と言ってもいいだろう。
 ただ、その元凶が分からなければ、今後、同じような事件が起こらないとも限らない。かと言って、保育園や幼稚園を片っ端から調査して、怪しいところは、取り潰すというわけにもいくまい。ただでさえ、保育園が足りない。先生が足りないという世の中なのだ。
 それが、あの3人を生んだのかも知れない。それを、八重子は言いたかったのではないだろうか?
 八重子は、今日もどこかの保育園で、保育士をしているかも知れない。これは後で聞いた話なのだが、
作品名:悪魔の保育園 作家名:森本晃次