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一周の意義

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 もちろん、捜査方法のマニュアルのようなものはあるが、必ずしも準拠しなければいけないわけではない。自分たちのやり方で、検挙率が上がればそれに越したことはない。ただ、やってはいけないこと、世間から叩かれるような捜査方法にだけは、かなり厳しいものが課せられるようになった。そういう意味で、今回の事情聴取も一風変わったものになったのだ。
 実は、これも数年来の伝染病が流行ったことでの、一つの効果だと言ってもいい。あれから世の中は大きく様変わりした。仕事にしても、やり方が改革され、家でできる仕事は家で行ったり、サービス業なども、自由に共同でできるようになり、生き残れる会社を模索したことで、業界もかなりスリムになっていた。
 国家や政府の無能ぶりが顕著になったことで、政府に対して誰も信用する人がいなくなり、無法地帯になりかけていたが、ここまで究極な状態になると人間、開き直りができてきて、そのおかげで、地方自治や、それぞれの業界のトップが手を結ぶことで、新たな秩序が生まれてきた。
 それによって、自由競争であったり、それまでのしがらみが消えたことで、浄化された世界となったのだ。
 そのための、犠牲というのも尋常ではなかったが、何とか生き残る方法を自分たちで模索し、今の形にできるようにあったことが、人類を強くしたのであろう。
 それでも、庶民生活がそんなに変わったわけではない。庶民の間での昔からの風習などは消えたわけではない。うまく機能する場面もあれば、うまくいかないこともある。警察組織などは、まだまだ結果が見えてきているわけではないか、少なくとも、政府とのズブズブの癒着がなくなった分、かなりすっきりとした、庶民の警察という形になってきたようである。
 そもそも、諸悪の根源とも目された「マスゴミ」も、かなり整理され、世間を煽るだけのものや、ゴシップのみに走っていた極端な会社は生き残れるわけはない。
「正しい情報を正確に、そして早く世間の皆様にお伝えするのが、マスコミの使命である」
 ということが言われるようになってから、一時期のような、デマや誹謗中傷の荒しだったマスゴミは、かなり整備されたことで、警察も産業も生き返ったと言っていいだろう。
 崩壊した政府、政治家が私利私欲のためにため込んでいたお金が、まるで財宝のようにあり、それが自治体に配られたことで、自治体が強くなり、今では治安もかなりよくなり、経済もしっかりと回るようになってきた。
「ただ、これが本当に正しい世界のあり方だとは言えないかも知れない」
 という言葉も叫ばれているが、しばらくはこれで大丈夫であろう。
 せっかくよくなった世界を今から憂いていては、却って道を間違えるかも知れないという発想もあり、その意見にほとんどの庶民は賛成していた。
 それだけ、それまでの政府やマスゴミ、そんな連中に踊らされていた一部の世の中をメチャクチャにしてしまった連中が排除されたことだけで、ここまで世界が変わると、誰が考えたことだろうか。
 そう思うと、世の中をどのように整えていくか。それも大切なことだった。
 つまりは、
「不安になるような道を歩む必要はないが、これまでの時代の急激な流れというものを、検証する筆はある」
 と言われている。
 急激な変化に対しての検証を行わないと、行ったことが正しかったのかが、分からないからだ。先の世代に時代を引き渡すには、絶対に検証が必要なのだ。ハッキリいうと、前の国家的政府が瓦解したのは、
「検証も何もせずに、ただ、やみくもに施策ばかりを国民に押し付けた結果が、国民の反感を買う」
 という結果になったのだった。
 そんな政治や警察とはあまり関係のないところで過ごしてきた聡美だったので、殺人事件ということで警察とほとんど初めて接したが、
「一体、どんな捜査が行われるというのか?」
 という不安がないわけでもなかったが、どうしても他人事でしかない聡美には、それ以上、何も考えることはできなかった。

          警察の捜査

 世の中が急変を遂げた時代が挟まったことで、家にいることが多くなった聡美は、テレビを見る機会が増えた。テレビ番組も、新しく製作されるものはほとんどなく、かつてのドラマを、
「特別編」
 などと銘打って、編集して流していた。
 これには理由があるらしく、
「民間放送のテレビ番組というのは、スポンサーありきである。つまりスポンサーが金を出してくれないと、放送局が成り立たなくなってくる。新しく製作できないので、過去の番組を編集して流すわけだが、そこに特別編などという名前をつけておくと、いかにも編集を加えているという言い訳になるので、特別編という言葉は、スポンサー向けが大きかったのだ」
 と聞いたことがあった。
 もちろん、スポンサーだけにではなく、視聴者にもそれなりに印象を与えて、視聴率を上げるという意味もあったのだろう。ただ、それはあまりにも陳腐な言い訳でしかなかったのだ。
 そんな中でよく見ていた刑事ドラマ、殺人事件が起これば、刑事が二組で行動し、捜査本部では、捜査主任が、報告を受け、陣頭指揮を執っている。
 鬼気迫る捜査本部の様子を見ていると、
「実際の警察もあんな感じなのかしら?」
 と感じられて仕方がなかった。
 考えてみれば、自分のまわりで殺人事件などの凶悪事件が起こって、事情聴取などを受けるということが果たしてあるだろうか? と思うのだ。
 今までには、一度家に空き巣が入ったことがあったのだが、その時はまだ小さい時期で、よく覚えていなかったが、指紋だけは取られた気がした。墨汁のようなものを手につけて、手形を押したような気がした。巡査さん以外の警察の人と話をしたことがあったとすれば、子供の頃のその時くらいだっただろうか。
 空き巣はすぐに捕まったようで、それ以来、田舎で殺人事件はおろか、空き巣すらなかった平和な土地だったのだ。
 聡美が東京に出てから、警察沙汰になったのを見たことがあるとすれば、一度、朝の満員電車の中で、スリがあったらしく、ちょうど警察が警戒態勢を引いている時で、見事に間抜けなスリが捕まったのを見たくらいだっただろうか。
 この時の話も、スリ集団には警察の取り締まり情報が事前に流れていたので、普通なら捕まるはずなどなかったのだが、捕まったやつは、ただの単独犯で、
「本来なら、詐欺グループから、脅しをかけられるはずだったのだろうが、警察に捕まったということで、本人にとってはどっちがよかったか分からないよな」
 ということであった、
 確かに警察に捕まり、逮捕歴というのは残ってしまったが、初版ということで、訴えもなかったということもあり、不起訴処分となったので、前科はつかなかった。
 しかし、もし、詐欺グループに目をつけられてしまっていれば、どうなっていたか。
 そのグループが反社会勢力のグループであれば、問答無用の制裁を受けていたかも知れない。
 それを思うと、不起訴処分で放免になった方が、いくら警察に捕まったとはいえ、よかったのかも知れないからだ。
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次