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二重人格による動機

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 彼女は、自分が肉食であるのを自覚していた。男性がいれば、まわりを気にせず、無意識に気が付いたらその人の気を引こうとしているところが見えてくるようで、そんな自分が嫌だったのだが、
「無意識なのだから仕方がない;
 と思っていた。
 それはもちろん言い訳であるが、言い訳であるにも関わらず、どうしても男を求めてしまうその性は、自分では嫌だと思いながらも、性として受け入れるしかないと思った時点で、意識的であっても無意識なことだとして、認識されるのだ。
 彼女の場合は、自分から男性を求めているわけではない。どちらかというと、彼女に寄ってくるのだ。それh彼女も分かっているし、男性の側も分かっているようだ。
 ただ、彼女は地味な方で、とても男性が寄ってくるようには感じない。いつもメガネを嵌めていて、五人の中でもいつも一番後ろからついてくる、まるで、
「金魚のフン」
 のようだった。
 金魚のフンというと聞こえは悪いが、確かに写真に入る時も、いつも皆と一定の距離をおいて、目立たないようにしている。だが、逆にいえば、皆と同じではないところが逆に目立っているのであって、彼女の中にある、
「皆と同じでは嫌だ」
 という思いが、時々、見え隠れしているように思えるのだった。
 そんな彼女は、今までにもどこかに行った時、勝手な行動をとることはなかった。確かに肉食なので、後から知り合った男性とどこかで会うということがあるのは、周知のことであったが、それも別に悪いことではない。これは不倫の良し悪しの悪いことという意味ではなく、女同士の中での行動として、別に卑怯な行動をとったわけではないという意味である。
 他の人たちも、男性と知り合うのだから、あわやくば、お近づきになりたいと思うのも無理のないことであろう。ただ、自分たちの中で、
「私は既婚者なので、不倫をするということにどこか後ろめたさがある」
 と思って、最後の一線を超えられるかどうかということであろう。
 そういう意味では行方不明になった彼女には、そういう貞操観念が欠如していたのかも知れない。真面目なところはあるのだが、真面目なだけに、
「羽目を外すと、あんなふうになってしまうのではないだろうか?」
 と、まわりは感じているのかも知れない。
 彼女は真面目に見え、一見ダサく見えるので、男性から誘ってくることはない。そうなると、彼女の方から男を誘うことになるのだろうが、彼女のどこにそんな魅力があるのか分からない他の奥さんたちは、彼女のことを次第に不気味に感じるようになっていたのかも知れない。
 だから、彼女が皆との距離を保っていても、違和感がなかったのだ。
 写真でも少し離れて写っているのを、知らない人が見ればおかしな光景に感じるのだろうが、彼女たちの中では、別にこれが普通だと思っていた。
 男でも女でも数人が集まれば、そのうち一人はアウトロー的な人がいても、それはおかしくないという思いであろう。
 だが、あの目立たない真面目な彼女をアウトローというには少し違う気がする。そういう意味では、他の人が見る違和感とは違った意味での違和感が、主婦たちの間にあったのかも知れない。
 これから、滝のある森の中に分け入ってみようと思っている主婦二人は、彼女に対してそのような感情を持っていた。あとの二人も少なからずあるのだろうが、この二人ほど強くはないと思われる。
 そんなことを考えながら、二人は引率役の女中について行っている。
 温泉街の平野の開けた部分の裏に、そんなに高くはない山が聳えているが、その麓に鳥居があり、そこから石段が続いていて、上り切ったところに、鎮守があった。神社としては、それほど大きくはないが、その横から入ったところに滝があるという。その滝を目指して進んでいくのだが、
「足元には気を付けてくださいね。ここは年中滑りやすくなっていますからね」
 と、女中が言った。
「ここに入ってくる人って結構いるんですか?」
 と一人が聞くと、
「そうですね、ここの河童伝説に興味のある人は滝に入って行くことが多いですね。ただ、滝の勢いがその時々で違ったり、風向きが微妙に変わってくると、まともに水が弾けてしまうことがあるので、それを嫌がる人は、中に入ることはしないでしょうね」
 ということであった。
 その日の朝も、なるほど少し水しぶきが飛んできているような気がしたが、それほど気にするほどではないような気がした。最初から、そこには結構大きな滝があるということを最初から認識していたからだ。
 上まで上がってくると、さすがに息が切れてきたので、神社の前の水飲み場で軽く水を飲んで、一度落ち着いてから、滝の方に向かって行った。女中さんは、慣れているのか、それほど呼吸が乱れている様子もなく、三人が呼吸を整えるのを待っている状態だった。
 静寂の中で、奥の方から、滝の流れ落ちる音が聞こえてくる。
「結構な音ですね。森に入ってすぐくらいなんですk?」
 と言われた女中は、
「いいえ、さすがにそんなにすぐというわけではないです。少しだけですけど距離はありますね。それに少しだけ上り坂にはなっています。先ほども言いましたけども、絶えず湿っているようなところですので、舗装された道もあるにはあるんですが、いつも雨が降っているかのような水に濡れた状態ですので、足元にまずは細心の注意を払う必要があるということです」
 という話であった。
 女中の言っていることは二人にもよく分かっていた。
 二人とも、よく刑事ものの二時間ドラマなどを見ているということで、このような場所でよく事件が起こっているというのが分かっているので、本当は何も見つけられない方がいいとは思いながらも、
「いや、やっぱり見つけてしまうんじゃないか?」
 とも思うのも無理のないことであった。
 女中さんに導かれるようにして滝の方に向かっていくと、なるほど、少し上り坂になっているようだ。手すりもるのだが、完全に濡れていて、しかも金属部分は錆びついているので、なるべくならば持ちたくはないと思っていた。
「朝のこの時間は、結構湿気が多いので、あまり来る人はいないんですけどね」
 ということであった。
 足元を気にしていると、やっと滝が見えてきた。足元を気にしていた関係か、距離が少しあると言われたが、その意識は感じることはなかった。
「いつの間にかついていた」
 と言えばいいかも知れない。
 さすがにここまでくれば、喋る声もまともには聞こえない。少々大きな声を張り上げたとしても聞こえないことだろう。
 そにため、三人は、なるべく距離を開けずに行動するということを余儀なくされた。捜索しなければいけないのに、行動範囲が制限されると、なかんか難しかった。
 滝つぼの近くに、何か落ちていないかを探してみたが、それは見つけることができなかった。
 彼女が自殺をするとは思えないが、自殺をするにしても、わざわざここまで来て、旅行中というのが、不可解で、奥さん連中の発想の中には、とても、集団での旅行中に自殺を企てるという発想はなかったのである。
 滝つぼの先には、祠が立っていた。
「見てはいけない」
 と言われている何かがあると言われる祠であった。
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次