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脳内アナフィラキシーショック

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「ああ、そうだよ。問題があるわけではないが、他の人とは若干違っていて、他の人にはない力を出すことができる。ただ、これはいわゆる超能力と同じで、自分の中に潜在している能力が引き出されているだけで、媒体を利用しているので、念のために、本当に問題がないかということを調べているところなんだ。だけど、一つだけ今までに分かったことを忠告しておくと、君の持っている力は、今はまだ中途半端なものなので、決して過信をしてはいけないと思う。自分の意志とは違う結果を、その力が引き出すことになるかも知れないけど、だからと言って、それをすべて信用することのないようにしてほしい。あくまでも自分の思っていることに逆らうようなことはなく、力で分かったことは参考程度にしてほしいんだ。これが私の君に対しての要望だと思ってほしい。そして、もし何かちょっとでも気になることや、何かに迷いそうなことがあれば、いつでも私に言ってほしい。下手に迷って出した結論が間違っていた場合、取り返しのつかないことが往々にして起こったりする。私はそれが怖いんだ」
 と先生は言った。
「分かりました。ところで僕が今の段階で感じているのは、先生のおっしゃった超能力というようなものは、何かの予知能力のようなものではないかと思うんですが、違うでしょうか?」
 というと、
「ああ、そうだよ。その力は君だからこそ許される力なんだ。他の人も持ってはいるんだが、それを使うことを許されていない。だから表に出てくることはないし、人間は基本的に予知能力を使うことのできない動物で、もしそれを使うことができれば、それを超能力と呼ぶのだと思っているんだろうね。でも、実際には、予知能力というものを持っている動物は他にもたくさんいるんだよ。だけど、人間にはそれが分からない。唯一分かるかも知れないこととして、動物によっては、自分の死期が分かったりするというだろう? 死を感じた動物が、自分の死ぬところを見られたくないという思いから一人孤独に死んでいくという発想だね。あれは人間にだってあるんだ。そして、自分の死期を実際には悟っているんだけど、それでも、それを錯覚だと皆思いたいんだろうね。だから、せっかく力を持っていても、否定しようとする。もっとも、それが現実なら、もう自分の命が燃え尽きるのが分かってしまった証拠なので、普通であれば、何もやる気も起こらないだろう。そこで、欲というものに対しても淡白になり、そこまで来ると、感情はあってないようなものになるんだろうね。実に皮肉なものではないだろうか?」
 と先生は言った。
「そんな力って、本当に皮肉なものですよね。人間知らない方がいいこともあるって思ってしまう。じゃあ、僕もこの能力を持ったことで、死が近づけば分かるんだろうか?」
 と聞いたが、
「今だって、その気になれば、想像することはできる。だけど、潜在意識は、そんなもの知りたくないと思っているから、決してすることはないんだろうけどね。でも人によってはそれでも潜在意識にもまして、知りたいと思う人はいるようで、その人は結局それを知ってしまい、急にやる気をなくして、何もできなくなるか、逆に、生きている間に、欲望だけを表に出して、生きようと思うだろうね。しょせんそういう人に限って、寿命は短いものだし、やりたいことが犯罪であっても関係ないと思うんじゃないかな? 人間というのは、死という終着点が自分で見えてしまうと、究極の選択をするものであって、
「何もやる気をなくしてしまって、ただ死を待つだけの放心状態になるか、それとも、どうせ死ぬのだから、この世で思い残すことのないように欲望のままに人生をまっとうするか?」
 という二択になるのではないだろうか?
 欲望のままに生きるということは、法律や人間関係などは、優先順位としては低いもので、あくまでも、優先順位は、
「自分の欲望」
 である。
 そこには、倫理も秩序も存在しない。犯罪であろうが、相手がどうなろうが関係ない。まるで知らない人が見れば(知っている人など誰もいないという前提であるが)、
「気が狂ったのではないか?」
 と感じることであろう。
 今まで誰かに迫害されていたとすれば、その人への復讐、最悪殺人も考えることだろうし、好きな人がいて、その人が自分のことを毛嫌いしていると思えば、浚ってきて、監禁し、今までの自分に対しての思いを、相手の屈辱感で償ってもらうかのように感じることだろう。
 もし、自分がSでなかったとしても、ほとんどの人間が、S性か、M性を持っていて、人によっては、その両方を使い分けることができるとすれば、今までM性だけを表に出していた人はその反動から、自分の死期が分かれば、S性を前面に押し出して、
「こいつの屈辱感を最高の慰めとして、俺は自分の生きた証をこの世に残すことができるんだ」
 という思いの元、後はやりたい放題になるのではないだろうか。
 どうせ、警察に逮捕されたとしてもやりたいことをやり通した自分は、そのまま監獄死したとしても、本望だと思うことだろう。
 そんなことを妄想していると、先生の言っていることが分かってきた気がしたが、先生としては、高杉がそこまで考えているということを、最初から分かっていたのであろうか?
 もし分かっているとすれば、先生のこの研究の向いている方向はどっちだと言えるのだろう? これが先生の、
「ご乱心」
 だとすると、どういうことになるのか?
 高杉は、何となく全貌が見えてきそうだが、最後はベールに包まれている最終結論を見ることができず、やきもきしていた。
 それから最後の日になると、さすがに検査にも疲れてきた。何度も意識を失ったり戻ったりするのは結構楽でもない。そのことを先生にいうと、
「実は、門倉君に話をして、君の復帰を二日遅らせてもらっているんだよ。だから、まだ三日は何もかも忘れていても構わないんだ。検査の方は今日で終わるんだけど、あと二日、ここで入院していても構わないし、退院しても構わないが、どうするね? 私はここにいるのもいいのではないかと思うんだ。別に何かがあるというわけではないが、私に聞きたいことがあればと思ってね」
 と先生は言った。
「じゃあ、後一日だけ、病院にいて、もう一日は家に帰るというのはありですか?」
 というと、
「それはもちろん、高杉さんの自由ですよ」
 ということだった。
 高杉は、先生の意見をなるべく聞きたいと思ったのだ。先生の話では検査の結果が分かるまでに、一週間近くかかるということであったが、高杉には先生にはすべてを分かっていて、その結果は裏付け取りに過ぎないということは分かっているつもりだった。
 高杉は、ここに入院中に何度、意識を失うような検査をしただろうか? 中には苦痛を伴うかも知れないと言われた検査もあったが、看護婦さんがいうほど苦痛な検査はなかった。それよりも、二日間入院してきて、何度も意識が遠のいたりするのを感じていると、まるで今まで見て、忘れていた夢を取り戻しているかのような気がしてくるから不思議だった。
 もし、この検査を知らない人、医療従事者の人が見ると、ひょっとすると、やめるように先生を諭しているかも知れないと感じるほどのものであった。