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二重人格による動機

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 死体を発見したからと言って、自分の時間を警察に拘束されてしまったり、下手をすれば、何度も刑事が訪ねてくることもあるだろう。さすがに、出頭までは言われないだろうが、もし言われたとすれば、任意での取り調べの可能性が強く、自分も容疑者の一人だということになり、そうなると、少し話が変わってくるだろう。
 そんな状態ではあったが、三人は死体発見から結構時間が経っていることもあってか、冷静さを取り戻していた。だが、少し気になるのは時間が経ったことで、死体発見時の記憶が曖昧になっていないかということが気になっていた。
 もちろん、そんなに何時間も経っているわけではないので、根本的な記憶に間違いはないだろう。ただ、話をしているうちに、聞いている方はそうでもなくても、話している方としては、話しながらどこか辻褄が合っていないかのような錯覚に陥ることもあるのではないかと思うのだった。
 その錯覚を意識しすぎると、人間というものは頭が混乱してきて、本当に正しいことを言っているのかが疑問に思えてくる。真実と事実が同じものだと頑なに信じているかのような状態になると、えてして、そんな時の証言は、どこか曖昧で信憑性がなくなってくるものだということを、辰巳刑事も桜井刑事もよく分かっていた。
 だから、二人とも第一発見者への尋問をなるべく早くするようにしている。
 しかし、かといって、基本的な基礎知識を入れておかないと話にならないと思うので、鑑識に最初に聞いて、分かったことだけを頭に入れて尋問するようにしている。それでそこか辻褄の合わないことが出てくれば、そこで話をじっくりと聞くようにしている。
 そのやり方は、辰巳刑事は得意であり、桜井刑事も手本にしていた。
 第一発見者を見つけた二人の刑事は、三人の女性の中で一人だけ服装の違う女中に最初に聞いてみた。
「すみませんが、死体発見の場面をもう一度、簡単でいいですから、お話いただけますか?」
 と聞いた。
「私たちがここにやってきたのは、先ほどこちらの長谷川巡査にもお話しましたが、こちらの奥様方とご一緒に昨日から宿泊されているお客さんが行方不明なので、最初は警察に届けようかとも思ったのですが、一度探してからにしようということになって。二手になって探すことにしたのです。一か所はこの四つ辻の祠、そしてもう一か所は滝のある神社の奥の祠を見ようということになったんです」
 と女中が言った。
「なぜ、祠だったんですか?」
 と聞かれると、
「こちらの主婦の方々は文芸サークルの皆さんだということなんですが、その中でも今回温泉にやってきたグループは歴史に興味があり、都市伝説やオカルトにも興味があるということでしたので、ここの河童伝説について、ここに来る前からいろいろと皆さん独自に調査をされたということでした。だから、その伝説の場所にいるのではないかということで、二手に別れての捜索になったんです。もちろん、それで見つからなければ、いよいよ警察に捜索願を出すことにしようと思っていました」
「なるほどそういうことですね」
 というと、その時一人の主婦が、
「警察というところは、何かがないと動いてくれませんからね。捜索願を出したところで、事件性がないと判断したりすると、後回しにされてしまう。下手をすれば、捜索すらしないんじゃないですかね」
 と思い切り悪びれた様子で皮肉を言った。
 さすがにそれには、辰巳刑事も桜井刑事も言い返すことができず、
「ごもっともです」
 としか言えなかった。
 それを見て、ひとりの主婦は勝ち誇ったような顔をしたが、その様子は辰巳刑事と桜井刑事の頭の中から消えることはなかった。
――この奥さんは、警察に並々ならぬ恨みをもっているんじゃないだろうか?
 と感じたのだった。
「それで、あなた方三人がこちらの祠の方にやってきたということですね?」
 と桜井刑事が訊くと、
「ええ、そうです。この祠にはキツネの伝説が残っているんですよ」
 と女中が言った。
 さすがに、そこまでは二人の主婦は知らなかったようで、
「お二人には、ここで何も発見されなければ、後でその話を訊かせてあげようと思っていたんですが、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので私もビックリしています」
 と女中がいうと、
「そのキツネと天狗の話はまた後でゆっくりとされればいいと思いますが、まずはこちらで死体を発見した時のことをお話ください」
 と、辰巳刑事が言った。
「ええ、まず私たちは、半信半疑でこっちに来たんですが、一つにはこの近くにバス停があるので、彼女がどこかに行ったのだとすれば、バスで行った可能性もあるので、誰かが見ているかも知れないとも思ったんです。ただ、もう一つの可能性として、誰かが迎えに来たという可能性ですね。もしそれが男であれば、車で迎えに来ることになる。そうなると、やはり、宿の近くだと、仲間の誰に見られるか分からない。神社の方だと狭くて分かりにくいし、車も止めにくい。そうあると、ここは一応分かりやすい場所でもあるし、バス停があるので、そこの近くに停まっていれば分かるというものですよね。そういう意味で、私はここに彼女がいるというよりも、誰かに見られていないかという方を考えたんです」
 と、女中が言った。
 それを訊いた主婦二人も刑事二人も、少しあっけにとられたような感じであったが、言っていることは理路整然としているような気がした。
 彼女がどういう女性なのか分からないが、皆に黙っていなくなるというのは、何か曰くがあるのか、それとも、よほど、男がいないと我慢できないのか、旅行に出かけても、男との逢瀬を楽しみたいのだとすれば、相当な女だろう。
 だが、逢瀬が目的というよりも、皆と旅行に来ていて、自分だけがまわりに黙って男と会うというアバンチュールに興奮しているのかも知れない。意外とそういう女は多くいるようで、そんな女がよく事件に巻き込まれたりしているのだ。刑事としては。そんな話を訊くたびに、苛立ちを覚えるのだった。
「それで、ここまでやってきて、男の死体があるのに気付いたというわけですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうです」
 と女中が答えた。
「誰が気付いたんですか?」
 と訊かれて、
「気付いたのは私です。私はサークルの中でもいつも最初に行かされる方で、最近では自分がこういう役目なんだと思うようになっていたんです。それまでは、二人が先導してここまで来たんですが、ここまで来ると、いよいよ選手交代という形で、私がいつものように、それこそ無意識に覗き込んだんです。すると、頭が見えたんです。その頭は真っ黒な髪の毛に覆われていたので、俯せになっているのがすぐに分かりました。プロレスラーが胸を張って雄たけびを上げている時のような両手を広げた形で倒れています。私はすぐに死んでいるのだと思いました。もちろん、確証があったわけではないですが、起き上がってくれば、オカルトだと思ったくらいだったので、不謹慎ですが、そんな状態を見ると、黙って死んでいてほしいと思ったくらいです」
 と最初に発見したという奥さんは語った。
作品名:二重人格による動機 作家名:森本晃次