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二重人格による動機

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 そのまるでカメレオンのように変化する顔色の状態で話しかけられる雰囲気ではないことは分かっていた。冷静さを取り戻せば、彼女の方から話しかけてくるに違いないと思ったのかも知れない。
 やはりその考えは間違っていなかった。
「あの……」
 と、狼狽した様子だったが、それは、相手が刑事だからというよりも、話したいことがあるのだが、何から話していいのか分からないことで、頭の中が整理されていない状態ではないかと思わせた。
「どうしました。奥さん」
 と答えた、その時の門倉警部補は、まるでその時、自分が精神分析のカウンセラーにでもなったかのような気分になっていたのである。
「実は私、この男性を知っています」
 といきなり核心をついた話から入ってきた。
「ほう、ご存じということは、この男の正体も知っているということかな?」
 と訊かれて、一瞬戸惑ったが、それでも、意を決しているので、
「ええ」
 というではないか。
「我々が気になっているのは、なぜこの男がここで、あなたがたのお友達である横溝房江さんと一緒に死んでいるかということなんですよ。一見、心中のように見えるんですが、どうもそうではないような気もしている。何がおかしいと言って、奥さんの方はナイフで胸を抉られているのに、男性は毒を服用して死んでいるのです。普通心中だったら、同じ凶器で死を選ぶと思うんですよ。しかも、女性が男性に折り重なるように死んでいる。つまり男性が死んでから、女性が死んだことになることを思うと、心中ではなく、少なくとも奥さんはここで死んでいる男性以外の誰かに殺されたことになる。そんなことは警察の鑑識が見れば、すぐに分かることですよね。それなのに、敢えてこのような格好での殺害になった。そこに何か意味があるのかと思ったのですが、分からなかったのは、そもそも二人の間に面識があったのかということです、この男の正体が一体誰で、彼女とどのようなつながりがあるのか、そこからが捜査の出発点ではないかと思うんですよね」
 と門倉警部補は言った。
 その意見は、他の刑事三人にも言えることであった。そして、被害者の奥さんと、高木明子が元々は仲がよかったのに、途中から仲がこじれてきた。そこへ持ってきての今度の殺人事件。何かがあると思っても不思議ではない。
 そんなに微妙な関係であったなら、いくら温泉旅行に出かけようと誰かが言い出しても、普通なら、それなりに理由をつけて断ることだろう。
 それなのに、何らまわりに違和感を感じさせずに旅行に参加した。まわりはとっくに二人の関係性の悪化を分かっているのに、それに気づかなかったのか、普通に高木明子も横溝房江も参加してきた。旅行中に怪しげな雰囲気もなかったという。
 まわりは、そんな関係を知っているだけに、余計な気を遣っていた。それなのに、まったく怪しい素振りが起こることはない。
「ということは、今までの自分たちが考えすぎていただけなのだろうか?」
 と思っていたが、こうやって横溝房江が死体になって発見されると、それ自体が思い過ごしであることを思い知らされた。
「一体、彼女は何に怯えているのだろう?」
 そう思っていると、彼女は意を決したかのように、警察を前にして自分の知っていることを語ろうとしている。
 高木明子の証言がどれほど事件解決に役立つものなのか、それを思うと、警察官四人はそれぞれに興奮を隠しきれなかった。
「高木さん、この男は一体、どういう人物なんですか? いや。ここで一緒に死んでいる横溝房江さんとは、どういう関係なんですかね? ゆっくりでいいので、高木さんが話しやすいようにしてくれればいいので、お話願えればと思います」
 と、なるべく優しく言ったつもりだが、門倉警部補としても、知りたいことが山ほどあるせいか、どれから聞いていいのか分からず、このような聞き方になってしまったが、どれだけのことを高木明子が知っているかということを、皆も知りたいに違いない。
 すると、少し考えながら、高木明子は口を開き始めた。
「最初、私と横溝さんが文芸サークルの中で仲が良かったのをご存じだと思うのですが、その時は、横溝さんといつも一定の話をするのが恒例になっていたんですよ。話題というと、不倫の話が多かったんです。これは私が悪かったのかも知れないんですが、グループの中でも一番の最年長で、しかも、皆と年齢が少し離れているせいもあってか、他の奥さん連中から、きっと『何も知らない若奥さん』というくらいにしか見られておらず、少し甘く見られていたところがあると思うんですよね。それを私は気にしていたんですが、横溝さんはそのことにはあまり触れませんでした。それで、横溝さんは結構私とため年のような感じで話をしてくれるので、私の方も、実のお姉さんと話をしているような感覚でつついついため口になってしまっていたんですよ。だけど、実際には年齢差があるわけじゃないですか、その思いを私は余計に感じてしまって、余計にため口になっていたと思っていたんです。だから、そんな中、少し横溝さんが不快な表情になると、私は急に我に返って、ドキッとするんです。もし、ここで横溝さんから不快に思われると、まるで私が彼女を裏切ったかのようになって、グループの中で決定的な関係になってしまう。それからの私は横溝さんに対して気を遣いまくっていました。それを彼女も察ししたのか、気が付けば私は横溝さんの腰ぎんちゃくのようになってしまっていたんですよ。でも、そうなってしまうと時すでに遅くで、私は彼女に洗脳されてしまったようで、彼女のいうことには逆らえなくなってしまっていたんです。だから、最初に背伸びして不倫の話題を出していたんだけど、それは本当はウソであって、私はその時まで不倫なんかしたことがなかった。それがバレてしまうと、私はもう今までの関係ではいられなくなりますよね。だから、彼女の言いなりになってしまいました。ここまではいいですか?」
 と高木明子は言った。
 それを皆真面目に聞いていたが、一番真剣に聞いていたのが門倉警部補だった。もし、一番が門倉警部補でなければ、刑事三人のうちの誰かが質問をしていただろう。考えられる一番の刑事は、辰巳刑事だっただろう。
 勧善懲悪である辰巳刑事は、ここまでの話を訊いて、自分の中にある勧善懲悪を擽られたような気がした。
――一体私は、この先、どうしたらいいんだ?
 と、少し、彼女が思ったのかも知れないと思った辰巳刑事は、門倉警部補がこの後どのような質問をするのかが気になっていたのだ。
「不倫には、本当に興味を持っていたんですか?」
 と聞かれた高木明子は、
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次