悪魔の保育園
最初は分からなかったが、実際にはどっちも言えるような気がした。
「確かに、いつも自分は、変態ではない」
という意識で皆を見ているが、無意識に、
「変態だと思しき人を、羨ましいと感じることがある」
と思い、自分でも愕然とすることがあった。
そして、そんな感情とは別に、
「SMや変態的な感情が、不変ではないか?
と感じたことで、
「ああ、こういう感覚は自分だけではなく、まわり皆が感じるべきことなのではないのだろうか?」
と感じたことである。
だからと言って、
「皆がそうだ」
ということを、自分が変態だと思いたくない理由にはしたくないと思った。
「自覚があるのであれば、受け入れないと、本当の自分が分からないのではないか?」
と感じたことであるが、そこに信憑性も共通点も感じられないのであった。
そんな中で、スマホの中にいる男性と女性が、仮面をつけていて、顔が分からなくしている理由に対して、その時刑事は、別に不思議に思わなかった。
ぼかしを入れたり、誰か分からないようにするというのは、基本的に、
「人物特定されては困る場合」
であり、そんな場合というと、
「ネットに公開」
であったり、
「誰かに見せるということを前提としている時」
というのが一般的である。
ということは、ここに放置されたスマホは、この一点をもっても、
「警察に見せるために、わざとここに置いておいた」
ということになるのだろう。
確かに、こんなところに置いておくというのは、あまりにも不自然すぎる。ただ、誰もいない学校であるということ、さらに、元々の警察に登録した番号の携帯ということで、一番最初に見つけるであろう相手が警察だということ。さらには、画像に何らパスワードを求めていなかったということ、これらを考え合わせれば、
「わざと警察に見せるための、数々の細工だった」
といえるだろう。
しかし、それだけのためだったとすれば、それにしては、念には念が入りすぎている気がする。
「他にも何か、含みがあるのだろうか?」
ということが考えられるが、今の時点で、その理由が分かるわけもなかった。
というより、わざと警察に見つけさせるという根拠が何なのか分からないからだ。
もし、何か、警察ということであれば、検挙でもしてほしいという含みだとすれば、SMバーか、SMクラブの検挙をしてほしいということだろう。
だとすれば、顔を隠すのは、また違う気もする。
しかも、やり方が、やはり手が込んでいるのである。
検挙してほしいのであれば、匿名で電話をしたりすればいいのに、
「いや、電話をしようとして、この作戦を思いついたのか?」
とも考えたが、可能性としては少ないような気がした。
ただ、この怪しげな写真が、何かの秘密を握っているのかとは思えた。
「それにしても、このケイタイの持ち主はどこにいるんでしょうね?」
と警備員が聞くので、
「さあ、こっちが聞きたいくらいだよ」
と、答えた。
この状況に、頭が紺頼しているのは分からなくもないが、
「こんな状態、見て分からんか?」
と言いたかったのだ。
要するに、
「聞くだけ無駄だ」
ということである。
「ちなみに、あなたが、ここの見回りで、教室の中に入ってきたりはしますか?」
と警備員に聴いたが、
「いえ、私は中には基本的に入りません。何かがなくなったとか言われて、こちらのせいにされてはたまったものじゃないですからね。扉を開けて。懐中電灯で一通りグルっとやると、何もなければ、扉を閉めて、隣に行くだけです。敷居をまたぐような真似まではしませんよ」
という。
「それはそうだろうな、じゃあ、ここに電話があったとしても、気付くわけはないか?」
と言われた警備員は、
「ええ、もちろん、気付きません。気づいたとしても、自分で触ったりはしないでしょうね」
というのであった。
なるほど、あくまでも警備員は、忘れ物というよりも、侵入者だったり、不審物などの確認をするのが仕事なので、落とし物とかは見逃すかも知れない。ただ、不審物に関してはどうなのだろう? 教室に入ってこないと確認のしようはないような気がするのだが。
「この電話の持ち主は行方不明ということでしょうか?」
と聞くので、
「そういうことなんでしょうね」
と答えたのだ。
コンプレックス
ケイタイをとりあえず警察に持っていって、持ち主がおらず、ケイタイだけが放置されていたことを告げると、
「よし、とりあえず、該当の人間に連絡を取ってみよう」
ということになったが、肝心の電話は警察にあるし、住所も変わっているようで、その後どこに行ったのか分からないようだった。
会社も聞いているので、会社に行ってみると、
「三日前から無断欠勤をしている」
ということであった。
確かに、彼女の携帯の着信履歴に、会社の番号が何度かあった。
三日目にさすがに所属長が掛けたようで、不在のマークがついていた。
それからも、何度か掛けたようだが、出ないので、会社の方も気にはなっていたが、まだ気になり始めて1日目だったので、騒ぐのもどうかと思ったようだ。
しかし、もし、何かあったのであれば、緊急を要するだろうから、猶予はそんなにないはずだ。そういう意味で、所属長も困っていた。
そんなところに警察から連絡があったので、所属長もビックリはしたが、会社としても、自分から動かなくていい分、気が楽だったに違いない。
「ところで、このケイタイの持ち主なんですけどねえ。無断欠勤とかする人だったんですか?」
と警察に聴かれて、上司は、
「西牟田君のことですね。ええ、彼女に限ってという感じでした。いつも、出社も早い方で、あまり目立ちはしなかったですが、それなりに真面目に仕事をしてくれていましたね」
と、いう。
「じゃあ、会社のほうとしても、困られたでしょう?」
「ええ、それはもう、いてくれないと困るという感じですね」
とまるで身を乗り出しそうな、圧倒されそうなリアクションだった。
「ちょっとオーバーじゃないか?」
と刑事は考えたが、
「それくらいの人も中にはいるか」
と納得し話を進めた。
「何か、彼女に変わったところはありませんでしたか?」
と聞くと、
「いえ、それはないと思います。ただ、昔、ちょっとストーカー騒ぎのようなものがあったようで、それは、完全に相手が悪かったんですが、何とか立ち直ってくれてよかったと思っていました」
というではないか。