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二重人格による動機

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「この男の詐欺というのは、最終的にはお金を騙し取るのが目的なんでしょうが、基本的には結婚詐欺のようでした。見た目はチンピラ風で、本当は近づいてはいけない相手だと普通なら思うんでしょうが、それがパーティであったり、晴れやかな場面であると、この男は不気味な輝きを見せるようなんです。この男に騙されたという女性から話を訊いたことがあったんですが、実は私はかつて看護婦をしていたんですが、その時に見た患者さんで、この男に騙されたと言って、服毒したんです。それ以来、この男には気を付けるようにしていたんですが、だからといって、自分から近づくことなどはしませんでした。ただ、最近、房江さんが知り合ったという男について話を訊いていると、どうもこの男のような気がしたんです。でも、房江さんという人は、こちらが善意で注意をしたとしても、相手が一人なら聞く耳を持たないんです。数人で諭せば分かってくれるんでしょうが、さすがにこういう話を他の人にして何人かで行くわけにもいきませんからね。もし、そんなことをすれば、彼女の秘密を公開したようで、彼女のプライドを傷つけることになってしまい、結局頑なな状態を生んでしまって、空に閉じこもってしまうでしょうね。そうなったら、もう私ではどうすることもできない。それを思うと、何もできなくなってしまったんですよ」
 と高木明子はそう言った。
「なるほど、じゃあ、今回横溝さんが行方不明になった時、高木さんの頭にはこの男のことが浮かんできたんでしょうね」
 と辰巳刑事がいうと、
「ええ、だから、無性に怖かったんです。でも、横溝さんに限って心中などということはありえないような気がするんです。もし騙されたとしても、一緒に死のうなんて、普通は考えないでしょう? 相手を殺して自分がどこかに隠れるというのであれば分からなくもないけど、一緒に死ぬというのは、お互いに好き合っている同士が、どうにもならないまわりの環境に、この世に限界を感じ、自らの命を断つというのが当然じゃないですか。それに、彼女にその気があっても、詐欺師のあの男にはそんな気はありませんよ。そんなことをするくらいなら、さっさとそんなややこしい女の前から姿を晦まして。新しい女を探すに決まっていますからね。何と言っても相手は詐欺師なんです。そんなに大人しく殺されるようなタマじゃないですよ」
 と、最後はほとんど呼吸困難になってしまいそうなくらいに興奮していた高木明子だった。
 となると、ここで気になってくるのは、
「この場合の高木明子の存在」
 であった。
 今までは、高木明子を中心に考えていた。それはどうだろう。高木明子がそもそも彼女たちの知り合いで、行方不明になったので探していると、そこに思わぬ男性の死体まで見つかったというわけで、
「この人は一体誰?」
 ということになったわけで、この人が一体誰なのかということが分かり、その人が詐欺師だということなので、初めてこの男がクローズアップされた。そして、その時点で、殺された二人の存在感が、この事件の中で逆転してしまったのだ。
 今までは、正体不明なのが男であり、一緒に死んでいた房江は、みんなの友達で、少なくとも仲間であった時の彼女のことは分かっているつもりだった。
 だが、実際には殺されたということが判明した時点で、
「なぜ彼女は殺されなければいけなかったのか?」
 ということになる。
 事情聴取の中で、誰一人として彼女が殺されなければいけないほど、誰かに恨まれていたり、殺されるだけの理由を知っている人は誰もいなかった。それなのに、殺されているということは、彼女の本当の姿を誰も知らなかったということになるのであろう。
 ということになると、高木明子の証言通り、この男が詐欺師であるならば、房江の役割は何だったのかが、気になるところであった。
 高木明子の話では、男は結婚詐欺だという。しかも、彼女が知っている被害者は自殺未遂まで起こしているということは、それだけショックが大きかったのか、この男が、詐欺にあって自殺未遂を起こすほど、デリケートな女性をターゲットにしていたということになると、被害者の中で、他にも自殺行為を行った人もいるだろう。実際には本当に死んでしまった人もいるかも知れない。
 そうなると、この男に対しては、調べれば調べるほど、容疑者は限りなく出てくる可能性もある。
 ただ、今の時点では何も分かっていない。この男が詐欺を行い始めたのはいつ頃からなのか、そして、この男による単独犯なのか、それともバックに組織のようなものが存在しているのか。もし、組織のようなものが存在しているのだとすれば、容疑者はその組織の中にもいるかも知れない。何かのトラブルがあって、組織に消されたという考え方である。
 そして、単独犯でないとして、バックに組織がいないとするならば、彼が騙しやすいような手助けになる人物。例えばターゲットを探してくる役であったり、彼が女性から騙しやすいほどの信頼を持たれるような存在になるための、何らかの手助けである。
 手はかなり古いが、サクラに襲わせて、それを危機一髪のところで助けると言った、いかにも、
「ベタな昭和のやり方」
 である。
 詐欺事件というのは、どうしても、警察が関与できる問題ではない。被害届を受け付けることはできても、実際に個人の騙し取られたお金を取り戻すということはほぼ困難であり、証拠が整って逮捕することができても、金銭的なことは、また別問題である。
 そうなると、この男に対して、警察の方で、どれだけの情報があるのか、今照会してもらってはいるが、
「残念だが、まず期待するほどの情報はないかも知れない」
 と感じていた。
 だが、今のところ、問題は本当に彼は自殺なのかどうかである。見た目は自殺ではあるが、自殺にしては、怪しい点が現状証拠からも判断できる。しかも、この男が結婚詐欺師で、自殺をするだけの理由がもし見つからなければ、誰に殺されたのかということになる。そうなると、微妙になるのが、房江の存在だ、
 ここまで考えてくると、門倉警部補の頭の中に二つ疑惑があった。
 一つは。
「横溝房江は、詐欺に関しての共犯者である」
 という考え方、そしてもう一つは。
「彼女は詐欺には関係ないのだが、彼の詐欺師としての秘密を垣間見たために、殺されてしまった」
 という考え。ただ、この考えから派生させた考えとして、
「彼女の知り合いが彼の被害者であり、密かに彼を調査していると、その尻尾を掴まれてしまった。そして、彼のバックの組織がそのことを知り、すでにこの男の詐欺師としての能力に陰りが見えてきたと思っていたとすれば、これ幸いにと、二人を心中に見せかけて殺したのではないか?」
 という考え方である。
 最後の考えは、バックの組織がどれほどのものかは分からないが、それぞれに信憑性が考えられる。
 どちらにしても、今のところ、ハッキリとした事件の全貌が分かっているわけではない。それを思うと、この場で解決できるわけもなく、このまま何も彼女たちから事情が聴けるわけでもなければ、そろそろ解放してあげないといけないような気もしていた。
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次