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記憶喪失と表裏

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 どちらかというと、天然で天真爛漫だと思っているれいなに、そんな部分があったことで、冷静沈着な部分がれいなにもあるという当たり前のことを、いまさらながらに思い知らされたことで、れいなと自分の関係が、今までにはない、何かを発見しそうな気がする菜々美だった。
 そんなれいなだったが、次第にれいなの記憶が薄れて行っていることに、菜々美は気付いていた。
 元々記憶力があった方ではなかったが、その記憶に何か障害でもあるのではないかと思うようになったのは、れいなが母親のことを話してからすぐのことだったように思う。
 最初は、れいなの記憶に障害が出てきたなどということにも気づかなかった。ただ、天真爛漫で天然なれいなが、
「天然で、天真爛漫なれいな」
 ではなくなったことだった。
 ただ、二つの要素を持っているのは確かなのだが、その二つの要素をくっつけて考えられなくなったというのか、片方が表に出ている時は片方が引っ込んでいるという現象に、違和感を感じ始めたからだった。
 そもそも、その二つは同じようなことであり、重複することが違和感そのものだったはずである。
 それなのに、それぞれが単独で感じられるようになると、その方が違和感であるかのように感じられるようになったわけで、昼と夜の違いのようなものであって、表裏が重なり合うことはないという理屈が違和感だったのだ。
 そう思うと、菜々美自身も、自分が何を考えているのか、その先が見えなくなった。それを思うと、
「そうだ、記憶に障害があるということは、先が見えなくなっていることと繋がっているのではないか」
 と感じるようになったことだった。
 記憶と先が見えることとは直接関係がないように思える。実際に関係があることでは確かにない。ただ、記憶というものが、封印されているものと、表に出ているものの二種類があるということに気づくと、あながち、二つの要素が裏表になっていることと、まったく関係のないことではないように思えてきた。
 意識には、無意識に感じる潜在意識と、実際に意識するなかで意識している顕在意識とが存在する。普通は、これらを一緒に意識という言葉で呼ぶが、実際にはまったく相反するものと言ってもいいだろう。
 天然で、天真爛漫というのも、この潜在意識と、顕在意識のようなものではないか。どちらかが意識してのことで、どちらかが無意識ではないかということだ。
 ただ、天然も天真爛漫ということも、まるで無意識という言葉が代名詞のようになっている。
 それなのに、どこに意識という言葉を連想させるものがあるというのか、それを考えていると、れいなが何かに嵌りこんでしまったように思えてならなかった。
「れいながこの感覚に落ち込んでしまったことで、それが原因で記憶に障害を感じているとしても、他にそのスイッチを押した引き金があったのではないだろうか?」
 と、菜々美は感じるようになった。
 その時に思い出したのが、れいなが言っていた母親とのいきさつだった。
「もしかして、母親に殴られたという事実が、れいなの中で、今まで思い出してはいけないこととして封印されていたはずなのに、私が自分の母親の話を安易にしてしまったために、引き出してはいけない記憶を引き出すkとになってしまったのかも知れない。それは潜在意識という無意識な思いが記憶を封印させていたのに、そのことを知らない私の無意識性作用して、開いてはいけない『パンドラの匣』を私が開いてしまう結果になってしまったとすれば、私の罪はかなり重たいもののはずだ」
 と菜々美は感じていた。
 あの時、れいなが殴られたことで、精神的には記憶として封印できていたかも知れないが。その記憶を呼び起こすことで、その時にできてしまった身体的な後遺症が、その記憶を呼び起こした時に、引き出されたものになってしまったのではないのだろうか。
 そのことは、もし、れいなと友達になっていなければ気付くはずのないことだっただろう。しかも、れいなとすれば、菜々美と友達になっていなければ、過去に封印したはずの記憶を呼び戻すことはなく、記憶を徐々に失うという憂き目にあうこともなかったのではないだろうか。
 それは、菜々美にとっても辛いことであった。
 自分の無意識な行動が人の人生を狂わせるのだ。しかも、それが親友だと思っている相手であり、これから、いろいろな相談にも乗ってくれるかも知れなかったはずの相手を、自らで抹殺してしまうということをしてしまったのだ。
「取り返しのつかないことをしてしまった」
 と思うことだろう。
 それが菜々美にとって、何を意味するのか、誰にも分からない。何しろ、菜々美自身にも分かっていないのだからである。

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 菜々美は、れいなが記憶をどんどん失っていくのを見て。心なしか怖くなってきた。別にれいなの記憶が薄れていくのは、菜々美の原因でも何でもないのに、なぜそんなに怯えなければいけないのか、菜々美には分からなかった。
 誰かがそばにいてほしいということは分かっていると思っていた菜々美だったが、それが自分でなければいけないという思いがなかったのだ。
「れいなには私以外の誰かが寄り添ってくれるはずだ」
 と自分にいい聞かせた。
 菜々美の今までにあった自分の経験からであれば、そんなことは決して考えないはずなのに、なぜそんな思いを抱いたのか、それはやはり怖くてにれいなから逃げたいという思いが強かったからに違いない。
 では、何に対してそんなに怖がっているのか? そこにどれほどれいなが関わっているというのか、菜々美はそのことから目を逸らそうとしていた。だから、れいなが近づいてくると、思わず身体を逸らしていたのだが、自分ではそれを誰にも気づかれないくらいに微妙な行動だと思っていたが、そんなことはなかった。少なくとも、れいな本人には分かっていたことであり、分かるはずなどないという楽観的な考えに基づいている菜々美とはかなりの温度差があったのだ。
 れいなはかなり傷ついていた。なぜ自分の記憶が薄れていくのか、それよりも、薄れていった記憶という隙間にあったものが、どのような記憶であったのか、それが怖かったのだ。
 一番信頼できると思っていた菜々美が離れていくことは、れいなにとって、裏切りに見えた。そうでも思わないと、自分の中で消えていった記憶が、悪いことであるという結論にしかならないからだ。
 自分にとって悪いことを忘れていっていることに気づいた一番自分に近い存在の菜々美だったら、どんな態度を取るというのか、れいなの記憶の中にいる菜々美は、決してそんなことをする人ではなかったはずだ。それなのに、、自分から遠ざかっているというのは、失っている記憶が最悪な態度をまわりに向けている時の自分だとすれば、怖くなったとしても無理はないかも知れない。だからと言って敬遠するというのは違うだろう。そんな時に寄り添ってくれるのが、親友なのではないか、
 だから、ここで分かりやすく離れていくというのは、れいなにとっては親友としてありえない。そうなると、裏切られたという気持ちになって当然であろう。
作品名:記憶喪失と表裏 作家名:森本晃次