神の輪廻転生
「ええ、知っているわ。友達くらいの関係になれば、皆セックスはするもの。それが友達としての証の儀式のような感覚かしら? そこで身体の相性も合えば彼氏にもなるかも知れないわね。そもそも、どうしてセックスを悪いことの代表のようになったのか、それって不思議よね。だって、セックスって、子孫を残すための重要な儀式でしょう? もちろん、それだけではないけど。でも、そんな神聖な儀式を悪いことのようにしている世界の意味が私には分からない。私たちのように、世襲を意識していない考えなのに。セックスを神聖に感じているのに、家系存続という意味まで背負わされている世界で、そのために行うセックスをどうして神聖な儀式として考えないのか、それが不思議、性犯罪が起こるからと言っているんだったら、それこそ本末転倒じゃない? 性犯罪が起こるのは、未成年者にそういう知識を植え付けないからであって、中途半端な知識、つまり学校で習うわけではない、偏った知識を先輩などから植え付けられたことで生まれてくる変な性教育の知識が犯罪を招くわけじゃない・これだから、結局、負のスパイラルを描くだけで、いい方向には決して転じることはない。だから、性犯罪がこっちの世界では蔓延していて、誰にも抑えることができないものになった。それを強引に抑えようとすると、結局……って感覚に陥ってしまうでしょうね」
と里穂は言った。
「私もその意見に賛成なんだけど、でも、こっちの世界はもうそんな血靴は通用しないような世界になってしまっているのよね。今の里穂さんの話が完全に理想論でしかなく、まったく現実味がない。きっと共感は得られても、まわりからは、『何を戯言を言っているのよ』って言われるのがオチなんでしょうね」
とまりえは言った。
「そう、その通りなのよ。でもね、私はどっちも極端だと思うの。私のいる世界だって、いつ何が起こるか分からない。もし、少しでも今の体勢の中で厳しくなることがあるとすれば、ちなみにその厳しいというのは、あなたたちの世界に近づく厳しさね。それがあるとすれば、きっと暴動が起きるくらいのことになるかも知れない。今まではまわりから縛られることはなく、そのため、個人の尊厳が一番だった。だから、犯罪というと、他人の個人の尊厳を壊す可能性のあることをしようとしたり、してしまうと、問答無用で罪に問われるのよ」
と里穂はいう・
「それって、私には想像できないんだけど、何かその人の尊厳を妨げたり壊したりするという言葉が曖昧に聞こえるんだけど、そのあたりの裏付けというか、どこからが壊したことになるのかという線引きってしっかりしているのかしら?」
とまりえが言った。
「法典に載っていることなので、問題はその解釈なのよね。だから、その解釈を巡って。いつも論争が起こっているわ」
と里穂が言った。
「それはそうでしょうね。こっちの世界でも裁判になると、その凡例であったり、裁判官の解釈によって、いろいろな判決が起こってくる。これは、主観的に見るか、客観的に見るかで変わってくるものでもあるので、本当に難しいんじゃないかって思うわ」
「法律の解釈もそうなんだけど、問題は個人の尊厳という考え方よね。たぶん、あなたたちの世界では、裁判の前提として、公共の福祉、善良な風俗という公序良俗という考え方があって、個人の尊厳の前に、まずは社会にどれほどの影響を与えたかということが問題になるでしょう?」
と里穂が言った。
「どういうこと?」
「例えば、誰かが殺された裁判として、殺した人や殺された人が社会的な立場としてどういう人かということで罪の重さが変わってくるということ。殺された人が政治家や芸能人などであれば、一般人が殺されるよりも、社会的影響が大きいとして罪が重くなったりするんじゃない? 逆に殺人者が有名人である場合も同じ。これは社会に与える影響を裁判が考慮している証拠よね? もっと他にもあるかど」
「もっと他というのは?」
「それは、肉親に対しての犯罪などよね。自分の親を殺したり、親が子供を殺したりすれば、罪が重くなるのも周知のことじゃなくって?」
と里穂は言った。
「ええ、そうね。でもそれって当たり前のことなんじゃない? 相手が有名人という考えとは違うんじゃないかしら?」
という里穂に対して、
「どうしてなの? だって、相手は近親者なのよ。家族が相手なら、罪が重くなって当然ではないのかしら?」
とまりえは答えたが。
「あなたは私の言っていることを反復して、疑問を投げかけているだけよね。つまり、老理的な回答が頭の中にないということよね?」
と言われて。まりえは、ぐうの音も出なかった。
「そうなのよ。この世界は家族や血の繋がりというものに、私たちから見れば異常なほど固執している。どうしてなの? そんなに血の繋がりが濃いと思っているの? だったら、どうして、家族で殺し合うようなことが起こるの? 私たちの世界では、この世界のように家族を特別扱いしない。家族と言っても、血がつながっている他人でしかないのよ。でも、殺人なんてほとんど発生しない。どうしてなんでしょうね?」
と、里穂もその理由は分からないようだが、少なくとも、こちらの世界の家族の繋がりという発想には、まったく想像もつかないようであった。
「確かに私も親に対してはあまり他の家族ほど感じるものがあるわけではないけど、さっくの質問に何も疑問は感じなかったわ。それだけこの世界の常識を常識として思い込まされているということなのかしら?」
とまりえは言った。
「そうね。思い込まされるというよりも、他の世界を知らないということで、この世界にあることがすべてだと思っていることが原因なんでしょうね。それは、他の世界にも言えることだけど」
と里穂は言った。
里穂の思惑
「里穂さんのいうほ科の世界って、どういう世界なの? もう一人の自分が無数にいるなんて考えられない」
とまりえがいうと、
「そうね。本当は他の世界のことをあまり話すのはいけないことなんだけど、少しくらいならいいかも知れないわね」
と里穂は言って、少し時間をかけて、話し始めた。
「他の世界はね。いろいろあるのよ。真っ暗な世界もあれば、火が沈まない世界もある。とにかくあなたには想像もつかない世界と言ってもいいわね。だから、聞いても無駄と言っておきましょうか」
と、里穂は答えた。
まりえも、そんな具体的な答えを望んでいるわけではない。
「もし、自分が理解できるくらいのことが、彼女に話せるのであれば」
という程度のことだったのだ。
「鏡のような世界と認識しておきましょうかね」
というと、
「そうね、この世界を映すという意味でいけば、それもありなのかも知れないわね」
と里穂は言った。