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二重人格による動機

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「気付いた時はすでに遅し」
 ということである。
 いるはずの人間が目の前から消えていて、今まで自分の中にあった十分すぎるくらいの存在が、まったく消えてしまうのだ。訴える方も相当混乱していることだろう。その混乱は騙す方にとっては実においしい。こちらとすれば、墓穴を掘っていく相手を高みの見物としてしゃれ込めばいいのだ。
「酒の肴としては十分だ」
 とでも言いたいのだろう。
 やつらにとっての、女の悔し涙は、これほどのおいしい酒のつまみはないというものである。
 やつらは、ホストではない。実際ならホストのやり口の方がひどいのかも知れないが、その場合、借金させられた女たちが表に出てこれない状態になるというのを、?シネマなどでよく見るが、果たして本当なのか、考えただけでも恐ろしくなる。
 実際に本当だとして、同じような目に遭っている女性が後を絶えないのであれば、
「世の中には、神も仏も存在しない」
 と言わざる負えないだろう。
「騙されるやつがいるから、騙すやつがいる」
 と言われるのかも知れないが、それこそ、
「タマゴが先かニワトリが先か」
 という理論に結び付いてくるのかも知れない。
 つまりは。始まりが分からなければ。終わりも分からないというわけであり、半永久的に続いていくのは、
「騙す人間と、騙される人間」
 ということになるのであろう。
 人間というのは、その時の心理になってみないと分からないというので、一概に騙される方を悪いとも言えないが、
「騙される人間がいるから、騙す人間がいる」
 という理屈になるのである。
 彼らは決して暴力的なことはしない。もし、相手が少しでも我に返ってしまうと、計画は水泡に帰すからだ。
 彼らはあくまでも市銭に近寄り、自然に仲良くなり、そしていよいよ最高潮の絶頂期になった時、ふっと姿を晦ますのだ。
 きっと、女の方も最初は何が起こったのか分からないことだろう。
 連絡がつかないのも、
「仕事が忙しいからに違いない」
 などと思わせて、相手が微塵も心配することのないほど、普段から寄り添っている。
 しかも、二人の関係は誰も知らない。
「結婚する時まで、まわりには知られないようにしよう」
 と言って、男も自分の知り合いを決して彼女に合わせることをしない。
「君が他の男に取られるのが怖いから」
 と言うので、
「嫉妬してくれているの?」
 と女がいうと、男は彼女を抱きしめて、
「そうさ。僕の胸の鼓動が聞こえるだろう?」
 などと、実にベタなセリフを、よくも噛まずにいえるものだと思うほど、実に自然であった。
 アイドルのような雰囲気でもないのに、どうしてコロッと騙されるのかというと、
「アイドルのような男の子だったら、いかにもホストのイメージじゃないですか。相手だって、いつ我に返るか分からない。彼女たちは、自分をそんなに悪い顔はしていないと自負しながらも、どこかまわりに負けていると思わざる負えないような状況に追い込まれている、と、そう思っている。そこを突くんですよ。自分が思っているほど、いい女ではないということが現実だと感じてきた時が、こっちのねらい目で、その感情と思いのギャップが、目と感覚を狂わせる。そんな時、まわりが見て、お似合いだと思うような相手が現れると、相手はきっと、有頂天になるでしょうね。そんな時、男の方から、女性をおだてる言葉をマシンガンのように浴びせると、自尊心を一気に擽られて、自分はやっぱり自分が思っているよりも、素敵な女性だって思うんですよ。それが正真正銘の有頂天というんじゃないでしょうか? だから、騙される。一度騙されると、少しおかしいと思っても、女というのは、最初に好きになった時のことを思い出すんですよ。だから、自分の勘違いかも知れないと思ったり、もう少し相手を信じてみようと思うものなんです。そうなると、後はこちらの思うつぼ。ほとんど洗脳に近い形で相手の心を蹂躙できるわけです」
 と、いう話を後になって詐欺グループが捕まった時に言っていたことだった。
 その時はそこまでは分かっていなかったとしても、何となく彼らの考えていることは想像がついた。いかにも自然に、そして普通に、さりげなく。だから、目の前から消えた時も、彼らは、いとも簡単に跡形もなく、女性の前から姿を消すことができるのだった。
 そんな詐欺を行っていた男が、殺された。誰に殺されたというのか、心中が十中八九偽装ということであったが、きっと犯人には偽装だとバレても別に構わないという思いがあったのだろう。偽装するにはあまりにも陳腐だったからだ。
 だが、それだけだろうか?
 偽装がバレることを計算して、その裏に何かが隠れているとすれば、偽装だということを正面から見ているだけで済むと言えるのだろうか。
 それを思うと、詐欺グループの解明が待たれるのだが、今のところ、分かっていない。しかし、彼らのように自然で普通のグループは、波風など今まで立っていなかったに違いない。その正体がバレることは、彼らにとって致命的だと言えるだろう。
 要するに彼が殺されたことは、自分たちのグループにとっては、アリの巣の一つの穴くらいのものに見えるものが、実は、アキレス腱を切られたくらいの致命的なことではなかったか。
 そのことを考えていた辰巳刑事の頭の中で、
「この男を殺す動機としては、復讐もあったのだろうが、この男を殺しただけでは腹の虫がおさまるはずはない。少なくとも、グループの壊滅くらいは見ないと割に合わないだろう」
 そう思うと、復讐だけが本当の動機ではないとすれば、この男を殺すことで、それまで均衡が取れていたグループのバランスが崩れて、一気にその正体があらわになり、警察によって、一網打尽にしてくれれば、犯行を犯した人としても本望と言えるのではないだろうか?
 それが、辰巳が描いた殺人の動機だったが、そうなると一緒に死んでいた房江は一体どういう役割を演じているというのか。辰巳刑事はまた、考え込んでしまっているところであった。
 そんなことを考えているところで、もう一つの殺人事件である、四つ辻側の被害者についての情報g入ってきた。
 情報をもたらしてくれたのは、桜井刑事だった。その時に同行していたのが、松阪刑事だったのだが、二人の報告としては、
「被害者は、清水陽介、三十歳。宿帳にあったようにフリーライターだそうです」
 という報告に対して、
「じゃあ、彼は本名で職業も正しかったわけだ。つまり何か内緒にしなければならない事情があったわけではなく、普通に宿泊していたわけだね?」
 と辰巳刑事に聞かれ、
「ええ、その通りです。それに彼はフリーライターということもあり、最初から何となく胡散臭さを感じていましたが。そんなことはないんです。どちらかというと、彼の記事も彼を知る人間の話からも一貫して悪い話を訊くことはありませんでした。だから捜査をしている中で、彼が殺されるかも知れないというような取材を行っていたというような話も出てきません。彼が取材したかったのは、本当にあの場所にある伝説であった『キツネと天狗の伝説』だったのかも知れませんね」
 ということであった。
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次