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キツネの真実

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 とにかく日にちは二日しかない。できるだけ完成に近づけたいと思っている。今までに風景画は何度か書いたことはあったが、滝のように動くモノは初めてだった。しかも、滝というのは目にもとまらぬスピードで落ちるもので、しかし、却ってその方が描きやすいかも知れないとも思えた。
 言い方は悪いが、
「ごまかしがきく」
 と思っている、
 流れ落ちるスピードが速いほど、細くたくさんの線を入れると、よりスピーディに見えるのではないかと思ったからである、
 実際に描いたこともなく、今までに動くものを絵として意識して見たこともなかったので、自分が考えたような結果になるかどうか、想像がつかないところもあったが、とりあえずやってみることにした。
 動くモノを描いてみたいという願望は以前からあり、わざわざそれを実現させにどこかに出かけるというのは、出不精な紗友里には、少しハードルの高いことだったが、
「温泉旅行のついでに」
 ということであれば、願ったり叶ったりであった。
 しかも、一緒に出掛けた相手が、時間をくれるのだから、それこそ描くための舞台はしっかりとできあがっているのだった。
「ここの滝は、時間帯によって、さまざまな顔を見せてくれるというのが、人気の秘訣のようで、おかげさまで、絵葉書の売れようも結構なものなんですよ。中にはネットで見たと言って、連絡をくれる人もいて、最近ではネット販売も始めました」
 と、宿の人は言っていた。
「でも、まだまだ有名温泉という触れ込みからか、滝にまでくる人はまばらで、やっぱり温まりに来た人には、滝のこの厳しい冷たさはきついのかも知れませんね」
 と、宿の人は言っていた。
「家族連れなどには、厳しいかも知れませんね」
 というと、
「そうですね。カップルだったら、数組くらいが毎日訪れてくれますね」
 という返事が返ってきた。
「何か、ここの滝にはいわれのようなものってないんですか?」
 と聞くと、
「これと言ってはないですね。でも、伊豆の踊子のような、なぜぬ恋の結末をここで迎えたという話はいくつか伝わっていますね。料亭の女将と、板前の恋だったり、宿の女将と板前といった。男の方は大体が板前さんで、お嬢さんに恋をしたという話が多く伝わっていることから、滝の近くに祠があって、その中に板前が使う包丁を奉納しているんですよ。さらにキツネも一緒に祀られていて、まるでお稲荷さんのような感じなんですが、他にも何か謂れがあるのかも知れませんね」
 と話してくれた。
「まあ、板前が絡む話がたくさんありますからね」
 というと、
「それもそうですね」
 と旅館の女中さんは笑っていた。
「キツネというのも面白いですね」
「ええ、キツネは化かすと言われているでしょう? そのいわれはないかという話は伝わっていますね」
「じゃあ、女性の方がキツネだと?」
「そのようですよ。そして、そのキツネの特徴としては、尻尾が二本あるらしいんです。厳密にいえば、途中で二つに分かれているという話ですね。この近くにこの温泉の資料館のようなものがあるんですが、そこにそのキツネの絵と、尻尾ではないかと言われる毛玉が飾ってありますので、見てくればいいですよ」
 と、女中は言った。
「そうですね。何かちょっと興味があります、滝というのも、私には興味津々なので、それにまつわる話の遺品が残っているというのであれば、見ないわけにはいきませんよね」
 と紗友里は言った。
「ええ、ぜひとも行ってみてください。開館時間は、朝の九時から夕方の五時ですので、今日はちょっと時間的に無理でしょうから、明日にでも行かれればいいと思います」
 ということで、とりあえず、滝だけでも見ておこうということで、先行して見に来たのだった。
 女中さんに聞いた道を歩いてくれば、思っていたよりも滝までは近く、これなら、翌日は資料館に寄ってからきても、いいと思ったのだ。
「キツネも想像して描いてみようかな?」
 と思った。
 何でもかんでも省略するのであれば、付け加えることもおかしなことではないだろう。それは自分の中の想像であっても、描けるものはすべてにおいて、想像以上のものであると思えた。
 想像以上、それは妄想だというべきであろうか。
 まず考えたのは、キツネというものの色だった。
「真っ白なのか、それとも黄色がかったいるなのか。確か焼き具合などで、黄色くなった塩梅の時、キツネ色に焦げたという表現をするではないか。曖昧ではあるが、黄色がかった色は想像できるものである」
 と考えたが、
 今まで、白いキツネというイメージもないでもなかった。
 特に何か悪さをするキツネであったり、霊験あらたかなキツネには、真っ白という色が思い浮かぶ。まったく正反対なのに、同じ真っ白というのは少しおかしな気がしたが、それも想像がつくような明るさであることから、十分に真っ白もありだと思った。
 だが、自分が描くのはデッサンで、そもそも色は関係がないはずだ。それなのに、いきなり色を感じたということは、真っ白ということに何か曰くがあるのかも知れない。
「ああ、そういえば、前にどこかの村のようなところで、キツネを模したお祭りがあったような気がするわ、その時のキツネが確か真っ白いキツネで、キツネ面が真っ白に、赤い隈取をした目の周辺だったような気がする」
 ということを思い出していた。
「キツネというと、いいイメージもあれば、悪いイメージもあるけど、どっちの方が強いですか?」
 と訊かれて、
「そうですね、お稲荷さんというイメージでは、いいイメージがありますし、人を化かすという話であったり、九尾のキツネなどの話を訊くと、ちょっと人を騙したりする怖い感じですね。そういう意味ではやっぱり怖いというのが、強いですかね?」
 と話すと、
「確かにそうでしょうね」
 と言われた。
作品名:キツネの真実 作家名:森本晃次