神の輪廻転生
ただ、これもここ十年くらいの間で確立されたもので、それまでは紆余曲折があった。
それでも今のこの世界は、他の世界から見れば、政府としても社会としても、まるで桃源郷を思わせる理想郷と言えるのではないだろうか。
今は、お試し期間が好きた後の安定期に入っていて、さらにここからもっと社会に根付かせる世界になっていくことを望んでいるという世界であった。
だが、どんな世界にも見えていない綻びというのはあるであろう。まだ誰も気付いていないが、さすがにこんな有頂天な世界がいつまで続くのかという漠然とした不安はあるようだ。
ただ、具体的にどう思うかということが分かっていないだけで、果たしてどうなるのかは、
「神のみぞ知る」
というところであろうか。
そういう意味で、新興宗教が多いのもこの世界の特徴だった。これが一番の問題なのだが、世の中というのは、有頂天になればなるほど、世の中に対して、余計な不安を持つ人が増えたのも事実だ。
しかも、この時代というのは、いろいろな意味での過渡期でもある。そうなると、不安が蓄積されるのも仕方のないことだろう。
そういうところに、新興宗教が入り込んできた。詐欺まがいのところも多く。いや、詐欺に塗れた宗教団体と言ってもいいくらいの時代背景に後押しされた団体なので、社会を悪しき意味で反映していると言っても過言ではないだろう。
ほとんどの人は神様の存在を信じている。実際に神様が存在することを理解している人もいるのだが、理解できていない人もたくさんいる。そんな人たちが神を求めて入信してしまい、彼らの心を巧みに利用し、神というものを彼らの意志で捏造するのだ。
そもそも神の存在を一番信じていないのが宗教団体で、信じていればこんな宗教を始めることもないし、人を騙すことに、何ら疑問を感じないというような、人間としての感覚がマヒしてしまったような団体はできあがらないだろう。
お金を貯め込んだ老人をターゲットにしたり、宗教の名を借りたテロ行為なども頻繁に起こっていた。今の世の中での一番の問題で、社会悪だった。
警察も宗教団体専門の部署もできあがっていて、内偵を進めたりはしているのだが、何しろ法律にそんな宗教をただすだけのものはなかった。
それでも、何とか後追いにはなっているが、法律も次第に充実してきて、いくつかの宗教団体を封じ込めることはできたが、、大きな団体のいくつかは、そうもいかなかった。
そんなやつらの言い分としては、
「こんな甘ったるい世界にいては、人間が腐ってしまう。他の世界にはもっと自由な世界があり、自由競争によって、もっともっと豊かな世界が存在する」
というのである。
それが今の読者のいる世界の民主主義であり、中途半端な世界であった。
先ほど言い忘れたが、民主主義が問題なところは、
「何かを決める時の最終決定法が、多数決にあるところだ」
ということである。
一見、公平に見えるが、いい悪いを問題にするのではなく、多数意見だけを組み込むことになるのだ。本来であれば、決を取る人間たちに、決を採るまでに、最大に情報を提供しなければいけないのだが、中途半端にしか提供しなかったり、自分たちの意見を通したいがために、反対意見を出そうとする相手に圧力をかけて、決を採る人間を盲目にしてしまうということだってある。
それが不平等を作り出すことになり、本当は正しい意見を訊けなかった人たちが間違った多数決によって、世の中を間違った方向に導こうとする。
それが次第にファシズムを生み出したり、ひどい時には独裁政治を許すことになったりするのだ。
社会主義のように、そんな民主主義の限界を突破するためには、
「自由競争を辞めて。多数決をやめる」
という考え方が基本となることで、
「自由競争の代わりに、産業を国営化し、競争の代わりに、国家が厳重に取り仕切る。多数決の代わりに、国家元首が君臨することで、考えを一つにする」
という国家がすべてにおいて介入してくるという考えである。
民主主義にとって、いや、民主主義を隠れ蓑にして、利益を得ている一部の特権階級の人たちにとっては、その考えは脅威である。
貧しい人間にはどんどん貧しくなってもらい、自分たちだけが栄えればいいという考えの元に形成される世界では、社会主義を悪として、徹底的に撲殺しなければいけない相手だった。
しかも、極秘裏に行うのではなく。国民に対して、
「だから、社会主義というのはいけないんだ」
ということを証明することで、自分たちの立場を絶対的なものにしようという考えである。
それこそ、社会主義は、自分たち民主主義を隠れ蓑にした特権階級にとっての敵だということを知らしめて、自分たちが征伐したのだということを宣伝する必要があるのだ。
そうやって国民を欺き自分たちの立場を盤石なものとする。そんな世界が他の世界に存在しているということも事実であった。
今のこの世界も宗教団体の台頭によって、その危機が迫っているとも言える。彼らは自分たちが他の世界でいう、
「特権階級」
となり、この世界を裏から操りたいという野望を持っている。
そのためには、兵隊や武器が必要であり、第一段階として、金が必要だというわけだ。
だから、金を設けるためには、人民を騙す詐欺行為も辞さない。悪いことだと思うことなく社会を操ることは、彼らにとって必要不可欠であり、それが彼らにとっての正義であるのだ。
いいところばかりではない里穂の世界でがあったが、まだそのことにほとんどの国民が気付いていなかった。まだまだ桃源郷だと思っている人がたくさんいることが、この世界の一番の問題点だった。
まりえの世界
桃源郷のような世界で育っている里穂とはまったく違った性格である女性が、
「もう一人の里穂」
として生活している世界があった。
この世界は、民主主義が体制として確立されているところであり、前章でのいわゆる、
「他の世界」
として紹介された世界の代表的な世界であった。
彼女の名前はまりえ、桜木まりえという。
まりえは、大人しい性格で、学校では友達も少ないわけではないので、結構話をする友達が多いのだが、決して自分から話をする方ではなく、話しかけられるとうまく会話ができることで、まわりもまりえが、話しかけられなければ自分からは話すことはないという女の子だとは気付いていないようだった。
趣味が読書というだけあって、いろいろな知識を持っていることで、話の内容も幅広くしかも、深く知っているので、その豊富な話題から、話し始めると結構長く話していることが多かった。
だが、彼女は少し不思議な感性を持っている。
「私、別の世界の人と話したことがあるのy」
という。
「別の世界というのは?」
と聞くと、
「同じ時代の別の可能性を持った、別次元の世界のことね」
「それってパラレルワールド的な?」
と聞かれたので。
「正確には違うんだけど、そういう感じだと思ってくれていいと思うわ」
とまりえは言った。
「どんな話をしたの?」