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一周の意義

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「いや、それはないと思います。だって、先輩は女性に興味があるわけではないんです。興味があるのは男性なんです。しかも、自分に従順な男性。そこには先輩のトラウマがあって、実は先輩は童貞だというんですね。先輩は本当は思春期から、特に女性に対して必要以上の感情を持っていたらしいんです。特に性に関しての思いは強かったと言います。そのせいできっと女性を見る視線とかが露骨だったんでしょうね。そのために、彼女を作ることができなかった。だから、余計にトラウマが激しかったんだけど、先輩が大学生の時に、先輩からそれじゃあまずいだろうということで、風俗に連れていってもらったらしいんですね。でも、結局できなくて、最後の手段が脆くも崩れ去ったことで、彼は女性恐怖症になったようです。ひょっとすると、風俗嬢に何かを言われたのかも知れない。だけど、性に対しての興味はある、そのギャップを埋めるためには、自分に逆らわない。そして女性ではない相手を探すしかなかった。それが、自分に逆らわない男性の存在だったんです」
 と江上は言った。
「そういう話は本で読んだことがあった気がします。BLなどが流行るのも、そういう思春期のトラウマがそうさせるのではないかとも思いますね」
 と聡美がいうと、
「そうでしょう。だから、彼は他の人、まず女性はダメで、従順な男性がそんなに簡単にいるとは思えませんからね。一つ重要なことは、先輩が好きになる人というのは、皆に対して従順な人ではダメなんです。自分にだけ従順な人でないとダメなんですよ。きっと僕を見て、その部分が違うと思ったんではないですかね。女性だってそうじゃないですか。好きな人への独占欲は絶対的に強いものじゃないですか。それが先輩にとっての一番の問題なんじゃないかって僕は思うんです」
 と江上は言った。
「それとですね。私が思うに、その先輩は、晩生だったんじゃないかと思うんですよ。思春期に入るのが遅かった。まわりは異性に異様な視線を送っていたり、まわりに淫靡な異臭が立ち込めるほどのオーラを醸し出している。それなのに、彼はまだ思春期ではないので、厭らしい、そして、思春期の男の子は、顔面にニキビや吹き出物などができて、見るからに気持ち悪いじゃないですか。死守期に自分も入っていれば別に気にならないのかも知れませんが、自分だけはまだ入っていなければ。ニキビがどうしてできるのかなど考えもつかない。思春期というのは、気色悪い時期なんだという先入観を持って、いずれ自分も突入する。だけど、突入すると、淫靡な匂いは気持ち悪さからではなく、自分の身体の中から溢れるもの。そう思うと、悪いものだとは思わない。。いわゆるフェロモンですよね。それを感じると、早く追いつかないといけないと焦りが生まれると思うんです。そこで、出発点から、矛盾やギャップという負の要素を背負ったままになったことが、余計に先輩を焦られたんじゃないかしら? 私は別に先輩を擁護するつもりはないんだけど、江上さんが、その先輩のトラウマを背負った形で、今を生きていると思うと、何か違和感があるんですよ」
 と、聡美は言った。
「さおりさんの話はよく分かる気がします。私もその考えが一番近いと思うのですが、そう思ってしまうと、彼を認めなければいけなくなる。尾は引いているんですが、彼の僕に対しての接し方というものを認めたくはないんですよ。さおりさんなら分かってくれるような気がするんですけどね」
 と、江上は言った。
「ええ、分かっていますよ。今いない人のことを想像して、あれこれと言ってみたところで、立証もできないのだから、話すこと自体が無駄ともいえますよね。でも、そんな中にでも真実の一つくらいは含まれているというもので、話すことで気付く点があれば、それはそれでいいと思っています」
 と、聡美は言った。
 そんな聡美が聞きたかったのは、
「どうして、私が、スナックにいる『さおり』だって分かったの? コンビニでは目立たないようにしているし、スナックのお客さんもよく来てくれているけど、誰も私だと気付いている人はいないと思っていたんだけど?」
 というと、
「気付いていない人がまったくいないとは思わないけど、確かに、ここにいる時のあなたが、さおりさんだとは思ってもみなかったですよ。僕もつい最近まで、まったく気づきませんでしたからね。でも、それはさおりさんもそうじゃないですか? 僕のことをスナックにいる、先輩のお守りに困っている僕だとは思っていなかったでしょう? だから、類は友を呼ぶというんでしょうか。同じようなところのある人間というのは、相手のことが結構分かったりするものだと思うんですよ。でも、それはまったく同じだと、皆既日食のように、月の影の後ろに太陽が完全に隠れてしまうことになって、気付かないんでしょうけど、ニアミスくらいであれば、結構分かるんじゃないかと思うんですよ。ちなみに宇宙空間でのニアミスって言っても、実はかなりの距離があったりすると思うんですよ。例えば月と地球くらいの距離の間に少し大きな隕石が飛んできた李すると、天変地異が起こるくらいの大惨事になりかねない。それくらいの規模ですよね」
 と、ちょっとスケールの大きな雑談を交えて、江上は言った。
「そうですね。確かにまったく同じであれば、却って分かりにくいカモ知れないけど、ニアミス程度のものなら、似た者同士という感覚で分かり合えるのかも知れない。きっと、感性が同じだったり、浮かんでくる発想の出所が同じだったりするからなんじゃないかって思いますね」
 と、聡美は言った。
「でも、さおりさんは、自分で隠そうとしていないですよね? それはきっと隠さなくても、他の人に分かるはずはないという自負があるからなんじゃないですか? バレてもいいという雰囲気は感じないんだけど、でも、本当はバレたくないという思いが交錯しているようなですね。それを思うと、自分の中にも似たような気持ちがあったのではないかと思うです。その思いが、ひょっとすると、先輩にも伝わって、先輩の中で、この僕が本当に従順な男ではないと思わせたのかも知れない。そう思った時、僕自身も、ちょっと寂しさを感じたんです。先輩の追求を鬱陶しいと思いながらも、いざ寄ってこないと寂しさがこみあげてくる。そんな矛盾を解決してくれたのが、さおりさんの存在だった。そう思った時、僕はさおりさんのことをもっと知りたいと思ったんです。そして同時に、先輩も僕のことを知りたいと思っていただけなのかも知れないと思うと、先輩に悪いことをしたと感じたんですが、それなら余計に、僕はさとみさんおことを知らなければいけないというちょっと不可思議な感覚に陥ったんですよ」
 と、江口は言った。
 江口の話を訊いて聡美は、スナックに勤め始めることになり、最初に源氏名を決める時、間髪入れずに、
「さおりにします」
 と言ったのだが、その間に、自分なりに紆余曲折があったような気がした。
 まわりは、
「本当に秒殺で決まったかのようだった」
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次