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キツネの真実

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「私は別に理論が嫌だと言っているわけじゃないのよ。ただ、最初から理論というものを考えてしまうと、発想であったり、閃きが効いてこないのではないかと思ってしまうのよ。だからどうしても、理論を後回しに考えようとするのかも知れないわ」
 というと、
「それは勘違いだと思いますね。お姉さんはそういうつもりで考えていても、やっぱりどこかで理論立てて考えているんですよ。だって、理論がないと、すべてが支離滅裂になってしまって、出てきた考えが、本末転倒になり、焦点が定まっていないと思われるんじゃないかと思うんです」
 と、真由美は言った。
「なるほど、確かにそうかもね?」
 と紗友里も納得するしかなかった。
 紗友里は、真由美と会話をしながらも、手を休めることはしなかった。それに気づいたのか、
「あまり、私が話し込んでしまってはいけませんね。どうぞ創作活動の方を続けてください」
 と言って、真由美はそそこさと立ち去って行った。

                 無意識の急展開

 真由美が立ち去った後、火が消えたような気がしたが、それは少しの間だけだった。絵に再度集中してから、ふと真由美のことを思い出そうとすると、記憶が定かではないように感じた。まるで、幻だったのではないかと感じたほどだった。
 その日、宿に帰ると、
「金沢様。お宅からお電話が入っておりますが」
 ということで、連絡をしてきたのは、女中からだった。
「奥様、大旦那様がお倒れになったので、至急お戻りいただけますか?」
 ということであった。
 大旦那というのは、いうまでもなく先代であり、先代には心臓の持病があった。嫁にしてもらったこともあって、先代の体調の悪い時の面倒はずっと紗友里が見てきたのだが、最近は持病も鳴りを潜めていたので、旅行に出かけると言った時も、
「ゆっくりしておいで」
 と言って、暖かく見送ってくれたばかりだった。
 それなのに、いきなり電話がかかってきて、倒れたというのはどういうことだろう? 紗友里は急に恐ろしくなった。
――まさかと思うが、自分が旅行になんか出かけたので、先代の容態が悪くなったということではないか?
 と、別に自分が旅行に出かけたことと、先代の倒れたことに何ら因果があるわけではないのに、不安に感じるということは、これも一種の虫の知らせというものなのかと紗友里は感じたのだ。
「入院されているの?」
 と聞くと、
「倒れてからすぐは、普通にお話とかできていたんですが、途中で容体が急変したようで、今は集中治療室に入っておられます。意識不明という話でした」
 というではないか。
「分かったわ。今からすぐに病院に向かうので、どこの病院か教えて」
 と、いうと、行きつけの病院で、先生もよく知っているので、それは安心だった。
 だが、容体が急変とはどういうことか、嫌な予感が的中しなければいいと思った。
 紗友里は、予期していないことが起こると、慌てふためいてしまうことが昔からあった。大げさに騒いでしまって、あとでまわりから諭されることも結構あった。
 学生時代などは、そのせいで逆に何かあっても、
「紗友里にだけは知らせないようにしよう」
 と言われたくらいだった。
 さすがにそれではまずいということで、今ではあまり慌てないように心がけているが、どうしても悪い方にばかり考えてしまう性格は、そう簡単に変わるものではなかった。
 きっと、今回のように、まず自分に何か非があるのではないかと思うからだった。
 思い過ごしでしかないのに、そう感じてしまうのは、性格的に何でもかんでも自分で抱え込んでしまうところにあるからではないだろうか。
 責任感が強いというわけではなく、ただ、自分が悪いわけではないという確証を得たいというだけではないかと最近は感じるようになっていた。
 もし、それであれば、これほど自己中心的なことはない。それをまわりに知られたくないから、いや、知られるくらいだったら、うるさく騒がしいというくらい見られ方であれば、まだマシだと思っていたのかも知れない。
 中学時代には、騒ぎすぎえ、まわりからしばらくシカトされることが多かったが、その時はどうして、自分がそんなにわざわざ大げさに騒ぐのか自分でも分からなかった。だから、まわりからシカトされることに不満を感じ、逆に自分もまわりを近づけないようにしていたものだ。そういう意味でも、何かがあった時、紗友里を無視して他の皆が協力するという行動が多く取られ、紗友里もそれに対して、余計なことをしないでいい分、よかったと思うようになっていた。
 だが、そんなことが許されるのは学生時代までのことで、仕事を始めるとそうはいかない。そのあたりが人との調和で、紗友里が一般の会社でうまくいかなかったという理由なのかも知れない。
「何あの人、一致団結してことに当たらなければいけない時に、一人だけ蚊帳の外ってありえなくない?」
 というウワサが流されて。最初に就職した会社に居づらくなって、すぐに辞めてしまった。
 少しの間、コンビニなどでアルバイトをしていたが。そこでクラブのママがお店に誘ってくれた。
「一目見て、あなたならできそうだなって思ったの。体験でちょっとやってみない?」
 と言われ、やってみることにした。
「体験であれば、ダメなら、またコンビニでバイトを続ければいいだけなんだから、何でも経験だわ」
 と感じた。
 やってみると、これが結構性に合っているのか、年上から結構可愛がられる。理由とすれば、
「うちは、嫁が気が強いので、この子のように落ち着いて見えるけど、優しいところが嬉しいんだ。嫁と変えたいくらいだ」
 と言ってくれたのだ。
 確かに、紗友里は気が強いわけではない。逆に自分に自信がないことで、すぐに何かの答えを元得ようとする。お客さんの嫁という人は、ほぼほぼ計算高いと思われている人が多いらしく、紗友里にはそれが感じられないというの話だったのだ。
 だが本当は計算高いと自分では思っていたが、まわりから見てそう思われないのであれば、ありがたいことだと感じた。その分、大げさになっていた自分をまわりが疎ましく思っていたのに、店のお客は、そこもひっくるめて、紗友里のことを、
「優しい」
 と言ってくれているようだった。
 先代が紗友里を気に入ってくれたのも、そのあたりにもあったようだ。
 そんな先代が意識不明ということで、紗友里は、
「自分が旅行なんかに出かけたからいけないんだ。しかも不倫旅行。私は旦那を裏切るだけではなく先代も裏切っていたんだ。どうしてそんな簡単なことに気づかなかったのだろう?」
 と紗友里は感じた。
 紗友里は、すぐにタクシーを手配して、病院までタクシーを走らせた。高速道路を使えば二時間はかからないだろう。これを駅まで行って、新幹線に在来線を乗り継いで病院に行っていたら、四、五時間はかかっていることだろう。とにかく急いで駆けつけることが、その時の紗友里の使命であった。
 途中までは早かったが、夕方ということもあり、高速を降りてからは、ちょうど通勤ラッシュの時間と重なったのか、病院まではなかなか辿り着いてくれなかった。
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次