悪魔の保育園
というのは、あくまでも言い訳であり、
「女を扱うことができない」
という現実を。到底受け入れることができないと思っている。
もし、受け入れてしまえば、その瞬間に、自分の存在価値がないと感じるからではないだろうか?
コンプレックスの塊になると、自分から何かをする。何かができるという感情がなくなってしまう。
そうなると、
「こんな俺にだって、誰かを救うことができるのではないか?」
と思うのだった。
それは、
「自己犠牲」
という一種の、美学のようなものがあり、
「自分を犠牲にしてでも、人を幸せにできる人間が一番尊く、そして、一番偉いのだ」
という感覚になるのだろう。
その考えを持った人間が意外と、
「新興宗教を立ち上げて、教祖になったりする」
のではないだろうか?
しかも、ここでいう教祖というのは、ある意味、
「お飾り教祖」
であり、幹部連中にうまく祀り上げられ、
「欲得で動く幹部の傀儡ではないか」
と言ってもいいだろう。
今ある新興宗教、あるいはカルト宗教も。教祖と呼ばれる人のカリスマで持っているところも多いだろうが、中には、
「そのカリスマを人間が勝手に作り上げている」
ことだってあるに違いない。
そんなことを考えると、
「カルト宗教というものと、ストーカー事件というものは、根底で繋がっているのかも知れない」
ともいえる。
そして、その根底にあるものが、人間の。
「コンプレックス」
であり、そのコンプレックスが存在し、それを利用しようという人間がいることで、
「カルト宗教問題」
が起こるのだろう。
しかし、ストーカーは逆である。
「コンプレックスというものを自覚できず、消化できないことが、鬱積して、ストーカー行為に繋がっていく」
といえるだろう。
そういう意味では、性暴力犯罪というのも、結構、そういうところから来ているようで、結局は、
「コンプレックスというものを亡くさないと、問題は解決しない」
ということで、
「では、コンプレックスの原因とは何か?」
ということであるが、いくつか考えられるだろう。
「どうしようもない」
というものと、
「今ならまだ何とかなる」
というものである。
これがそのどちらに入るのかまでは分からないが、言えることとして、
「トラウマ」
というものがあるだろう。
つまり、子供のころなどに、罪もない誰かの一言で傷ついてしまった心が、鬱積して、しかも、取り外し不可能の状態になってしまったことで。それがトラウマというものになってしまったということだ。
それが、結果ストーカー行為を生みのだとすれば、事前に解消できるかということは、
「難しいのではないか?」
としか言えないだろう。
そんなことを考えながら、彼女の部屋を創作していたが、何も見つからなかったので、とりあえず署に引き上げることにした。
とにかく収穫としては、指紋だけだったということである。
幼児虐待
署に戻ってからの、桜井刑事と坂口刑事は、結構難しい顔をしていたのだろう。同僚も、婦人警官も近づこうとはしなかった。
そんな時、やってきたのは、桜井刑事の動機である塩塚刑事であった。
「やあ、桜井。元気か?」
と声を掛けられ、
「ああ、塩塚か。お前今どこにいるんだっけ?」
と聞かれた塩塚刑事は、
「俺は生活安全課さ」
というではないか。
「ああ、そうか。今俺たちもその件で調べてるんだけどな」
というと、
「知ってるぞ。西牟田八重子が行方不明なんだってな。俺も彼女とは、数年前に面識があるので、気にはなっているんだ」
というではないか。
「どういうことだ?」
と桜井刑事が聞くと、
「彼女は、確かに最初、ストーカーに追われているような気がするといって駆け込んできたんだよ。だからこっちも、電話番号が最優先になる登録をしたんだけど、あれって、何カ月も。放っておくと、数か月で、更新されずに、自動で消去になるんだよ。だけど、この間の電話は、数年経っているにも関わらず、最優先状態だったわけだよな。ということは、彼女が電話をしてきて、園長をお願いしない限り、更新するはずなどないんだよ。それなのに、ストーカー騒ぎは落着しているというような話になっているじゃないか。しかも、今回の失踪事件。それを考えると、何か気持ち悪い気分になったとしても、おかしくはないだろう?」
というのだ。
それを聞いた桜井刑事は、
「何だって? それはおかしいよな」
と頷いた。
「何かまだ分かっていないことが、裏にあるんじゃないか?」
と思って考えていると、そこに、鑑識結果を持った人がやってきて、
「桜井刑事、指紋の称号ができました」
と報告に来たので、
「塩塚すまん。また今度ゆっくり話そう」
と言って、桜井刑事はそそくさと戻っていったが、その時、桜井刑事は、
「この事件が解決しない間に、塩塚とは、また会うことになるだろうな」
と感じていたのだった。
刑事課に戻ってくると、鑑識の人が、刑事部長の席まで行って、説明をしようと思っているところだったようだ。
「桜井君、それから、坂口君も、こちらに来てくれたまえ」
と呼ぶんで、桜井刑事は。
「そら来た」
と思い、坂口刑事も、
「やっときたか」
という感じで、思ったのは、鑑識がいることに気づいたからだった。
この事件は、失踪した可能性があるというだけで、殺人でも、失踪でも、誘拐でもないので、捜査本部はもちろん、捜査も本来なら、極秘で行うべきものだった。
ただ、幸いにも今、至急捜査しないといけない案件があるわけではないので、捜査を行っているということだ。
もし、この時、他に事件を抱えていれば、この事案は、ソックリ棚上げになっていることだろう。
そんなことを感じながら。刑事部長の招き入れた会議室に入ったのだった。
「例の指紋の鑑定が終わったようだ。君たちも一緒に聴いてもらおう」
と、刑事部長はそういった。
すると鑑識は、少し恐縮してはいたが、ここが一世一代の見せどころとばかりに、毅然として話すのだった。
「この間の、スマホについていた指紋と、行方不明と思われる女性の部屋の指紋とほとんど同じものが検出されました。だからあのスマホは彼女のものだといっていいと思われます」
と言った。
それを聞いて3人は頷いていたが、これで終わりというわけでもなく、この後、さらなる事実が鑑識官から聞かれることを分かっていたので、その場の緊張感は途切れることはなかった。
鑑識官が続ける。
「ケイタイに他の人の指紋がほとんどついていないことは納得できるのですが、あの部屋にもほとんど誰も指紋が残っていなかったことから、彼女があの部屋に誰もつれてきていないということを証明しているようですね」
と言って、出されたお茶を一口口にした。
どうやら、喉が湧いているのは、間違いないようだった。
鑑識官は続ける。
「そんな中でですね。彼女のモノではない指紋が、スマホの方から出てきたんですよ」
と鑑識官がいうと、
「ん? それはどういうことですか?」
と桜井刑事が聞いた。