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キツネの真実

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 話をしていて、紗友里は真由美が何をいいたいか。真由美は紗友里が何を言っているのかということをお互いに分かっているような気が、お互いにしていた。そう思うと二人は初対面のはずなのに、過去にも何度かあったことがあるような気がする。
「気のせいではないか?」
 と思うと、その感情を打ち消している自分がいるのだった。
 そういえば、紗友里は今までに何度か、妹がいるという夢を見たことがあった。目が覚めるにしたがって、妹の夢を見た時は他の時と違って夢から覚めるのが比較的早かった気がした。その都度、
「また同じ夢を見て、今感じているのと同じ思いをするのではないか?」
 とも感じるのだった。
 だから、もう一度(と言わず、何度も)同じ夢を見るのだろうが、その都度、思い出すということは、どこかで忘れてしまうのだろう。
 それがいつなのかということを考えてみると、紗友里に中では、
「夢を見る寸前なのかも知れない」
 と感じた。
 人は夢を見る時、それ以前の意識をすべて、一度記憶として封印することで、新しい夢を見たと思うのではないかと感じた。
 人間というのは、絶対に既存のものを見るよりも、何か新しいものを発見したり、開月することに喜びを感じるのだ。それができるということが、人間にとって他の動物にはない特権なのではないかと思う。
 そんな時、夢は新たな開発への起爆剤になるのではないかと思っている。だから、起爆剤になるための要員として、一度頭の中をリセットする必要がある。そのリセットしたそれまでの意識は一度どこかに退避しておく必要があるだろう。それが、
「記憶の奥の封印」
 というものなのかも知れないと思うと、漠然と考えていた、この空間を、自分の中で正当化しようと思うだろう。それがリセットという発想であれば、どこか辻褄が合っているように思うのだ。
「私ね。時々夢を見るのよ。お姉さんがいればよかったってね」
 と真由美がいうと、
「あなたにはお姉さんはいないの?」
 と聞くと、
「私もお姉さんと同じ一人っ子だったのよ。だから、お姉さんが欲しかったという思いが強いうえに、ちょうど今目の前にいたあなたが、お姉さんのイメージにピッタリだったので、それで思わず笑ってしまったというのも実際にはあるの。そういう意味では私の思い描いているお姉さん像は、さっきお姉さんに感じた『贅沢な時間を使っている人』というイメージなのかも知れない。だから、相手が私より年下であったとしても関係ないの。お姉さんの定義を満たしていれば、皆私にとってのお姉ちゃんなのよ。そして、さっきお姉さんは私に対して、初めて会ったような気がしないと思ってくれていたでしょう? 私も同じことを感じたことだけで、十分な気がするんだけどな」
 と真由美は言った。
「私は金沢紗友里と言います。三十五歳なんですよ。でも、私これでも主婦なんですよ。見えないかも知れないけど」
 というと、真由美はニッコリと笑って、
「主婦だなとは思いましたよ。贅沢な時間の使い方にも、既婚と未婚で違うような気がするのよね」
と言った。
「どういうこと?」
 と聞くと、
「未婚の場合は、贅沢な時間を使っているという自覚があると思うのよ。でもその自覚があるだけに、絶えず裏側には不安が渦巻いている。それは考えれば考えるほど大きくなるというスパイラルを背負っているのよ。でも既婚の場合は、そういう不安は意外と小さい。なぜなら、感じた不安を自分で消化できる力があることを自覚しているのよ。自浄効果のようなものがあると言えばいいのかしら? だからといって、未婚者は贅沢な時間を使ってはいけないというわけではない。むしろ使い方がうまいのは未婚の方だって思うのね。自覚をなかなか持てないというのが理由のような感じがするんだけど、これは勝手な私の意見なので、どう解釈するかは、その人それぞれなんじゃないかしら?」
 と、真由美は言っていた。
 なるほど、真由美の言っていることには、いちいち納得するところがある。こちらが必死になって質問を考えていて、どんな質問をしてくるのかというのもあらかじめ分かっているかのようで、下手をすれば、すべて見透かされているようで、忌々しさすら感じさせられる。
「ところで紗友里さんは、どうしてこの温泉に?」
 と訊かれて、
「ええ、ちょっと温泉に浸かりたくなって、主人には、絵のサークルで来ていると言ったんだけど、ご覧の通りです」
 行って苦笑いをしたが、
「そうなんですね。それで贅沢な時間に見えたというわけですね」
「ええ、そうです」
 いずれは正直に言うかも知れないが、さすがに出会ってすぐの相手に、
「不倫旅行だ」
 というのは忍びなかった。
 だが、彼女の何でも相手を見透かしている様子から考えれば、紗友里がウソをついているというか、言葉が足りないところは当然看破しているのではないかと思えた。
「真由美さんはどうしてここに?」
 と聞き返すと、彼女の表情は意外そうに見えた。
「私にウソを言っておきながら、私のことを聞き出そうというの?」
 とでも言わんばかりの表情に、ドキッとしてしまった。
 しかし、彼女の考えているのはそこまでのようで、
「自分のことを棚に上げて」
 というような雰囲気ではないようだった。
「人間、言いたくないことはいくらでもある」
 とでも言いたげな表情に、お互いに腹の探り合いをしているかのように感じた。
 しかし、それは決して嫌なものではなかった。くすぐったさを感じるかと思ったが、どこか心地よさがあった。
 相手のことをいろいろ観察してみるのもいいことであり、それは、気心の知れた相手でないとできないと思っていたことから、まだ出会ってすぐの真由美に対して、運命のようなものを感じたと言っても、不思議ではないだろう。
「紗友里さん、そこでじっと座って描いているようですけど、腰が痛くなったりはしないんですか?」
 と、真由美が聞いた。
「ええ、大丈夫よ。まだそんな年ではないからね」
 というと、真由美が少し怪訝な表情になり、
「年に関係なくということなんですけど」
 と、意味の分からないことをいうのだった。
「どうして、そういうことを訊くの?」
 と訊ねると、
「お姉さんは、ここのおキツネ様のお話をお聞きになりました?」
 というので、
「ええ、板前さんとのお話でしょう?」
 と答えると、
「ええ、でも、きっとお姉さんはいい話しか聞いていないんでしょう?」
 というではないか。
「ええ、宿の女中さんから聞いた話だったんだけど、詳しいことは分からないと言っていたわ」
「それはきっと、女中さんがそこまでしか聞かされていないからね、このあたりの出身でも何でもないのかもね。温泉の宣伝用に聞いた話をそのまま話しているだけなのね」
 ということだった。
「じゃあ、他に言い伝えでもあるというの?」
 と紗友里が効くと、
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次