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尊厳死の意味

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 その内容としては、送ってくれた原稿を、必ずすべて見されていただいて、評価をこちらで下して、出版案を提示するというものだった。その出版案には三つあり、一つは最優秀作品と認定されたものには、全額出版社が持ち出版するという「企画出版」、そしてもう一つは、優秀な作品であるが、お互いに、つまり出版社と筆者が出版費用を折半して、製作する。ただ、どちらも、有名書店に一定期間置くということにするというのが「共同出版(出版社によって呼び方は微妙に異なる)」、そして最後は、残念ながら、本屋に置くことのできないものなので、従来のような趣味としての自費出版という三つである。
 筆者にとってはありがたいものだった。それまでは持ち込んでも、秒でゴミ箱行きだったものを、出版社の営業が内容を読んで、批評迄して返してくれる。これだけでもありがたいことだった。
 ただ、そのせいで、原稿を送った人間は完全に騙されるのだ。
「今までにはない、何とも善良な出版社が出現したんだ」
 ということで、バブルが弾けて書き始めた人には、それまでの業界を知らないので、これが当たり前だと思っている人も多かったかも知れないが、最初からありがたいシステムには、感動ものだったことだろう。
 誠也のおじさんがその頃のことを知っていて、よく話をしてくれた。あまり親戚はいないが、その中で子供の頃から時々構ってくれていたのが、この人だった。
 この人には父親に対しての不満も聞いてもらったことがあったりしたので、誠也のことは分かってくれている。性格的にも似たところがあるからなのか、結構仲良くやれていると思っている。今は年齢も五十歳近くにはなっているが、まだまだいろいろなことに挑戦したいようで、多趣味であることに変わりはなかった。
 そのおじさんの話としては。おじさんも小説を書き始めたのは、ちょうど皆と同じころだったという。ただ、以前から書きたいという意思はあったが、なかなかうまくいかなかったのも事実であるが、少なくとも、
「何か安くできる趣味はないか?」
 というだけで、創設を書き始めた連中と自分は違うのだという意識だけは持っていた。
 小説を書いては自費出版社に送った。原稿用紙で五十枚ちょっとくらいの短編を、三作品くらいにして、短編集として、出版社に送ったという。
 ちゃんと、批評も書かれていた。A4用紙にワープロで四枚くらいに書かれていた内容は、悪いところもちゃんと書いてあったという。その悪いところをどのように注意すればいいかというアドバイスを含めて、概ね褒めちぎっているないようだが、送るたびに、共同出版の壁を超えることはできない。
 さらに年に二回ほどのコンクールを出版社ごとに開いているので、応募も可能だ。
 しかも、有名出版社の新人賞のように、文字数制限などもなく、ポエムなどでも参加ができるということで、応募数はハンパがなかった。
 有名出版社の新人賞は三百近くの応募が一般的だったのに比べ、自費出版社によるコンテストは、一万に届くのではないかと思われるほどの応募数だった。
 考えてみれば、それだけの数の中から自分のものが選ばれるわけもない。
 ただ一つ言えることは、作品には、ピンからキリ目であるということだった。
 当然、有名出版社で新人賞を取るだけの作品レベルもあったであろうし、小説を書いたなどというだけでも恥ずかしくなるような作品もあるという。それは文章のうまい下手に限らず、
「応募するには、最低限のレベル」
 というものが存在しているだろう。
 その最低限のレベルに達していない作品。それは誤字脱字が目立つなどというレベルではなく、最初から小説としての体裁をなしていないもの。例えば。段落が変わってからの一字下げを行っていないであったり、感嘆詞の後ろに一つ空白がいるであったり、句読点が改行後の頭に来ないなどといった禁則文字の扱い方すらできていない作品である。
 そんな作品が大半を示しているということなので、ほぼ、一次審査を通過することはない。ひょっとすると、内容は新人賞クラスなのかも知れないが、それ以前でふるいにかけられるのだ。
 有名出版社の審査がそうである。
 基本的には、一次審査、二次審査、最終選考という流れであろうが、一次審査を行うのは、いわゆる
「下読みのプロ」
 と呼ばれる人のようだ。
 彼らは内容を読むのではなく、前述のような体裁だけを見て、審査する。そもそも下読みのプロと呼ばれる人たちは、一度作家としてプロになったはいいが、第一作で売れたとしても、その後がなかなか売れずに、他のアルバイトで生計を立てているような人たちで、この一次審査もアルバイトのようなもので、一応、プロとして見ているという点が、素人ではないので、審査の体裁は保てているのだろう。
 自費出版社の審査がどのようなものかは分からないが、応募件数が数十倍もあるので、それこそ、ほとんどみられることもなく、審査から外れた作品も少なくはないだろう。まさかくじ引きなどで決めていたわけではないとは思うが。応募件数を審査できるほどのキャパシティではないと思われるので、審査に対しての信憑性はあってないようなものだったのだろう。
 それでも、個人個人に評価をつけて返していた。それはすごいと思ったが、そこからが出版社側の本当の目的である。
「本にしませんか?」
 ということで、協力出版を申し込んでくるという営業方針に沿った勧誘が始まるのだった。
 それからも作品ができれば、投稿を繰り返していた。最近では自分に担当がついたということで、勧誘の電話もかかってくるようになり、実際に会話もするようになった。アマチュアとはいえ、自分に担当がつくというのは、どうやら嬉しいことだったらしい。
 しかし、相手とすれば、こう何度も出版を促して、協力出版をお願いしても、
「企画出版を夢見て、原稿を送り続けます」
 と言い続けてきたが、さすがに相手も業を煮やしてくるようで、
「仏の顔も三度」
 とでもいうような状態になってきたという。
 そもそも、以前協力出版の見積もりを見て、どう考えてもおかしいと思ったことを質問したことがあったという。それは、自分の出す本が定価千円のものを千冊作成するというないようであったが、筆者である自分に対して要求してきた額が、百五十万円であったことだ。
「百万円でできるものをどうして、こちらがさらに上乗せした額を支払わなければいけないんですか?」
 と聞くと、
「本屋においてもらうためと、在庫を持った時の倉庫代が必要だから」
 と言われたのだが、それにしてもおかしい。
「定価というのは、それもすべて含めたうえで決めるものじゃないんですか?」
 と聞くと、さらに訳の分からない言い訳を言い出したので、こちらから話を打ち切ったという。その時から、
――まじで、企画出版でなければ、出版はしない――
 と感じた。
 つまり、出版に関して一銭も払うつもりはないという気持ちが確定した瞬間だったということだ。
 そこへ持ってきての出版社の方がキレてきたのだ。
「今までは。私があなたの担当として、あなたを優遇して出版会議に出してきましたが、それも今回が最後です」
 と言い出したのだ。
作品名:尊厳死の意味 作家名:森本晃次