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骨散る時

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「最近私も、急に病院内にいても、急に時間がゆっくりになった気がするのよ。最初にそれを感じた時、以前にも一度感じたことがあると思ったんだけど、それがいつだったのか、最初の時には分からなかったの。でも二度目がまたすぐに来て、その時にやっとわかった気がしたおね。なぜならその時、意識が朦朧として、そのまま気を失ってしまいそうな気がしたからなの、その時は意識を失う寸前で戻ってくることができたんだけど、前に感じたのは、以前、気を失ったあの時だっていうことをね」
 とゆかりは言った。
「前に気を失った時には感じなかったの?」
 と松永が聞くと、
「ええ、あの時はとにかく、意識を失うというのが完全に分かっていたので、自分の中でパニックになっていたと思うの。だから、それだけに、気を失ってからというもの、意識が戻ってきた時には、途中の記憶はおろか、気を失うまでの意識は完全に失っていたような気がしたのよ。それだけに、ほとんど、覚えていることなんか、なかったのよね」
 というのだった。
 それを聞いた時、無性に気分が悪くなった。胸騒ぎがしたというべきか、その胸騒ぎの原因を自分に話しているゆかりに腹が立ったくらいである。
 当然、ゆかりは悪気もなく、しかも、平然と話をしているのだから、彼女に対して恨みを抱くなどというのは本末転倒なわけで、なぜなら、その胸騒ぎの相手が、ゆかりだからだ。
 ゆかりとすれば、分かっているのかいないのか、相手に胸騒ぎを起こさせるほどに、話の内容が、不安以外の何者でもないことに気づいていないのだろう。
 それだけに、相手が無意識なだけに、余計に腹が立つ。それは、相手に対して怒ることは本末店頭であると分かっている自分に対して、そう思わせることが問題だからだ。
「言わなきゃいいのに」
 という最終的にはそう思うのだが、それが最終的ではないのだ。
「それでも、言わなけれな、悶々とした意味の分からない不安が解消せれることがないんだよな」
 と思ったからだ。
 その解消が、結局最悪の形で立証されたかのようになってしまったのだが、これもまだ憶測にしかすぎない。想像の中では最悪ではあるが、まだ何も起こっていないので、その分、不安が解消されたわけではない、
 一歩も二歩も進んだと言えるが、こんな形なら進まない方がよかった。しかし、逃れられない運命なら、早く知るのは悪いことではない。
 もし、最悪のシナリオ通りになったとすれば、最後の結末は遅い方がいいに決まっている。だが、この時は精神的におかしかったのか、
「最後の結末が最悪であっても、早く分かった方がいいのかも知れない」
 と真剣に考えた。
 まさか、その時点で立ち直ることを考えていたわけではないのだろうが、もしそうだとすれば、一体自分がどのような位置に今いるのか分かっていないだろう。
 最悪な場面でよく夢に見ると思っている光景、それは、
「断崖絶壁の谷があり、その下を川が流れている。そこに、つり橋が掛かっていて、絶えず、谷間を吹き抜ける風に煽られ、揺れている。遠くからみるだけでも恐ろしい場所であった」
 そんな場所をまず思い浮かべ、さらに、自分がその端の真ん中に突如現れるのだ。
 どっちに向かって歩いているのかなど、分かるわけはない。右を見ても左を見ても、距離的には同じだ。自分がどこから来てどっちに行くのかも分からない。
「もし、それが分かっていれば、自分はどっちに行くだろう?」
 と考えてみた。
 正気の状態であれば、
「戻る方を選択するに決まっている」
 と答えるに違いないが、果たしてそうなのだろうか?
 前に進むということを目的にやってきたのだから、しかも、こんなに恐ろしいのを覚悟で来たのだから、戻ってしまうと、待っているのは悪夢かも知れない。だが、行き着いた先に何が待っているのか分からないという思いもあるので動けない。
 つまり、実際なら、切羽詰まった気持ちになるはずなのに、夢だという意識があるからなのか、恐怖が不思議と沸き上がってこないのだ。
 恐怖のはずの状態で、恐怖かどうか分からないというのも、恐怖であり不安なのだ。恐怖の正体が恐怖だったという、まるで禅問答のような話が笑い話ではなく起こるというのは、ある意味夢独特の現象なのかも知れない。
 いつもは、人とのかかわりを拒否していることで、当然夢の中に誰かが出てくることはないのだが、たまに誰かが出てくるのを感じるのだが、その正体を知るのが怖いという感覚もある。
 そこにいるのが、もう一人の自分だという意識があるからだ、
 もう一人の自分を怖いと思うのは自分に限ったことではない。世の中は、過去からもう一人の自分の存在を、
「恐怖」
 として捉えていた。
 その存在を、
「ドッペルゲンガー」
 という形で認識していることが多い。
 ドッペルゲンガーというのは、あくまでももう一人の自分であり、世の中に三人はいると言われている、自分に似た人間という理屈ではないのだ。
 しかも、ドッペルゲンガーには、ある種の特徴があるという。何か言葉を発することはないということ、それから、自分の行動範囲意外に存在することはないということ、つまり、もし、同じ時間に自分が行ったことのないところで自分以外を見たという話をされた場合、それはドッペルゲンガーつまりは、もう一人の自分ではなく、ただ、自分に似た人だということである。
 そしてドッペルゲンガーの何が怖いのかというと、それは、
「ドッペルゲンガーを見ると、その人は近い将来に死んでしまう」
 と言われていることであった。
 かつての著名人などで、ドッペルゲンガーを見たことで死んでしまったという話がいくつも残っている。
 リンカーン大統領や芥川龍之介などその代表者であり、もちろん、謂れが残っているということは、彼らには自分が死んでしまうという恐怖を口にしていたということであり、予兆のようなものを感じていたということだ。それを思うと、ドッペルゲンガーというものが、意味もなく恐ろしいわけではなく、ある程度のことが分かっているだけに、それだけ余計に恐ろしいことがあるという代表例なのではないだろうか。
 そういえば、彼女と会えなくなる前に、彼女は不可思議なことを言っていたっけ。
「私、あなたが、私と一緒にいるところを見た気がするのよ。もちろん夢だったんだけどね。その夢の中で、一緒にいる自分だけが最初は私のことを見えているんだって思っていたんだけど、夢から覚める寸前、実は夢から覚めるんだろうなって思ったその時だったんだけど、あなたが私の存在に気づいたのか、私の方を見て、笑ったのよ。それが、とっても恐ろしくって、どうしようもなかったの」
 というではないか。
「そんな怖いこと言わないでよ」
 と、さすがにその時の松永はゆかりに対して、
――彼女がこんな無神経な女だったなんて――
 と感じたほどだった。
「ああ、ごめんなさい。こんなことを言っちゃいけなかったわね」
 と思いついたようにゆかりは言ったが、それはあまりにも取ってつけたような言い方だったので、思い付きではないとしか思えなかった。
作品名:骨散る時 作家名:森本晃次