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悪魔の保育園

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 そういう意味で、最近多いのは、
「親が子供を虐待する」
 というものである。
 ほとんどのパターンとして、母親がシングルマザーであり、そこに旦那というか、内縁の夫のようなやつが入り込んで、子供が煩わしいということで、虐待をするということだ。
「どうせ、俺のガキじゃねえし」
 という男の思いと、母親も、
「せっかく見つけた男に捨てられたくない」
 という思いから、虐待を見て見ぬふりしたり、母親も一緒になって虐待を繰り返し、死に至らしめるという事件も後を絶たない。
 これも、実にひどいものだ。自分の子ではないからと言って、再婚すれば、養育の義務を負う。もっとも、そいつも子供の頃、虐待を受けたのかも知れないが、それも言い訳にしかならない。
 何と言っても、
「喋ることができない子供に対し、一番助けなければいけない立場にいる親が、いくら血が繋がっていないとはいえ、虐待を続けるなんて、それこそ、犬畜生にも劣ると言われても仕方ない」
 ということになるのだろう。
 だから、保育園だけが悪いわけではないが、大人がなぜにこのような似たような事件を引き起こすのかというところから真剣に考えていかないと、
「少子高齢化」
 などという問題だけにとどまらず、
「人間としての、尊厳と、人間としての最低の保証」
 すらなくなってしまうのでないかということである。
 そんなやり切れない気分を想い出させるようなこの事件、
「本当に甘く考えてもいいのだろうか?」
 と、考える桜井刑事だった。
 さすがに、
「尊厳殺人」
 というのは、
「姦通罪」
 と同じで、
「時代錯誤も甚だしい」
 と言われても仕方のないことかも知れない。
 百歩譲って、そうだとしても、
「今の時代だからこそ、許されない」
 ということもたくさんあり、そもそも、
「許されない悪というものは、不変でなければいけないのだ」
 ということになるのではないだろうか?
「最近の幼児の問題を、保育園が凝縮しているようだ」
 という専門家もいたが、まさにその通りであった。
「バス置き去り事件と、パチンコ依存症の親が引き起こす時間」
 そして、
「今回の虐待事件と、複雑な家庭環境による、幼児虐待致死事件」
 である。
 これらにいえる共通点は、
「必ず、連鎖が起こり、しばらくはなくならない」
 ということである。
 普通だったら、
「他の事故があったから、うちも危ないところがあるので、よほど気を付けていかないといけない」
 ということで、問題となるに違いないはずなのに、連鎖してしまうというのは、
「何か伝染病的なことがあるからではないか?」
 と思える。
 しかし、今の世の中、
「何が起こるか分からない」
 ということと、さらに、
「世界的なパンデミック」
 による、世界的に蔓延で、もう感覚がマヒしてしまって、
「どうせ、また何か起こったんだろう?」
 という程度で、事件や、事の重大さにまったく感じなくなったことだろう。
 だから、どこかの国でハロウィン騒ぎで、狭いところで、人が将棋倒しになって、被害者が多数出るということになったり、日本でも、祭りということで、市民の数倍の観客が一気に押し寄せて、パニックを引き起こしたりしたのだ。
「パンデミックは終わったわけではなく、まだ続いている。経済を回す必要があるから、人流の抑制。さらには、休業要請は行わない」
 というのが、苦肉の策なのだろう。
 どう考えても。愚策にしか過ぎないと思うのだが……。
 それを思うと、
「犯罪が伝染したとして、何がおかしい」
 ということである。
 よく、
「航空事故などは、連鎖で続いたりする」
 と言われていたが、
「雲の上には別の世界が広がっていて、感覚が変わるのではないか?」
 とも思えるのだ。
 そういえば、優秀な戦闘機パイロットが、いつも空を飛んでいると、急に、上下左右が分からなくなり、操縦ができなくなり、墜落するなどというのを聞いたことがある。
「きっと、普段から見ているものが、急に見えなくなったら、例えば毎日歩いている道に、いきなり太陽の光が遮断されてしまったら、恐怖しか残らないだろう。普段は、目をつぶってでも進めるというところを、一歩も動けなくなるはずだ」
 と、想像しただけで恐ろしいのは、皆それぞれに一度は似たような経験があるからではないだろうか?
 それを考えると、
「事故が伝染病によるものだ」
 と言われても、まんざらでもないような気がする。昔のように、
「ウソだろ」
 と言ったとしても、心のどこかで、
「本当にウソなのか?」
 と、自分に訴えている姿が想像できそうだ。
 警察は、その保育園が慌ただしいのを見て、
「やはり、報道は正しかったんだな」
 と思ったが、それでも中に入ると、理事長と思しき人が、頭を抱えているのが見えた。
「あ、すみません」
 と桜井が入っていくと、理事長はビックリしてこちらを見た。
 桜井は、警察手帳を見せて、歩み寄ってくると、あまりにもその怯え方に、拍子抜けした。
「これが、今世間を騒がせている保育園の理事長なのか?」
 と思ったのだが、警察ということでビビったとしても、すでに問題になっていることであれば、いまさら、慌てることもないだろう。
「何か、また何か問題が?」
 と、完全に被害妄想で怯え切っている。
「いえ、我々は、今世間で問題になっている件で来たんじゃないんですよ。実は一人の女性を探してまして」
 というと、理事長は明らかに肩の荷を落としたように見えた。
「実に分かりやすい人だ」
 と二人の刑事は思った。
「お忙しいところを申し訳ございません」
 というと、
「お探しの女性というと?」
 と、少し落ち着きを取り戻した理事長は、二人を座らせて、自分も座った。落ち着きさえすれば、さすがにそれなりの貫禄はあるのだが、先ほどのを見てしまうと、そう簡単に何とも納得できるものではない。
「この女性なんですが?」
 と言って写真を見せると、理事長は眼鏡をずらして、見えにくそうな目で見ていた。
 そして、
「こ、これは」
 と言って、顔を上げて、二人を見るとその目は、今度は飛び出しそうな勢いであった。
「君、ちょっと」
 と言って、中年の女性を席に呼んで、その写真を見るようにいうと、
「あら」
 と、その女性も驚いていた。どうやら二人には確実に見覚えがあるようだ。
 もう一人の女性は、園長先生のようで、理事長の補佐役も兼ねているようだ。実際に今、三人が警察に引っ張られ、一応、教育委員会の方から数人の保母さんが来てくれたようだが、犯罪者とはいえ、ベテランの保育士と、ピンチヒッターで来た人たちとでは、それは当然何をするにも、遅いのだった。
 しかも、この保育園のやり方だって知らない。こちらにきて、実践を踏みながら、教育していくしかないのだ。彼女たちは一種の保育士予備軍、今でこそ、便利屋であるが、いずれはどこかの保育園でということで、下積みという、叩き上げと言ってもいいだろう。
 それが分かっているだけに、話もやりやすいようだった・
「ご存じなんですね? 知っていることは、何でもお話していただけませんか?」
作品名:悪魔の保育園 作家名:森本晃次