神の輪廻転生
そう思うと、不倫や二股だって、勝ち取ったというそれがたとえ略奪であっても、仕方のないことではないだろうか。
確かに、黙って行うのはアンフェアかも知れない。だったら、公表して、こそこそとしなければいいのではないか、それで彼が屈辱に耐えられないというのであれば、別れればいいのだ。その方がよほどフェアだと思うが違うだろうか。
このあたりのことを、神の私が決めることはできない。あくまでも人間社会の中での秩序であり、しかも、神の力の及ばない別世界のお話なのだからである。
二股や不倫を、本当に悪いことだと、別の世界の人間も思っているかどうか、疑問である。
「まわり皆がそういうのだから、きっとそうなんでしょう」
というくらいに、自分の意見を表に出さずに、流れに任せた意見しか言えない人も多いことだろう。それは実はかなり卑怯なことであり、そう思うのは、自然なことではないだろうか。
何が秘境なのかというと、自分の意見を持っていないというのは、里穂の世界では罪であり、基本、皆自分の意見を表に出して生きることが習慣となっている世界であった。
何も里穂の世界は、他の世界の嫌なところを克服してくれる、
「桃源郷」
ではない。
確かに世界としての理想ではあるが、それはあくまでも、
「世界として」
ということだ。
つまりは、人間一人一人の理想を追い続けて出来上がった世界ではない。もちろん、人間が望んでいることを踏襲したうえで出来上がった世界であるが、すべての人間を網羅したり満足させられるようなものができるなど、ありえることではないからだ。
そうなると、どこかで人間として、自己主張をハッキリとしなければいけないだろう。そうなると、世の中すべての人間が気持ちをオープンにするというだけで、解決することであった、
いまさら他の世界にそれを求めることは不可能だ。だから、どんなに頑張っても里穂の世界のような理想の世界を作ることはできない。だから、憧れの世界を想像するしかないのだが、それを理想の国として人に押し付けるのが、カルト集団というものだった。
他の世界では、そんな悪が蔓延る世の中をどうにかしたいという人もたくさんいる。里穂の世界の人間が積極的にそんな世界のもう一人の自分として助言ができるようになれば、別世界の一つの大きな事件を防ぐことができ、徐々にであるが、自分たちの理想に近づいているということが分かるようになるのではないかと思えるのだ。
里穂がまりえに、
「一人を愛することができるようになるには、どうすればいいのか?」
という話を訊きたいだけだったが、まりえと話をしているうちに、それまで気付かなかったことにたくさん気付いた気がした。
それは、自分の世界とまりえの世界の違いであったり、共通点であったりもそうなのだが、もっとピンポイントに、自分のことが分かってくるようになってきたというのが、本音であった。
里穂は、そんな自分が、今まで生きてきて、一番好きだと思うようになっていたのだった。
大団円
今のこの世の中で、まりえや里穂、そして豊や山口を見てきたが、この四人が、それぞれの世界で、今後は中心になっていくのではないかと私は考えるようになった。
いや、私が注目しているのは、
「それぞれの世界で、今後、世界の中心にいるようなカップルを探す」
ということを考えていたからだ。
お互いにもう一人の自分なのだから、もう一人の自分同士がそれぞれの世界で結び付くというのは当然のことで、まりえと豊、里穂と山口は当然のように結びついた。
しかし、里穂の方は、この世界の考え方に踏襲しているのか、二股三股と、たくさんの彼を持っている。それを男も嫉妬してはいけないという法律はないが、慣習があることで、どうしようもないことであった。
だが、神である私は、里穂と山口を一緒にしなければいけないことを自覚していた。
一緒にしなければいけないというのは義務というわけではなく、あくまでも自分の理想として考えた場合ということが大前提であった。
二人の世界で広がっているその思いは、他の神もきっと分かっていないだろう。むしろ、人間の方が分かるかも知れない。だから、最近までは、この世界でも、神の存在はあくまでもフィクションだったのだ。
だが、神を信じる人が少なからずいなければ、意志疎通ができないことで、神の力をいかんなく発揮できないということもあり、特別な人間として、選ばれていた人は存在したのだ。
それが里穂でも山口でもない人物だったことで、二人が神の存在を信じ、この私を神だと思ってくれたのは最近のことだった。
とにかく私は、里穂と山口には一緒になってもらいたい。その一心は間違いのないもので、それを運命として、二人がいつ気付いてくれるかを考えていた。
私は里穂よりもむしろお、山口の方が気になるのだ。
里穂はきっと、
「私のことを真剣に愛してくれて、覚悟を示してくれる人は山口なんだろう」
と思っている。
それは最初から思っていたわけではない、最初から思っていれば、こんなに長く、数人と付き合うことはないだろう。それを続けてきたのは、なかなか一人に決められない優柔不断さが自分にあると思ったからだろう。
だが、そのうちに、自分の好きな相手が最初はおぼろげだったが分かってくるようになってきた。
そして、その確認の意味と、自分で覚悟を決めるために、どうすれば円満でいられるかということを、まりえに話を訊いて確かめたかったというところが真実であった。
里穂にとって、その気持ちはとても大切で、まりえに聞けた話と、豊に話が聞けた山口も、里穂にとっては願ったり叶ったりだったのだ。
私はほっと胸を撫でおろした。
少なくとも、ここまでは私の思惑通りであり、里穂も山口も徐々に近づいていた。
その頃、まりえの世界では、まりえと豊が結婚していた。結婚してすぐに子供を授かって、
「私、早く子供がほしい」
と言っていたまりえにとって都合のいい人生を迎えていた。
子供を早く作ることには賛成であった山口なので、子供ができたことは、これほど嬉しいことはなかった。
「まりえ、おめでとう」
と里穂は、自分の世界から、まりえに声をかけていた、
里穂とすれば、もうまりえに聞くこともなくなったこともあって、これから先はまりえの夢には出てこないようにしようと思った。まりえには、独自の幸せを掴んでほしかったからだ。
山口も同じ気持ちなのか、豊の夢にあれから現れていない。里穂と山口、そういう意味では理想のカップルだと言えるだろう。
「これが私の将来の姿」
ということで、里穂はまりえのウエディングドレス姿を目に焼き付けていた。
里穂の世界では、結婚すると言っても、結婚式や披露宴のようなものはない。実にアッサリとしたものであった。
まりえの顔は美しかった。最初は、可愛いという印象が強かったまりえだったが、その可愛さが消えることなく、美しさが加わったという感じだろう。
「好きな人ができると、女性って本当に綺麗になるんだな」
と感じ、それを呟いた時、後ろから声をかけてきた男性がいた。