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骨散る時

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「なるほどね。小説って、プロットを書いて、ある程度の設計をしておかないといけないものだとは思うんだけど、あまりにもきっちりしたプロットになっていると、融通が利かない話になってしまうこともあるわよね。でも、逆に中途半端にした書いていなかったり、プロットなしで書き始めたりなんかすると、内容が定まらずに、どこに向いて歩いているのか分からなくなるんですよね。きっと先生がその時書いていたのは、プロットは作っていたけど、途中で話がずれてしまったりしたのかも知れないわね。途中でいろいろ思いついて、悪い言い方だけど、忘れないうちにと思って、プロットを無視するような話に作り上げたりね。私もそういうことがあったのよ。だから、途中で話が膨れ上がりすぎて最後には収拾がつかなくなってしまうのよ」
 というのだった。
「どういうジャンルを書いていたんですか?」
 と聞いてみると、
「SF小説なのよ。ね、本末転倒でしょう?」
 とママが言った。
「なるほど、SFなどのように時間の感覚が長すぎたり、時間をテーマにすることで、却って薄っぺらくなってしまうのかも知れないね。僕もタイムトラベル系の話を書いてみようと思うんだけど、時間の超越がどうしても理解できないところに行ってしまって、最後の大団円に使おうと思っていた話を、我慢できずに、途中で書いてしまったりしてね。本当はそれが伏線であって、最後に回収するのであれば、それでいいんだけど、伏線になっていなければ、ネタばらしになってしまって、話が面白くなくなってしまうからね」
 というと、
「私はミステリーも書くことがあるんだけど、ミステリーのトリックというのは、大きな括りとしては、もうすでに探偵小説の黎明期と呼ばれてた時代で、すでに出尽くしていると言われていたのよね。だから、それ以降の探偵小説は、いかにそれらのトリックに読者を導くようにストーリーを作れるかということが重要になってくるの」
「その話は聞いたことがあるわ。大きく分けると、十もないくらいですものね。でも、それだって、物理的なトリックと、心理的なトリックを組み合わせたり、叙述によって読者をミスリードするような作風だったり、そういうことがミステリー小説として、今も読まれているものなんでしょうね」
 と、松永は言った。
「ミステリーの中には、してはいけないと呼ばれるものがいくつかありますよね。例えば、犯人を、ギリギリまで登場させない、だとか、読者が勘違いするようなあからさまな話を書いてはいけない。それは一種のウソを書いてはいけないということに結び付いているかも知れないけど、そういう曖昧な話もあれば、明らかに反則だと思うようなこともある。中には、語り手が犯人だ。あるいは探偵が犯人だというのも、読者を騙したような書き方で、やってはいけないことだと言われていたわよね。でも、それもありになってきたのよ。実際に一人称での筆者が犯人だったり、いつもの探偵が出てこない話だと思ったら、話の途中からいつもの探偵が出てきて、実際には最初から事件に関わっていた探偵が犯人だということも結構あったりしたわね」
 というママの話に、
「そうね、それが叙述トリックと呼ばれるものよな。さっきも言ったように、トリックが次第に出尽くしていくうえに、科学も発達していって、曖昧なことも性格に科学で解明されることができるようになってから、今まではトリックとして使えていたことが使えなくなったということも結構あったりするから、その埋め合わせに、叙述トリックもうまく使うことで、読者を見事に欺くというやり方の一つになるんでしょうね」
 と松永がいうと、ママはうんうんと頷いていた。
「アリバイトリックなども、電話だったり、その場にいなくても犯行が可能だったりすることもあるでしょうけど、今では監視カメラもいたるところにあり、死亡推定時刻もかなり正確に出るようになってきた。死体を動かすということだって、すぐに露呈してしまうし、死亡推定時刻のごまかしなど、なかなかできなくなっているでしょうね。それに、死体損壊トリックと呼ばれる、いわゆる顔のない死体のトリックだけど、これもm顔や指紋が分からなくても、DNA鑑定をすれば、ごまかしがきかないので、このトリックも今ではなかなか使えなくなってしまう。そうなると、いろいろなトリックを組み合わせたりしてうまくやる必要があるわよね」
 というママに対して、
「うん、ミステリーに関しては、なかなかいいトリックが思いつかないだろうから、トリックなどの解明による事件解決よりも、今は犯人の心理などの変化を巧みに描いて、推理小説の体裁を保っているのが、このジャンルだったりするのかも知れないね」
 と松永は言った。
「だから、私は探偵小説を読むようにしているの。推理小説ではなくね」
 と言っていた。
 元々、推理小説やミステリーと呼ばれるジャンルは、昔、探偵小説と呼ばれていた。その頃はSFであったりオカルト系を含んだ小説のジャンルで、それこそ、ミステリーという言葉が一番しっくりくるものだった。
「なるほど、戦前くらいのお話がいいのかな?」
 と聞くと、
「ええ、戦前のそれも本格小説がいいと思っているの、今読むと新鮮な気がするのは、きっとさっきの話ではないけど、トリックが充実していたからなのかも知れないわ。でもね、あの頃の小説も、今の私はトリックを中心に読んでいるわけではないの。今の小説と似たような感覚で読むことにしているの。そうすると、やっぱり今の小説が、その頃の小説を踏襲しているということがよく分かってくるのよ」
 とママは言った。
「時代背景が今とはまったく違っているというところも十分に魅力的なところですよね。特に、当時は動乱の時代であり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出すにはもってこいの時代ですからね」
 というと、
「そうそう、何といっても、戦争があった時代じゃないですか、人が一瞬で何人も死んでいくのを知っている人たちで、人の死に対して感覚がマヒしていると思っているのに、一人の誰かが殺されたというだけで、下手すれば今よりも恐怖におののくかのような状況になっている。それを思うと、時代のブランクと、矛盾とが頭の中で却って、大きな不気味さを浮かび上がらせているように思うんですよ」
「まあ、それは言えるかも知れないですね。戦後などでは、もっとおどろおどろした作品があったりしますからね。もっとも、最初の頃は、検閲がすごくて、書くことすらままならなかったようですけどね」
 と言った。
「でも、そんな時代だからこそ、描ける雰囲気もあれば、考えられる発想もある、逆にそんな時代を知らない私たちは、だから想像力を豊かにできる。私があの頃の探偵小説が好きなのは、そのためなんです」
「そうなんですね」
「ええ、だから、その頃の小説を読んで、探偵小説のようなものを書いてみたいと思って書いてみたんですが、やっぱりどうしても、想像だけではあうまく書けないもので、さっき先生が言ったじゃないですか、自分の経験がどうしても入ってくるって、それと同じで、うまく書けないのはそこに理由があるのかなとも思ったんです」
 とママさんは言ったが、
作品名:骨散る時 作家名:森本晃次