脳内アナフィラキシーショック
しかも、何か一つでもいいことをしていればいいのだが、表に出てくるとすれば、そういう問題が発生した時にだけ出てくるという、何もやらない男だったのだ。これで、日本の国がよくなるわけもなく。誰も、伝染病の禍がまだまだ続く中、いつまで首相の座に収まっているのか、選挙が楽しみである。
しかし、
「他に誰が?」
というのも事実であり、この国は次第に亡国への一途をたどっているのではないかと想うと、
「国家や、政治家に殺される」
と言っている人の言葉が、リアルにしか聞こえてこないのであった。
そんな時代の真っ只中で、いよいよワクチン開発が行われていたが、それが世界に配布されているのだが、日本でも、今は医療従事者への摂取の時期になっている。時期としては二月の後半から摂取が始まって、今一か月と少しが経過した。国家としては、五月くらいから高齢者、夏くらいから一般へと言っているが、今の摂取人口がどれだけが分かっていて言っているのであろうか?
まだ、百万人をやっと超えた程度である。一日五万人も摂取されていない現状で、そう
日本の総人口は、一億二千万を少し超えているくらいであるということだが、一日で多く見積もって、五万人として、それが何日で摂取が終わるかを計算すると、日数にすると、二千四百日ということになる、このペースでいけば、六年半かかるということになるのだが、実はこの摂取は基本が一人二回ということである。つまりその倍なので、一日五万人が少しサバを読んでいることを考えると、下手をすれば、十五年はかかるという計算である。
それを何と政府は、一年くらいで摂取するという、
「小学生でもできる計算を、十五倍にも見積もって計算するとは、誰が考えても根拠のないものではないか?」
と言わざる負えない。
今の段階でワクチンは海外からのものなので、優先順位も問題だ。果たして、途中で入ってこなくなったりするのではないかとの懸念もある。
考えてみれば、最初は、今の段階では、医療従事者、高齢者には打ち終わっているなどということを言っていたはずで、五月くらいから順次一般の人の接種を始めるなどと言っていたのに、
「どの口がいう」
というレベルの問題であった。
こんな政府を誰が信じるというのか、世の中はカオスに見舞われ、もう、誰が誰を信じていいのかという状態なのだろう。すでに、主要駅周辺の飲食店はいくつも閉店していて、夕方を超えても、ゴーストタウンと化していたのだ。何が正しいのかも分からなくなってきていた。
さて、社会ではそんな混沌とした助教が続いているが、この物語は、そんな世相を反映せず進んでいた。
このお話はそんなウイルスが流行る少し前の年に起こったことなので、まさか、こんな時代が来るなど、誰も想像もしていなかった。
表を歩いている人がマスクをしていないと、避けて通るような今では当たり前と言える光景を、
「異様だ」
と感じていた時代のことである。
そこから、まだ何年も経っていないのだ。
そう、時代は、令和という年号に変わったすぐくらい、余談だが、令和という額を掲げた男が今のどうしようもない首相であるということである意味、今の時代を象徴するという痛烈さが、実に皮肉なことであった。
もうその頃の世相がどうであったかなど、今は昔のごとく、まるで十年くらい前のことではないかというほど、ガラッと変わってしまった世の中、例年のように花見の季節を迎え、そんなにいるはずのないという頭にあるフレッシュな新入社員が通勤電車の中でも目立つようになった時期、H県警のK警察署でも、新人の刑事が赴任してきた。
実際に警察に入ったのは昨年であったが、一年間、研修を行い。やっとこの四月から、K警察署刑事課に、刑事として赴任してくることになったのだ。名前を高杉刑事という。
彼は、警察学校でも、優秀とまではいかなかったが、それなりの成績で卒業し、所轄の刑事になることを夢見てきたという。
「私は庶民派の警察官として働ければいいと思っているので、県警本部でという夢を持っているわけではありません」
ということを言っていた。
今まで入ってきた新人刑事には昔のように、
「夢は県警本部の捜査一課で刑事になって、そこからどんどん昇進していくことです」
という人はあまり聞かなくなった。
昔もそこまで露骨なことをいう人はあまりいなかったが、明らかに目の色が違っていたが、最近では本当に欲がないというのか、出世しようと考える人はあまりいないと言ってもいいだろう。
ここ最近は、それほど大きな事件は発生しておらず、ある意味平和な時期であった。
それは凶悪犯が少ないというくらいで、小さな事件はちょくちょくあったので、忙しさはそれなりにあった。今のように熱血漢の刑事が少なくなった時代には、ちょうどいいのかも知れない。
まるで、
「これが本当の公務員」
とでもいえばいいのか、平和なのはいいことなのだが、どこか物足りなさが感じられるのか、気のゆるみがないともいえないこの状況で、
「毎日、緊張感を保って勤務を邁進していただきたい」
という署長の訓示も、どこまで真剣に聞いているのか分からないくらいであった。
署長はここの署長になってから、そろそろ五年目ということで、いつも署長室に籠っているわけではなく、時々、街を巡回するようなフットワークの軽い人だったが、副所長などから、
「署長なんですから、なるべくは署の内部にいてください」
と言われて、
「すまんすまん。だが、君がしっかりしてくれているので、留守を任せらるからね。それがありがたく思って、私が甘えてしまっているんだね。気を付けることにしよう」
と今気づいたかのようにいうが、さすがにそう言われると副所長の、
「いえ、そういっていただければ光栄です」
とそれ以上言い返すことができなくなっていたのだが、これは、テレビの二時間サスペンスなどで、署長をテーマにしたドラマによく見られる光景だが、
「そんなドラマのようなことが行われているわけはないだろう」
と思っておられる読者の方も多いでしょうが、信じる信じないは、読者の方の判断にお任せすることにいたしましょう。
とにかく、署長からして変わり種の人なので、さぞや刑事課も変わった人が多いかと思いきや、実にオーソドックスな刑事が多いようだ。
だが、検挙率の高さは県警内の中でもトップクラス。全国で見ても、引けを取らないくらいであった。
捜査に関してはオーソドックスであったが、彼らには推理をする力があった。つまり、彼らの長所は、
「目の付け所が違う」
ということであろうか、その観点から、捜査における証拠や証言なども的確につかむことができるのも、推理を有利にならしめる理由の一つである。
先輩のさばけた捜査を見てきた後輩も、次第にそのやり方が自分の身体に沁みついてきたのか。元々の頭の良さとうまく噛み合うことで、捜査に無駄もなく、スムーズにいくのだ。
彼らの考えの一つに、
「初動捜査の遅れが後になって大きく響いてくる」
という考えがある、
作品名:脳内アナフィラキシーショック 作家名:森本晃次