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一周の意義

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「ああ、そうだ、それよりも一番の極悪を忘れていた。ハッキリとは言えないが、こんな世界を作ったのは、人災だということだ」
 という人の話を訊いたことがあったが、そういうことなのであろう。
 私がこの作品を書いている時期と、これをサイトにアップする時期とでかなりのタイムラグがあるだろうから、これをアップする頃には世の中がどうなっているのか、見ものというものである。平和な世の中が来ていることを切に希望し、敢えてここに記すことにしたのだが、さすがに偏見が詰まった書き方になった。私も、マスゴミの一員になってしまったのかも知れないな……。

 話は横道に逸れてしまったが、おっと、こんなことを書いているうちに、警察が到着したようだ。
 この街を管轄する警察署から三人の刑事と、鑑識がやってきて、あっという間に、殺人事件現場として、保存されることになった。
 鑑識のテキパキ差はさすがに初動捜査には絶対不可欠の鑑識、時間との勝負だということを見せつけられた気がした。
 さっそく母親の死体を見た鑑識は、カバンの中から七つ道具を出してきて、いろいろと調べている。刑事もそれを覗き込みながら、きっと自分の今までの経験が頭の中によみがえってきているのだろう。それを見ながら、聡美と、さおりの友達はじっと見つめていた。聡美は刑事ドラマなどでよく見る光景だと感じながら、どこか、他人事のように思っていた。
 殺されたのは自分の母親なのだが、なぜか悲しいという感覚はない。いきなりいなくなってしまったことに動揺はあるのだが、自分nこととして受け入れることができない感覚に、どう何を感じればいいのか分からない。
 隣で警察の行動を見ている妹の友達は、その視線に熱いものが感じられた。その目が好奇の目であるということは分かるのだが、警察に興味を持っているのかは分からない。
 高校生という年頃は何にでも興味を持つ年齢でもあるので、初めて見る光景に、目を奪われてしまったというのが、本当のところではないだろうか。
 それを思うと聡美は、
「警察というものが、ここまで形式的だとは思わなかった」
 という感情を持っていたが、妹の友達には、また違った目で見えているのかも知れない。
 ただ、二人が死体の発見者であることと、通報者という立場であることで、尋問を受けるのは当たり前のことである。しかも、聡美の場合は、親近者でもある。娘という立場から追及は逃れられないだろう。
 しかも、妹の姿がどこにもない。そのあたりも事件の大きなカギになるであろうことは誰の目にも明らかだろう。
 しかも、事件は聡美が帰ってきてから起こったことだ、警察は聡美に対して、嫌疑をかけるのは間違いないだろう。そのことも分かっているつもりだった。
 こんな田舎でなかなか怒らない殺人事件に、街の人はさぞかしビックリしていることだろう。
 ただ、田舎だからこそ都会にはないドロドロしたものが渦巻いているのかも知れない。都会にも田舎にも、いろいろな魑魅魍魎がいるということで、要は、事件を起こすか起こさないかということだけのことなのだろう。

            血縁と因縁

 母親の死因は、やはり胸をナイフで抉られたことが直接の死因だというが、死亡推定時刻は、大体朝の九時過ぎくらいではないかということだった。
「殺害場所もほぼ、ここで間違いないだろうな。これだけの出血量なので、他から運び込んでくれば、少なからずの血痕が残っているはずだからな。ここの絨毯にしみこんでいる血液、さらに、乾ききらずに、ドロドロになった血の痕は、さすがに身体中の血が噴き出したくらいのものだろうからな」
 ということであった。
 第一発見者ということで、聡美と、さおりの友達が尋問を受けた。ちなみに、さおりの友達の名前は、朝倉早苗という名前だった。
 二人は別々に事情聴取に応じることになった。警察としては、
「二人が示し合わせた供述をされると困る」
 ということと、
「二人の間で証言に矛盾があれば、そこが事件捜査の突破口になるかも知れない」
 という思惑があってのことだった。
 聡美に対しての質問では、まず、母親についてのことを聞かれたが、実際にはそんなに詳しく知っているわけではない。
「私は、高校を卒業してから東京に出たので、最近までの母のことはあまりよくは知りませんが、昔のことでもいいのであれば、言わせてもらいますが、母はあまり性格的に表に出る方ではありません。いつも何かを隠しているような感じがあって、子供の頃はあまり話をしたくなかったくらいです」
 というと、
「じゃあ、あまりお母さんのことが好きではなかったということでしょうか?」
 と言われて、
「そう言えば疑われてしまうんでしょうね。でも、そう言わなくても疑うんだったら、その手間を省くという意味でも正直に言いますよ。私は母が嫌いでした。でも、今回戻ってきたのは、結婚した人ができたので、許可を貰いに帰ってきたんですが、案の定反対のようで、何とか説得しようと粘っていたんですがね。結局は肝心の男から愛想を尽かされて、別れることになりました。本当に私ってバカですよね」
 と、聡美は完全に自虐モードに入っていた。
「なるほど、じゃあ、あなたは、お母さんを恨んでいる可能性もあるというわけですね?」
 と刑事から言われて、
「それはどういうことでしょう?」
 と、ニンマリとした表情を浮かべて聴いてみた。
「つまり、あなたが婚約者と別れることになったのは、お母さんが結婚に反対したということが原因だと感じたということになれば、殺害動機になるというものですよね?」
 と言われて、
「そうですね。あなたの言う通りだったらですね。でも、相手の男が実はクズで、私以外に女を作って、そっちに行ってしまったんですよ。ある意味、そんなひどい男と結婚しなくてよかったと言えるんじゃないでしょうか? そういう意味では母親に感謝するくらいの気持ちにもなるかも知れませんよ」
 というと、
「でも、それとこれとは別であり、反対をされたということだけを母親の責任だと考えれば、動機になるというものです。問題はあなたが、原因と結果という立場から、物事を考えるタイプの人間かどうかということですね。結果に対してはたいして大きな問題ではなく、原因を作った人が一番悪いと考える人は多いでしょうからね。何といっても、反対されなければ、こんなことにならなかった。どうせ離婚するのであれば、自分で相手の悪いところを見つけて離婚した方がいいという人もいるでしょうからね。もっとも、そういう人は原因と結果の因果関係に、人間の感情が大きく絡んでいるということを考えない人なのかも知れないですね」
 と刑事は言った。
 刑事のいうことには一理ある。だから聡美は逆らってみたいと思ったのだ。
 ただ、刑事の、
「一理ある」
 と考えるところは、あくまでも、
「刑事の刑事としての考え方として。一理ある」
 ということである。
 刑事側からすれば、疑わしい相手はまず、疑いの目を持って見るのが当たり前である。念と行っても、
「刑事というのは、疑ってなんぼ」
 とよく言われるからであっる。
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次