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二重人格による動機

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「勘に頼る捜査は、誤った道を歩ませる」
 と言われる時代もあったが、
「判断力も一種の勘のようなものではないですか?」
 と言われてしまうと、判断力に一目置いている人が多いだけに、言い返すことができなかった。
「つまりは、実績のある判断力に裏付けられた勘は、それだけで十分な武器になりえるのだ」
 ということである。
 今は辰巳刑事に桜井刑事をコンビとしてつけているが、これこそ、門倉警部補の満塁ホームランと言ってもいいのではないかと、言われるようになっていた。
 門倉警部補は松坂刑事に、
「辰巳刑事と桜井刑事のいいところを、受け継いだような刑事になれるんじゃないかな?」
 という期待をかけていたのだ。
 そんな松阪刑事を引き連れて、門倉警部補はやってきたのだが、二人を見た長谷川巡査は恐縮していた。
 長谷川巡査は門倉警部補に対して並々ならぬ尊敬の念を抱いていた。
 これは長谷川巡査本人は知らないことだが、彼のちょっとしたミスを、門倉刑事の機転でうまく処理し、そのミスが表に出なかったことがあったが、その時に自分が助けてもらったという意識ではなく、門倉刑事のことを単純に尊敬し始めていたのだった。
 長谷川巡査も、どちらかというと頭に血が上りやすい方で、巡査という職業柄、大人しくまわりに従っているが、もし彼が刑事となっていれば、誰に似ているかといえば、明らかに辰巳刑事であった。
 下手をすると、辰巳刑事が足元にも及ばないくらいに勧善懲悪の気持ちが強く、さらに彼は少数意見を取り入れるという意味で、警察の考え方には疑問を持っていた。
 警察の伝統的な縦社会や忖度であったり、公務員気質に嫌気がさしてくるのも時間の問題かも知れない。それをうまくコントロールできているのも、門倉警部補の力である。
 もちろん、巡査と刑事課では命令系統が違うので、直接的な命令や責任等はないが、気持ちの上で慕うことは別に問題ではない。そう思うと、長谷川巡査も、門倉警部補の捜査課という意味ではその一員だと言ってもいいだろう。
 今回の事件のあらましを簡単ではあるが(もっとも、まだ何も分かっていない段階なので)、長谷川巡査は、門倉警部補に説明していた。
「じゃあ、ここだけではなく、今辰巳君が向かっている現場の事件も、この事件と何か関係があるのかな?」
 と訊かれて、
「何とも言えませんが、このような温泉旅館が立ち並ぶ場所での殺人事件自体が珍しいのに、一日に二件もあるなんて、本当にどうしたことなんでしょうね? しかも、こっちは身元不明の男が服毒している。そこに何の意味があるというんでしょうね」
 と長谷川巡査は答えた。

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「これは、心中なのかな? 心中とすれば、おかしなところがあるような気がするんだけど」
 と門倉警部補が言った。
「どういうことですか?」
 と訊かれて、
「まず一つはなぜ、こんなところで死ななければいけない? 自分たちの部屋でもいいんじゃないか? そしてもう一つは。一人がナイフで刺され、そして、もう一人が服毒しているということに違和感を覚えるんだ。だから、私はこの事件を最初から違和感ありで見ているんだよ」
 と、門倉警部補がいうと、松阪刑事も頷いていた。
「じゃあ、門倉警部補は、偽装ではないかと言われるんですか?」
 と長谷川巡査に聞かれ、
「君はおかしいとは思わなかったかね? まず服毒している男が仰向けになっていて、ナイフで刺された女が、その男の上に上からのしかかるように俯せになって死んでいた。殺してから服毒したのであれば、あのような形になることはないんじゃないかと思ってね」
 と、門倉警部補は答えた。
「確かに……」
 と、長谷川巡査は考え込んだが、考えてみれば、分かることであり、見たままの状態をそのまま信じ込んでしまった自分を恥ずかしく思えた。
 刑事というのは、それだけ、まわりを疑ってみる商売なのかも知れないと、長谷川巡査は感じた。
 さて、門倉警部補と松阪刑事が到着したのは、長谷川巡査が三人に話を訊いている最中であった、思ったよりも到着が早かったことに長谷川巡査は驚いたが、まだ聞き取りが核心に迫っていなかったのは、よかったと思った。
 あらましを長谷川巡査から聞いたところ、
「ということは、この現場か、四つ辻の祠のどちらかにいるかも知れないということで、二手に別れて捜索してみると、両方で死体を発券したということになるわけですね。しかも、こちらには、まったく見たこともない一人の男の死体gあり、一見、心中を思わせるような死に方をしていたということだね?」
 と言われて、長谷川巡査を含めた四人に、相違はなかった。
「偽装ではないかというのは、先ほど言ったことからの考えなんだけど、もっというと、毒を飲んだわりには、そこまで苦しんだ痕が見えない気がするのは、私の気のせいかな?」
 と門倉警部補がいうと、
「解剖の結果を見なければ何とも言えないですが、この男はたぶん、毒を飲んで、すぐに死んだわけではないと思うんです。何かカプセルのようなもので薬を飲んで、それが次第に胃の中で溶けてきて、そして全身に毒が回ってきたようなですね。そして、たぶん毒は青酸系のものではないかと思います。アーモンド臭がしましたからね」
 と鑑識が言った。
「なるほど、確かに青酸系の毒物は、アーモンド臭がすると言いますからね。その臭いがしたのであれば、青酸カリか青酸ナトリウムなどではないかということだろうね」
 と門倉警部補は言った。
「となると、さっきの門倉警部補の話ではないですが、心中ということも怪しくなりますね。毒を飲むのであれば、カプセルにいちいち入れる必要はないですからね。普通、自殺する人はそんな徐々に襲ってくる死の恐怖を少しでも味わいたくないと思うのが本音でしょうからね」
 と、松阪刑事はそう言った。
「もちろん、思い込みはいけないと思うけど、心中だという思い込みを捨てて、誰かに殺された可能性というのも視野に入れて、鑑識の方をお願いしたいですね」
 と門倉警部補は言ったが、発見者の三人は、最初から心中だと思って疑わなかっただけに、おかしな気分に包まれていくのだった。
「おや? これは何だろう?」
 と、鑑識が何かを見つけたようだ。
 それは小さなバッチのようなもので、よく見ると、どこかの会社の社員章のようなものだった。よく見ると、被害者の男性の手が傷だらけになっていて、誰かの胸から引きちぎったのではないかと思われた。
「毒で苦しみ出したので、思わず、手から離したんだろうな」
 というのが、鑑識の見解だった。
「死亡推定時刻は何時頃なんでしょうか?」
 と聞いたので、
「明け方というのは間違いないと思いますが、見る限りでは、二時間くらいではないかと思いますね。もちろん、解剖しないと分からないですけどね」
 ということだった。
 その話がさっき、電話で辰巳刑事に松阪刑事より報告された内容だったのだが、それにしても、こんなところで心中にしても、偽装にしてもするというのは、少し変だというのは、その場にいたすべての人が感じていたことだった。
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次