小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

キツネの真実

INDEX|9ページ/27ページ|

次のページ前のページ
 

 そして、不要なものは、いくらでも削除が可能なのが芸術であり、逆に、不要なものをいかにカットして、作品を作り上げるかというところに、芸術作品の意義があるとでもいうような感覚になっていた。
 絵画を初めて、最初に先生が変なことを言ったのが印象的だったのだが、
「絵というのは、目の前に見えるものを忠実に描き上げるという写生という意識が強いカモ知れないけど、不要だと思うものを省いて描くことで、それを自分オリジナルの芸術作品として仕上げることができるんだよ」
 と言っていた。
 最初は本当に何を言っているのか分からなかったが、実際に絵を描き始めて、描けるようになってくると、確かに不要なものは描かないようになっていた。
 なぜそんな感覚になったのかということを自分なりに考えてみると、
「ああ、あの時に言われたことを、無意識に忠実に実行しているんだな」
 と感じたことで、あの時の先生が言った意味が分かってきた気がしてきたのだ。
 それまで、絵画に対してはどんどん興味を持っていたのだが、そのうちに他の芸術に対しても造詣を深めたくなってくる。その思いにさせてくれたのが、
「芸術というものの共通点」
 だったのである。
 とはいえ、絵画教室にも慣れてくると、本来の、いや、元々の本来というべき目的に対して、少し忘れかけている自分がいるのにも気付いていた。
「ストレスが発散できているので、そっちの方はもういいか?」
 と感じるようになっていたが、そんな時だからであろうが、そんな紗友里に興味を持ってくれる男の子もいたのだ。
 彼は名前を三矢孝弘という。年齢は二十五歳だというからビックリだ。もし、浮気相手ができるとすれば、相手も既婚者で、同じくらいの年齢か、少し上くらいの頼りになる男性を想像していたのである。
 それが、まさか、弟と言っても少し年が離れているくらいで、旦那は自分よりも年上として少し離れているし、彼は下の年齢で離れている。
「ちょうど同い年くらいの男性には、興味を持ってもらえないのか?」
 とも感じたが、それはそれであまり関係がないような気がした。
 孝弘は、紗友里にとっては、
「若いツバメ」
 とでもいう年齢で、立場であったろう。
 まるで、ロマンス小説の主人公にでもなったかのような状況に、少しドキドキしたものを感じていたのだ。

             温泉旅行

 三矢孝弘という男は、色白で昔で言えば女形のような、ちょっとなよっちい感じの男だった。
 今までの紗友里であれば、そんな頼りない男には見向きもしなかっただろう。しかし、甘えてくる感じは絶妙に女心を擽り、
――ホスト狂いをする女性の気持ちが少し分かった気がする――
 とも感じたほどだった。
 男性アイドルグループにいそうなタイプで、そんな男を隣に侍らせているところを、まわりに見せつけたいというほどに感じたほどで、自分には夫がいながら、そんな感情に陥るのだから、不倫という言葉には、甘い罠が含まれているということも分かるというものだ。
 最近テレビドラマでは、そういうタイプのイケメンが多く登場する。まるでファッション雑誌の表紙を飾っているかのような男の子だ。月間のテレビ番組を掲載している雑誌などの表紙に、果物を持って登場している連中を想像してくれればいいだろう。
 本当に孝弘という青年は、まるで少年と呼んでもいいくらいであった、声質も細く高いのだ。まるで声変わりをしていない少年のようで、その声を聴いただけで、女性ファンの中には卒倒してしまう人もいるかも知れない。
 そういえば、昭和の昔の男性アイドルの熱狂的なファンが、黄色い声をあげすぎて、酸欠にでもなったのか、失神してしまう人もいたというが、今とは状況がかなり違っているだろうが、結果は似ているから不思議だった。
 確かに昔のアイドルには、ひ弱い人もいた。可愛いという雰囲気そのもので、本当に声変わりをしていなかったのかも知れない。昔なつかしのアイドルを振り返るという番組で見たことがあったが、本当にひ弱という言葉が的を得ていたのだった。
 だが、今の男の子というのは、ひ弱というのとはまったく違っている。本当に肌が白く、顔は可愛い系なのだろうが、全員が全員そういうわけではないのだろうが、どうして、ホストの営業を思わせると、テレビドラマなどでのホスト役を思わせて、信用ができないと思っている人も少なくないだろう。
 とにかく、まずはお客の女の子にたくさん貢がせるために、相手を思い切りもち上げる。自分がまるでその子のものにでもなったかのようなスタイルだ。そうしておいて、どんどん高いものを注文させる。
 ここからは、ネットニュースに載っていた手口の話なので、どこまでが本当なのか割らないが、
 高いものを注文しても、
「掛けでいいから」
 ということで、いわゆるツケという形で、その場は盛り上げるだけ盛り上げる、
 そんなことを繰り返しているうちに、売掛金が数百万になっているというわけで、途中から男が豹変することになる。
「早く払わないと、俺の責任になってしまうんだよ」
 と、すでに枕営業に切り替えたホストはそう言って、女に金を出すように迫る。
 当然、そんなお金を都合できるわけもない女は、
「俺が手っ取り早く稼ぐ方法を手引きしてやる」
 と言いながら、女を風俗に売り飛ばし、風俗で稼いだ金を売掛金に充てるという、よくあると言われているやり方だ。
 風俗に堕ちることのない女性は、会社の経理部か何かにいて、会社の金を着服し、それがバレて(当然バレないわけはない)、そのまま会社から警察に訴えられ、
「業務上横領」
 ということで、前科者になるという始末である。
 もちろん、イケメンのホスト風の男性が皆そんな男だとは限らないが、紗友里もそれなりに大人なので、それくらいのことは分かっているつもりだった。
 そもそも、水商売に一度は足を踏み入れた女だという自負もある。変な男には引っかからないという思いと自信が強かった。
 だが、中途半端な自信過剰ほど、実は引っかかりやすいものはない。さすがに金銭的に騙されるところまではいかない。ただ、お小遣いと称して、せびられることはあっても、それはセレブの想定内のことであって、それくらいのことは、何でもないことだった。
 それよりも、自分の方から与えるという快感を覚えるようになった。相手に尽くすということに目覚めたと言ってもいいだろう。
 ただ、紗友里は、この男に引っかかったわけではない。確かに孝弘という男、ホストではないが、その甘いマスクで、子供の頃からまわりにちやほやされてきたおかげで、いいことも悪いことも味わってきたのか、そのテクニックのようなものが形成されているかのようだった。油断していれば、この男の術中に嵌ってしまいかねない。紗友里はそんな愚かな女ではないのは、さすが元ホステス。自覚があった。
 紗友里は、彼との関係を分かって楽しんでいた。
「この男は私を愛してはいない」
 という思いの元、自分も愛していないくせに、甘い言葉を浴びせるという、疑似恋愛を楽しんでいた。
 つまり、気持ちがあるわけではない、肉体だけの関係だった。
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次