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キツネの真実

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「セレブの奥様」
 という肩書は十分なものだった。
 明らかにこちらを見る男性諸氏の目の色が違っている。だからと言って、こちらも物欲しそうな態度で臨めば、相手の思うつぼになるだろう。ここまで自分の需要が高いのであれば、こちらから焦る必要などサラサラないだろう。
 そう思って物色していると、どんどん傾向が分かってくる。自分よりも年上の男性はそれほどギラギラした目で自分を見ている人は少ない。チラ見をする人は結構いるが、元々が紗友里に興味があるわけではなく、セレブの奥様という珍しい人種として興味があるだけなのだろう。
 そういう人でもいいのだが、旦那自体が年上なので、浮気相手は若い方がいいと思い始めた。セックスに関してはがさつかも知れないが、それは最初だけのこと、自分が仕込めば次第に上手になってくる発展途上の、
「坊やたち」
 そんな子たちを物色することを考えていけばいいように思えるのだった。
 ちょうどよさげな男の子だちというのは、セレブな家庭だけあって、出入りの御用聞きのような子もいたりして、より取り見取りのところもあった。
 また、一つ考えたのは、何か新たな趣味を持って、そこで見つけるというのも手のように思えた。
 さすがに家に出入りしている少年に手を付けるのは露骨な気もした。最初は、
「見つかりそうで見つからないというところにスリルがあるんだわ」
 とも思っていた。
 最初からそんな男の子たちを物色するのであれば、この思いは結構強かったかも知れないが、
「焦る必要はない」
 と思い始めて、その思いgどんどん萎んでいった。
 そして思いついたのが、サブカルチャーのような習い頃であったのだ。
「何がいいかしら?」
 と、思っていた時、音楽関係と芸術関係に大きく分けられるように感じた。
 音楽関係は、業界を見ていると、どうもきな臭い感じがした。バンドであったり、音楽関係のアーチストというと、芸能界との癒着を考えたりすると、よく耳にするのが、
「薬物による逮捕」
 であった。
 よく週刊誌の芸能ゴシップなどを見ていると、そういう記事が躍っているのをよく見る。もちろん、すべてが本当だとは思わないが、せっかく焦らずに探そうと思っているところにわざわざ危険を承知で飛び込むだけの気持ちはなかった。
 それよりも、芸術関係であれば、一人で孤独な人が多いだろうし、多少偏った考えをする人もいるだろうが、それも、一つの冒険であり、そこまで大げさなものではないと思えた。
 嫌になれば、やめてしまえばいいだけだ。相手だって、孤独を愛する人間だという意味で、そうなった時の罪悪感もほとんどないと思えたからだった。
 男の子を物色しようと考え始めたのは、今から一年くらい前だっただろうか。結婚四年目くらいだった。
 その昔、
「三年目の浮気」
 なる歌が流行ったが、彼女にとっては、
「四年目の浮気」
 だった。
 浮気というものに対して、いろいろな考えがあるだろう。旦那の気持ちが自分にないという理由が一番なのかも知れないが、それによって探す相手はいろいろだ。
 今まで愛が足りないと思っていた心の隙間を埋めてくれるような男を探すという、少し重めの感情もあれば、紗友里のように、気分転換という軽い動機もあるだろう。さらには、旦那に対しての当てつけであったり、自分が浮気をすることで、旦那が自分に対しての見方が変わってくればいいと思っている奥さんもいるだろう。
 さすがに最後の動機は自分に都合がよすぎる考えであるが、もし、そうなれば、一石二鳥というもので、そもそも、旦那が自分の魅力を見失ったことから入った亀裂を元に戻すという意味で、相手の気持ちを刺激するというのは大切なことかも知れない。それが浮気というだけで、それもありではないかとも思えた。
 だが、紗友里にとっては、そこまで深くは感じていない。
「自分よりも先に浮気をしたのは旦那だ」
 という思いからの報復の気持ちと、やはり、自分にとっての気分転換という意味での相手という、そこまで深い考えではなかった。
 紗友里はそう感じながら、サブカルチャーを物色していたのである。

                浮気相手

 サブカルチャーと一言で言ってもたくさんある。安いところでは、市役所などの行政が行っている、カルチャー教室などもあるが、せっかくのセレブの奥様が通う教室としては。行政が行うサークルなどではなく、民間の会社がやっているサブカル教室もいろいろとあるので、そちらを見るようにした。
 金銭的には本当にピンからキリまであり、ピンであれば、プロと思しき先生が指導してくれるところもあるようだ、
 しかし、紗友里の本当の目的は、
「浮気相手の物色」
 だった。
 少し歪で、不純な動機であったが、実際に入ってみると、他の女性も口では、
「絵が上手くなりたい」
 という教科書的な面白くもない回答が返ってくるのだが、その本音は紗友里とほとんど大差のないものであった。
――なんだ、私だけじゃないんだ――
 と思ったが、他の奥さんのように、オブラートに包んだような行動にはどこか否定的なものを感じていた。
 そういう意味で、他の奥さんとつるむことだけはしないようにしようと思った。下手をすると泥仕合になりかねないからだった。
 せっかくセレブな自分が、泥仕合を見せるなんて、ありえないと思っているのも確かだが、そうなってしまうと、元々の目的を失ってしまい、ここにいること自体。まるで本末転倒になってしまうであろうと感じたからだ。
 カルチャー教室には、昼の部と夜の部が存在した。
 昼の部は基本的に主婦が多く、夜の部は、サラリーマンが仕事終わりに趣味として嗜むことを目的にくるものであった。
 昼の部、夜の部、その人の都合で、どちらに参加してもいいようになっていたのだ。だから、紗友里は昼の部だけではなく、夜の部にも万遍なく参加するようにした。
 家の方には、
「私、最近サブカルチャーとして、絵画教室に通うようになったのよ」
 というと、
「そうかい。それはいいことかも知れないね。君もいつも家にばかりいると、息苦しさもあるだろうから、そうやって気分転換できるのはいいことだと思うよ。私も応援したいくらいだ」
 と旦那は言っていた。
 ひょっとすると、奥さんがサブカル教室に通うことで、自分の浮気の時間が取れることを喜んでいるのかも知れないが、その時の紗友里には、そんなことはほとんど関係のないことであった。
「君がうまくなって、描いた作品をこの家に飾れるくらいになると嬉しいね」
 と言っていた。
 もし、紗友里に興味が薄れていれば、そんな言葉が出てくるはずはないということに、すでにその時の紗友里は気付かないまでになっていた。つまり、この言葉は夫としての本音であり、妻への純粋な優しさだったのだ。
 紗友里は別に裏切られていたわけではなく、勝手な思い込みだった。それは、夫が会話が少なくなってきた自分を見限っているという思いから生じたことであり、旦那にはそんな思いは毛頭なく、むしろ奥さんを信じてのことだということに、気付きもしなかったのである。
 紗友里が教室に通うと言い出した時、
「お金のことは心配いらないよ」
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次