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一周の意義

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 そんなことを考えていると、世の中がすっかり様変わりしてしまったが、昔と変わらない部分もあれば、まったく変わってしまった部分もある。だが、数年すれば、昔からそうだったかのように、しっくりした世の中になるだろうと考えるのは、楽観的過ぎるのだろうか?
 聡美は帰ろうとする早苗を呼び止めた。
「朝倉さん、ちょっといいですか?」
 と言って、自分の家に連れて行った。
 早苗は別に用事があったわけでもないし、事件に対して気にもなっていたが、先ほどの刑事の質問が少し気になったのか、今日は帰った方がいいと思ったのかも知れない。
 しかし、聡美の方としてはどうしても納得がいかない。このまま早苗を帰してしまうと、一番気になっていることが、まったく表に出てこないこないことになるではないか。
「早苗さんは、そもそも、今日ここに来た理由は、妹のさおりに会いに来たのよね?」
「ええ、そうです。約束をしていたわけではないので、いないのは仕方がないかと思ったんですが、どうしていまだに姿を現さないのか、それが気になってですね。ひょっとして、私がここにいるから連絡をしてこないのかも知れないと思って、帰ろうかと思ったんです。でも、やはりその前にお姉さんとお話をしておく方がいいような気がしますね」
 と早苗は言った。
「さっきの刑事さんの事情聴取なんだけど、あまりにも早すぎたような気がしませんでした? 私の方は、私と母親のことだけを訊かれてそれで終わったんですが、あなたが一体何を訊かれたのかというのが逆に気になってですね」
 と聡美がいうと、
「ええ、そうなんですよ。私はどうして、第一発見者の二人を別々に話を訊くのかというのが疑問でした。一番ビックリしたのが、発見した時のことを一切聞かなかったんですよ。死体発見の時の状況には興味がないのかしら? それとも司法解剖の結果だけで十分なのかしらね?」
 と、早苗が言った。
「あなたにも聞かなかったのね? 私は最初二人を分けたのは、お互いに同じことを聞いて、それで辻褄の合わないことを追求するのかなって思ったんですが、どうもちょっと違っているようね。私にはまったく聞かなかったですからね、死体発見の時のことを」
 と聡美がいうと、
「私には簡単に聞いてきたわ。見た通りのことを言っただけですけどね。でも、それよりも、どうして今日ここに来たのかということと、さおりさんがどこに行ったか想像がつくかというような事件の初動としては、ちょっとピント外れな話を訊いてきたような気がしたんです」
 という早苗に対して、
「そうよね、最近は世の中がすっかり変わってしまって、政府がなくなってからというもの、警察の捜査もまったく変わってしまったので、どうにも拍子抜けしてしまいそうな感じだわ」
 と聡美が答えた。
「でも、そのことは刑事さんも言っていたわ。私がきっとその辺の警察の事情を知らないと思ったんでしょうね。警察は昔の警察ではないという話をしていたの。だから、気楽に話してほしいとでも言いたかったのかしら?」
 と早苗は言った。
「ところで、早苗さんには、どんな質問をしたの? さおりのことだけ?」
「ええ、そうですね、さおりさんに会いに来たけど、早苗さんを探しに納屋に来ると、死体を発見したというと、刑事さんは、さおりのことばかり聞いてきたの。どこに行ったと思うということであったり、最近、さおりさんが何かに悩んでいなかったのか? とかいうような質問が多かったですね。私が何も知らないというと、すぐに開放してくれたんですけどね」
「じゃあ、お母さんと血がつながっていないということに悩んでいたということは警察の人には話していないの?」
「ええ、まだそこまでは話していません。先ほどの事情聴取はあくまでも、死体の第一発見ということでの話ですからね。それ以上踏み込んだ話になると、私の方が考えてしまっていると、案外警察の人はそれ以上聞いてこなかったですね」
 という早苗の話だった。
 話をしている限りでは、警察の方も、今までのように何でもかんでも、聞いてくるということはしないようだ。だが常識から考えて、的を得ているというような質問もそれほど出てこない様子であったし、さおりを本気で探そうというつもりなのかが疑問だった。
「さおりとは、どういう友達だったの?」
 と早苗に聞いたが。
「実は私も、早苗ちゃんと同じで、親が本当の親なのかどうか分からなかったのよ。でも私の場合は、どうやら、私は施設に預けられた子供だったようで、本当の両親も分からない。まるで捨て子同然だった私を、両親が引き取って、親として育ててくれたらしいということが分かって、今は育ての親に感謝もしているし、親は今の親しかいないと思っているんですよ」
 と早苗は言った。
 そういえば、一時期、子供を育てられない親が、
「赤ちゃんポスト」
 というところに置いておくと、施設で育ててもらえるという話があった。
 これには賛否両論あり、
「子供を育てられないからと言って、殺すよりもマシだ」
 という賛成派と、
「そんなものを設置すれば、子供を育てられないという親が安易に赤ちゃんポストを利用して、すぐにパンクしてしまうので容認できない」
 という反対派があった。
 世論は結構反対派もいたのだが、結局その話は立ち消えのようになり、どうなったのか定かではないが、もし、早苗が赤ちゃんポストの恩恵を受けていたのであれば、少なくとも一人はこれでよかったということになるだろう。
 昭和の昔にはm
「赤ちゃんポスト」
 はおろか、
「コインロッカーベイビー」
 なるものがあったという。
 生まれてからすぐの子供をコインロッカーに置き去りにして、死に至らしめるというものであった。これは置き去りではなく、まさしく捨て子であったのだ。
 そんなむごい時代から比べれば、赤ちゃんポストというのは、まだかわいいものだと言えるのではないだろうか。コインロッカーに捨てられた子供は、母親が産婦人科を頼らずに、自力で産んだ子供もいることだろう。中絶も許されない状態で母親も苦しんだのだろうが、それは一部の可哀そうな人であって、中には、遊びのすえ、避妊さえしていれば、こんなことにはならなかったはずなのに、後から後悔しても遅いというものだ。
 それは、数年前の伝染病が流行った時、一番の極悪だと称されるべき、一部の不心得者と似ている。結局、
「人の命を何だと思っているんだ」
 という言葉で言及されなければいけない人たちである。
 時代が変わっても、いつの時代にもそんな連中がいるということは、世の中よくなるはずなどないと言えよう。
 そんな早苗は、施設で育てられながら、今の親に貰われた。
「一体、そのことをいつ知ったの?」
 と訊かれて、
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次