小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

一周の意義

INDEX|10ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 江上の両親への説得は、全然問題はなかった。彼の両親にも気に入ってもらえたことで、聡美は嬉しさがこみあげてきたが、その反面自分の家族を思うと、心は沈んでいくしかなかった。
――とにかく、江上さんを連れて、説得に行かなければいけない――
 と思った。
 説得できないからと言って、早まったことはしない方がいい。いわゆる、
「できちゃった婚」
 はしてはいけない手段の筆頭であり、最終的にこの方法には、平等性がなくなってしまうということを思い知ることになるのだった。
 確かにできちゃった婚というものを最終手段として使う人はいる。結婚を反対されるのが分かっているので、どうすればいいかということで、子供という奇声事実を作ることで結婚に踏み込む。その手段を持って結婚する夫婦が増えたが、これが理由はどうか分からないが、結婚したはいいが、離婚してしまう夫婦が増えたのも事実だった。
 不公平があるとすれば、この部分である。
 結婚が最終目的だとして、考えるのであれば、この方法も最終手段としては、ありなのかも知れない。
 しかし、結婚に反対された時点で、男の方が次第に冷めていった場合はどうであろうか?
 女は頑なに結婚を望んでいたとしても、男にその気がなくなってくれば、子供ができたとしても、相手がひどい男であれば、開き直って、
「あの子は本当に俺の子なのか?」
 と言い出す人もいるかも知れない。
 中には、
「堕してくれ」
 という男だっているだろう。
 理由としては、
「今の自分たちの経済力で子供は育てられない」
 という経済的な理由を挙げれば、男としてはいくらでも何とかなると思うかも知れない。
 もし、その希望が叶わないのであれば、離婚もやむなしと言われてしまうと、女は男を取るかも知れない。
「彼は一人しかいないけど、子供は後からでも作れる」
 と説得されれば、それに応じる女性もいるだろう。
 もし、女性が、妊娠したことで、男も自分と同じように父親として腹をくくってくれると思っているとすれば、男の方では、そこまで思わないやつだっていることだろう。
 これをいい機会にして、別れることも視野に入れる男もいるだろうし、そうなると、男としては、どちらかというと、他人事でいられるからだ。
 よほど男の方も女性を愛していない限り、結婚を迫られるわ、親への説得がうまくいかないとなれば、子供を作るという最終手段に感嘆に訴えるわで、次第に億劫になってくることもあるだろう。
「普通に付き合っていって、お互いに嫌いにならずに、ある程度の時期がくれば結婚すればいい」
 という程度にくらいしか結婚に対して思っていない男性であれば、子供ができて、堕胎してくれなければ、別れるということくらいのことは平気でできるのではないだろうか?
 結婚というのは、子供を盾にしてするものではないだろう。結婚の手段として子供を使うというのは、本当はやるべきではないと男は思うに違いない。そうなれば、そろそろ億劫になってきた相手と別れる口実がうまい具合にできるというものだ。
 しかし、この場合はお互いに、どっちもどっちではないだろうか。
 結婚を迫られるのも男としては嫌なのも分かるが、女性が一途に男性を思っているその気持ちを踏みにじる行為として、明らかに卑怯である。
 男とすれば、別に身体に子供がいるわけではない。女の身体の中に、自分の子供だと言っているが、実際にはどうだか分からない子供がいるのだと自分で信じ込んでしまえば、いくらでも、自分は悪者になれるとでも思っているのだとすれば、自己暗示にかかりやすい男ほど、女を捨てることができる男なのかも知れない。
 聡美は。それくらいのことは分かっていた。だから、できちゃった婚だけはありえないと思っていた。
 男の方から、できちゃった婚を言い出すわけもなく、女の方でも考えにないのだから、最初からその考えはなかったと言ってもいい。
 だが、聡美の正攻法のやり方で、海千山千の田舎でずっと育った母親を説得できるはずはない。
 理屈ではなく、昔からの田舎に存在するルールであったり、秩序というものを頑なに守り、信じている母親を説得することは、少なくとも、田舎の生活に見切りをつけて、逃げ出したという意識を持っている聡美にできるはずはなかった。
 そんなことは誰よりも聡美自身が分かっていることであって、母親も分かっているだけに、余裕をもって反対できるのだと思うと、聡美の気持ちの中で、どうすることもできないというやるせなさが、渦巻いているのだった。
 ここまで来ると、
「もう、お母さんの承認なんていらないわよね? だって、私たち二人とも成人しているんだから、個人の意見で結婚できるんだからね」
 と聡美は江上に話した。
 だが、江上の返事は、想像とは違った。
「確かに君の言う通りなんだけど、でも、結婚というのは二人だけの問題というわけではなく、家同士の結び付きでもあるんだ。できる限りのことをやって、説得してみるのが、結婚なんじゃないか? もし、駆け落ち同然で結婚したとしても、その末路は知れている気がするんだけどね」
 というのであった。
 それを訊いて、聡美も、自分がキレてしまっていることに気が付いた。説得できない八方ふさがりだと思ったが、実際にはまだ何も説得を試みていないような気がした。
 少なくとも心を入れ替えて母親の気に入るような娘になれば、結構の許可くらいは出してくれるだろう。何も、本気で母親に従うつもりはない。相手に従っていると思わせればそれでいいだけだった。
 それに彼の言う通り、家族に背を向けたまま結婚するというのは、
「できちゃった婚」
 の正当性を認めるのと同じで、その方法を取らなかった自分としては、やはり正攻法での説得を試みるしかなかった。
 ただ、母親のいうことを百パーセント聞いているわけではないという欺く気持ちだけは持ったままであるが、それでも、母親を欺ければ、こちらの勝ちだった。
 いや、勝ち負けが問題ではない。
「目標達成のためには手段は択ばない」
 という意識であるが、これは明らかに矛盾している。
「できちゃった婚」
 と最初から否定したうえで母親を欺こうというのだから、そこから無理があったのだ。
「7じゃあ、僕は仕事があるので、東京に帰っているよ。君も大変だろうけど、頑張ってくれ。俺たちの未来が掛かっているんだからな」
 と言って、江上は励ましてくれた。
 最初、あれだけナヨナヨして見えた男が、ここまで頼りがいのある男になるというのが、聡美にとっての誇りであった、
 それは、
「きっとまわりも、彼のことを、気持ち悪い男だ」
 と、聡美が思ったのと同じ感覚を持ったに違いない。
 しかし、ほとんどの人はその気持ち悪さから、彼に近づく女性はいなかった。確かにイケメンだが、だからと言って、一緒にいれば、相手が頼りないだけに、お互いに女のようなものであり、しかも相手がここまでナヨナヨしていれば、レズであれば、自分が男役を演じることになり、性別は逆転してしまっているかのように思うに違いない。
作品名:一周の意義 作家名:森本晃次